カルテ450 エターナル・エンペラー(後編) その17
「でもダオニールさんだけで動かせるの? 重そうじゃない?」
「うーむ、こればっかりはやってみないとわかりませんねぇ……」
テレミンの疑問を受けて考え込む人狼に、ミラドールが助け舟を出した。
「およばずながら私も手を貸そう。猟師を生業としているし、力仕事はこう見えても得意だ。あとイレッサ、お前もボサッと突っ立っていないでこっちへ来て手伝え」
「えーっ、なんかお手々が荒れそうなんだけど……」
「つべこべ言わずやれ!」
というわけで都合三人が丸岩を取り囲み、「いっせーのーで!」の合図と共に力を合わせた。最初は凍りついていたせいもあるのかびくともしなかったが、一旦中止した後に気を利かせたシグマートが火炎の護符で多少温めると、岩はミシミシと音を立てて動き始め、やがてぽっかりと丸い竪穴が姿を現した。
「な……なななななんですかこれは!? 地獄の底にまで繋がっていそうな感じなんですけどぉ!」
「ハッハッハッ、どうやら何かの入り口みたいですよ、フィズリンさん。ほら、その証拠に鉄のはしごがついています」
一仕事終えて荒い息を吐くダオニールが、毛に覆われた指先で穴の縁を指し示す。確かにそこにはかなりの歳月を経たと思しき錆びだらけの赤茶けたはしごが、地の底へと誘うかのようにどこまでも下へと伸びていた。但し完全な闇ではなく、ボウっと竪穴の壁が輝いていた。
「この中にも薄っすらと青白い光があるわね……これってやっぱり苔かしら?」
手で額の汗を拭っているイレッサも彼らと一緒に覗き込んだため、フィズリンは露骨に嫌そうな顔をした。
「かもしれませんね。世の中には光るキノコや虫がいると本で読んだ記憶があるし、おそらくこの氷壁が微妙に明るく見えるのも、そのせいかもしれません」
「テレミン、うんちくは今はいいから、さっさと行くわよ。何だか奇妙な予感がするの」
ルセフィが輪になっている一同を押しのけ、足を一歩中へと入れる。
「ル、ルセフィ! ちょっとは注意を払ってよ! 魔物がいたらどうすんの!?」
「誰に物を言ってるのよ、テレミン。安心して、化け物退治は得意だし」
「確かに、今まで亡霊騎士軍団やミノタウロスなど、様々な実績を重ねておられますな、ルセフィさんは」
「そんなことより僕たちも行こう、ダオニールさん!」
こうして沈むかのごとく地底に没したルセフィを追い、一行は競い合うように鉄はしごを降りていった。




