カルテ637 怪球カマグ(前編) その25
「しかし、別に何も落胆することはないぞ。こいつは使いようによっては銀をも超えた価値を内に秘めておるやもしれん。ま、試してみなければわからんがな。貴様の言う通り、あれは錬金術以上の存在だ。今日はよく働いてくれたし、珍しい発見もあったので、銀塊とはいかんが褒美をはずんでやるとしよう」
彼女は球体カマグとの一件のあった日のグラマリール学院長とのやり取りを思い浮かべる。あの後符学院に戻ると彼は約束通り、彼女を学院長室に招いて奇妙な茶色の豆をくれた。
「褒美って……これですか? 失礼ですけど私、豆はあまり好きではないんですが……」
「相変わらずとんちんかんだな。これはジャヌビア王国などの南国でとれる大変貴重なコピ豆だが、食べるものではなく、すり潰して湯をかけて濾して飲むものだ」
「すごく面倒そうですね……お茶とかの方がまだ楽じゃないですか?」
「確かに手間がかかる代物だが、その分の見返りは十分ある。この芳醇な香りを嗅げば、誰でも誘惑され、褒めたたえること必定だ」
「……なんかヤバい薬じゃないんですか、それ?」
「失礼なことを言うな! まあ何事も経験だ。入れてやるからそこで座って待っていろ」
不安な彼女の視線を無視すると偉大なる学院長はすり潰した豆を手に、自ら薬缶のお湯を注いで何やら錬金術師のような仕草で作業し、一杯の飲み物を入れてくれた。彼の言った通り、部屋中になんとも蠱惑的な香りが充満し、気づけば彼女はコップに口を付けていた。
「……けっこう苦いですね、これ。でもそれだけじゃない不思議な味わいです」
「誰でも最初は苦く感じるものだが、そこまでわかるとは大したものだ。これは滋養強壮効果があり、疲れている時などは非常に効力を発揮する優れモノだ。特別にわけてやろう」
「い、いいんですか、そんな大事な品を!?」
「普段はあまり人にくれてやらんが今回だけは特別だ。ありがたく思うが良い。もっとも飲み過ぎないようにな」
「はっ!」
こうして彼女はその飲み物の虜となった。




