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カルテ517 エターナル・エンペラー(後編) その84

「まだ若かったそれがしは、燃えるような真っ赤な夕日に照らされた黒焦げの大地に突っ伏し、血の涙を流して慟哭し続けた。今でも思い返すだけで無いはずの心臓が張り裂けそうな気分になるわい……フゥ」


 そこまで話し終えると、骸骨はカチッと音を立てて顎の骨を閉じた。まるで喋り疲れた人間のように。


「……」


 話し手のすぐかたわらで寒さに耐えながら聞いていたテレミンはかける言葉を見出せず、呆然と立ち尽くしていた。研究者の半生を巡る、あまりにも長く奇妙な物語は、彼を完膚なきまでに打ちのめしていた。


 少年時代の輝くような夏の日の虫捕りから始まって、滑落事故とエルフの美女・ラベルフィーユとの出会いと同居、エルフの里の村長アロフトの怪しげな予言、謎の美女との河原での邂逅、青年期の発病と桜吹雪の舞台における白亜の建物の顕現、そこでの本多医師による悪性貧血の診断と解説と処方、エルフたちとの別れと放浪の日々、メジコンの街でのファボワール家訪問とイルトラの治療、薬草師としての台頭、インヴェガ帝国の侵攻とエルフの里の焼き討ち……


 数奇な運命に翻弄された少年は、あまりにも大きな絶望に直面し、恐らくそれがために性格が歪み変化していったのだろう。語らずとも寂しげなその背中が雄弁に物語っていた。


「うう………ひっどい話よねぇ……巨乳の怨みも恐ろしいわねえ……ね、ミラドールちゃん?」


「私に振るなクソ大根! だが確かに恋愛というのは当事者たちにも思い通りにならぬものであるのだな……」


「うちの死んだバカ親父も符学院を退学したくせに、よく母親とつき合えたもんだと思いますよ」


「しかし何故そこまでしてインヴェガ帝国がエルフの村を滅ぼしたのかしら? 気になるわ」


「そうですね、ルセフィさん。何か裏でもあるんですかねぇ……?」


「左様ですな、フィズリンさん。スパイとはいえ所詮は一介の商人による頼みに過ぎませんしね。小生もそこは引っかかりました」


 いつの間にか氷の部屋に入っていた一行は、テレミンとは逆に好き勝手に感想を述べ、やかましくさえずり合っている。それを耳にしているうちに、彼も徐々に活気が戻り、様々な疑問が沸き起こってきた。続きが気になる!


「さて、ここで第一の質問じゃ」


 岩のように沈黙していた骸骨が唐突に口を開いた。

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