カルテ618 怪球カマグ(前編) その6
「でででででででもそれほどの規格外の化け物を、一体どうやって倒すんですか?」
「だからうろたえるなと言っておろう、こうするのだ。 テグレトール!」
部下をいさめながら、再び学院長が先ほどと同じ護符を構えたまま詠唱する。札のほのかな光輝と共に、今度は殺気立ったカミナリ鳥ではなく、無数の小石が出現し、宙を切って異形の球体に、天空から降り注ぐ隕石群のごとく襲来する。しかし浮遊能力をも有する怪物は避けようともせず、悠然と青空に君臨したままだった。
「ああっ……」
顛末を見守る部下が、思わず嘆息する。怪球は無数の触手を四方八方に広げると、コマの様に体を激しく回転させ、旋風を発生させた。石つぶてはある物は突風に吹き飛ばされ、ある物は触手にはじかれて茂みに落下していく。
「ふむ……一つはっきりしたのは、銀化を引き起こすのは動物に対してだけで、無生物には効果がないということだな。しかしこの程度の攻撃では傷つきもせんか。想像以上に頑丈だな」
並ぶ者無きグラマリールは護符を持っていない方の手を顎に当て、長考に入る。その様子は傍から見ると楽しんでいるかのようでもあった。
「感心している場合ですか、学院長殿! 早くなんとかしないとこっちが大変なことになりますよ!……って、なんだかさっきよりもあいつ、心なしか小さくなっていませんか?」
「小さくなるわけがあるか、馬鹿者。徐々に高く昇り、遠ざかっているだけだ」
「えええええええええっ!?」
いみじくもグラマリールの指摘する通り、いつの間にか謎の球体は少しずつ高度を上げ、天に向かって近づいていった。地上の二人から見て位置がちょうど太陽と被っているため、眩しいことこの上ない。
「め、目が焼けるうううう!」
「無理して目視しようとするな。まったく抜け目のない魔獣だな。あちらが優位なうちにさっさと退散する腹積もりだろう」
「い、いいんですか、学院長殿! あんな危険なやつを逃がして、野放しにしてしまっても!?」
「まあ、別に構わんさ。力尽くで捕らえて連れ帰るにはちと骨が折れるし、この場で殺すよりも、むしろこのまま生かしておいた方が、何かと役に立つだろうしな、フフ……」
銀の仮面の下で、グラマリール学院長は悪魔の笑みを浮かべた。




