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カルテ615 怪球カマグ(前編) その3

「魔獣……ですか?それにしては何も見えませんけど」


「観察力が欠片もないな。現在風がないのにあの奥の辺りだけ、微妙にざわめいている。何者かが潜伏している証左だ」


「な……なるほど。でも、何故それが魔獣だとわかるんですか?」


「だからその両目は飾りか? 木々や葉や茂みなどの揺れ動く範囲がやけに広く、人間の手の届く高さではないところまで震えている」


「は……はあ。でもひょっとしたら大型の野生動物か何かかもしれないのでは?」


「この周辺の地域にあそこまで大きなものは存在しない。また、魔獣は魔力に敏感なものが多い。我が強大な魔力に感づいたのやもしれぬ。これ以上説明が必要か?」


「い、いえ、滅相も御座いません! お許しを!」


 質問される毎に徐々に鋭くなるグラマリールの眼光に射すくめられ、愚かな部下は平伏した。


「わかればよい。ま、状況から察するに、姿を隠しているそやつこそがこの珍現象を引き起こした主であろう。むやみに近づくのは考え物だな」


「で、ではどのように対処すれば……?」


 顎に手を当て考える尊大な学院長に向かって、部下はこれ以上機嫌を損ねないように恐る恐る尋ねる。


「決まっておるわ。先手必勝よ! テトラカイン!」


 電光石火の早業で再び懐から取り脱した、乱雑に混ざった絵の具のような、なんとも形容しがたい汚い色の護符を構え、グラマリールは高々と解呪を唱えた。たちどころに護符が淡く輝き、その中から尖ったくちばしを持ち丸々と太った無数のカミナリ鳥が出現したかと思うと、そのまま一直線にかの茂みに向かって突進していく。槍のごときくちばしは見るからに鋭く、風切り音を立て、刺さったらただでは済まないことを誇示していた。


「すごい! さすが並ぶ者無きグラマリール学院長殿! これならどんな化け物だろうと一撃必殺ですね! ……え!?」


 ここぞとばかりにヨイショする部下だったが、緑の中に消えたカミナリ鳥の群れが、間髪入れずに全てはじき返されて再び飛び出してきたことによって笑顔が凍りついた。

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