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カルテ572 牡牛の刑(後編) その22

「それとはまたちょっと違うと思いますがね……要は自分の脳が、夢の中のように他人の声を勝手に生み出し、実際に誰かが耳元で話しかけているように錯覚させるんですよ。だから昔は精神が複数あるように感じられるという意味で精神分裂症なんて呼ばれました。因みに原因としては神経伝達物質のドーパミンってやつが大脳辺縁系において過剰に分泌されるためではないかといわれています」


「はぁ……なんかよくわからんが厄介そうな病気だな」


 徐々に舌の回転速度が上がってきた本多の話にケルガーはやや圧倒されていたが、なんとか持ち前の地頭の良さをフル活用してついていった。


「よってこの病気の治療にはドーパミンを抑える抗ドーパミン薬が使用されるわけですが、この薬には体が動かしにくくなるパーキンソン症候群や水を異常に欲する水中毒などの副作用があり、その一つとして高プロラクチン血症というものがあります。これこそがあなたの目下の悩みを払拭する肝となりますよー」


 右手でコリコリと錠剤を弄んでいた本多が、不意に指先の動きを止める。勘の良いケルガーはピンときた。


「まさか……!?」


「そう、そのまさかです! プロラクチンという物質には乳汁を出させる作用があるため、その雄牛の刑とやらにはうってつけなんですよ奥さん!」


「そ、それは本当なのか!?確実に出るのか!?」


「うーん、確実かと言われると、悪いけど『はい』とは答えられませんね。人にもよりますし。でも何もせずに手をこまねいているよりは百倍はマシですよ! これであなたも、『何で一滴も母乳が出んのや!?』とどこぞのサイコパスの母乳仮面さんみたいに叫ばなくても済みます! ボニュール! ミルキークィーン!」


「ちょちょちょちょい待て! 落ち着けって、おい!」


 説明しているうちにヒートアップし過ぎてあっちの世界に片足突っ込んでいた傍迷惑な語り手を、律儀な聴衆の魔獣は必死で現世に連れ戻した。

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