カルテ539 記憶の宮殿と琵琶法師(前編) その2
こんな特徴的な頭部はこの学院広しといえども一人しかいない。もっともその髪の毛がカツラなのは、皆先刻承知していたが。ちなみにカコージンも現在独り身で彼女募集中ではあるが、残念ながら今のところ絶望的との評判だ。
「いえ、それが実は別の任務で駆り出されていて、たった今戻ってきたんです。先生は当直中のため声がかかっていなかったので、報告に来ました」
彼の声はやや上気していた。どうやら珍しくいい知らせのようである。
「別の任務?」
オダインはわずかに小首をかしげた。ちなみに例の任務とはイーブルエルフ狩りのことで、護符作成のために符学院の若手教師などによって不定期に行われる。以前の失敗もあってかここ最近は頻度が減っているが。
「はい、実は以前取り逃がしたあの憎いマンティコアのジジイを、首尾よく生きたまま確保することに成功したのです」
「なんと!」
窓辺に寄りかかっていた彼は、つい大声をあげてしまった。慌ててカコージンが唇に指をあてるポーズをする。
「おっと、失礼しました。それで、現在その魔獣はいずこに?」
「とりあえず学院の地下実験室に連れて行きました。では、また!」
言い残すと、カコージンはすばやく自室の方向へと走り去っていった。その武骨な後ろ姿を見送りながらも、オダインの心はまたもや先ほどの物想いへと返っていく。例のマンティコアは伝説の魔女をその内に秘めている可能性が高いと、確か学院長グラマリールが以前話していた。様々な奇跡を起こした彼女ならば、あわよくば時を戻す魔法さえも可能なのではないかというバカげた妄想に引っ張られてしまったのだ。まったく我ながらきりがない永久運動だ。
「中々心というものは思い通りにはならないな。こういう時どう対処すればよいのかも聞いておけばよかったな……とはいえ二度と会うことは叶わないか……ホンダ先生……」
夜の闇の中で彼の脳内は、あの頃の日々を目の前で起こっているかのように生き生きと再現していた。
大晦日も更新します!




