カルテ460 エターナル・エンペラー(後編) その27
「それで、何故そのガイインシとナイインシとやらが足りないと、彼のような病気の症状を引き起こすんですか? 一向にお話に出てきませんが、ひょっとして忘れておられませんか? このままのペースだと日が暮れてしまいますが先生は夜桜見物にでもいらしたんですか?」
「うっ」
ラベルフィーユの舌鋒鋭い攻撃に、医学のダークサイドに堕ちかけてあっちの世界に片足を突っ込んでいた本多も正気に返った。
「こりゃまた失敬、お嬢さん! 肝心なところをうっかり抜かしてましたね。肝臓だけに!」
「「……」」
診察室内を一陣の風が吹きぬける。虚しさという名の冷風が。
本多の視線は悲しげに宙をさまようも、こんな仕打ちには慣れっこさと言わんばかりに素早く笑顔を形作った。
「さて、ここから先はどんどん険しくなる坂道のように更に話がややこしくなりますが、かいつまんで説明いたしますと、人間ってえのは目に見えないほど小さな細胞って微生物みたいなものが一人当たり約60兆個も集まって出来ています。誰がそんなに数えたのか知りませんがね。んで、この細胞を作る設計図の役割をするDNAってものが細胞内にあるんですが、外因子と内因子がないと、DNA合成が上手くいかず、通常より大き目の血液の細胞が出来たりして結局役に立たず、最終的には貧血になってしまうんですねー。ここまでわかりますー?」
「「……」」
異世界人2人は想像を遥かに超える人体の神秘に目玉を白黒させていたが、とりあえず何とコクンとかうなずいた。でないと永久に次に行かないから。
「ついでに付け加えますと、DNA合成に必要な人体外部の物質には先のビタミンB12の他に葉酸ってものもあります。こちらはブロッコリーやキノコ、ほうれん草などに多く含まれているので、あなたには問題ないだろうと判断し、除外しました。だって食べてますよね?」
「ああ……キノコ料理は特に好きだ」
ラミアンは、本多の話し振りについ引き込まれてしまった。つくづく不思議な男だ。
「そいつは重畳! そしてビタミンB12不足の原因としては肉食をやめる以外に手術で胃を除去したり萎縮性の胃炎などの疾患が含まれます。ちなみに葉酸不足の方では飲酒過多が有名ですね」
「それでさっきお酒のことを聞いたのか!」
ラミアンは手品の種明かしをされ、目の前の霧が晴れた気分になった。




