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カルテ581 牡牛の刑(後編) その32

 急ごしらえの武器は回転しながら弧を描いてケルベロスに正確に迫る。だが、さすがに地獄の番犬を名乗るほどの魔獣にそのような単純な攻撃は通用せず、するりとかわされたため、大岩は無惨にも地面に激突した。


「よくも俺様にそんな粗大ゴミを投げつけてくれたなあクソが! そんなもの当たるかよノーコン野郎!」


「ハッハッハッ、確かにそんな大きな物も命中させられないとは腕が落ちたなケルガーよ! 所詮貴様は二流以下の戦士だな」


「……おしっこしてすっきりした!」


「相変わらず言いたい放題だな、このしつけのなっていないワンちゃんどもは。だが、今の攻撃は華麗なる伏線ってやつよ! くらえ野良犬!」


 ホーネルの首たちが嘲笑っているうちに、瞬時に岩からツルハシへと獲物を持ち替えていた器用なミノタウロスは、突進速度を若干緩めた相手に自ら接敵すると、頭部の一つに向かって勢いよく振り下ろした。


 ツルハシの鋭い切っ先は空気をつんざき、死神の鎌のごとく命を刈り取ろうと魔獣の頭部に襲来する。そのスピードは先ほどの大岩の円盤投げを上回るほどだった。


「ガウッ!」


 しかし間一髪でその致命の一撃すらも避けることに成功したケルベロスはそのまま吶喊し、ミノタウロスの城壁のように分厚い胸板に破城槌のごとくぶち当たった。


「ゲボォッ!」


 馬車が激突したよりも激しい体当たりをくらって後方に吹き飛ぶかに思われたケルガーだったが、ここを先途と丸太のような両足を踏ん張り、ツルハシを握りしめたまま、5、6歩後退しただけで動きを止めた。


「何ぃ!? 俺のケルベロス・グレート・アタックを受けて立っていられるだとぉ!?」


「フッ、これは驚いた。この技で死なない者などいないと思っていたが、どうやら認識を改めねばならないようだな。だが、俺もまだ本気は出しておらんぞ」


「……ちょっと疲れた」


 ホーネルの驚嘆の声も耳に入らないほど内臓がもんどり返って爆発しそうな気分のケルガーだったが、そんな姿は毛ほども見せず、唾液を飲み込んだ。


「技の名前がクソダサ過ぎるわパイセン……しっかし昨日からこんなんばっかだけど、ようやく身体が温まってきたわ。野郎相手は好きじゃないんだが、ハードなスキンシップといこうぜホーネル! うおおおおおおおお!」


 彼は傍らに落ちていたシャベルをツルハシを持っている右手と反対側の左手につかむと、二刀流の剣士のごとく構えながらケルベロス目がけて走り出した。

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