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カルテ436 エターナル・エンペラー(後編) その3

 桜の花びらが舞う空中楼閣で奇跡が起こった。忽然と出現した、純白のワンピースを纏った黒髪の人物は、紛れもなく五年前にラミアンが川原で出会った女性その人だった。彼は腰を抜かさんばかりに驚いたが、恐る恐る声を発した。


「あ……あんたは、確か……」


「あら、また会ったわね。だいぶ大きくなったじゃないの、少年。元気してた?」


 まるで散歩の途中にばったり出会ったかのように、謎の女性は気さくに彼にひらひらと手を振る。


「誰ですか、あなたは? ラミアンさんの知り合いの方ですか?」


 普段物事にあまり動じないエルフのラベルフィーユも怪訝な様子で柳眉をひそめ、ラミアンをかばうかのように彼の前に立った。


「そうね、そこまで深い付き合いってわけじゃなくって、5年前に一度会っただけだけど、よく覚えていたわね。嬉しいわ。っていうかラミアンって言うのね、君」


「そりゃありがたいけど、だからあんたは一体誰なんだ!?」


 ラミアンは震える足を突っ張って姿勢を正すと、やけに親しげに話す女性に向かってあらん限りの大声をあげた。周囲の森に潜む動物が驚いて飛び出してきそうな音量で絶叫しながら、彼はこれこそが魔物なのではないかと半ば疑っていた。


「そうね、『桜の木の下には死体が埋まっている』って言い伝えは知ってる、ラミアン君?」


「「は?」」


ラミアンとラベルフィーユは同時に口を開けてお互いの顔を見合わせる。


「あー、ごめんごめん、これって異世界の言い伝えなんだっけ? 何でもずっと前にうちのお爺ちゃんだったか誰かが噂の白亜の建物のよく喋るお医者さんから教えてもらったそうよ。ちょっと意味不明な言葉だけど、あたしが思うに、このことわざの本当に言いたいのは、『一見幸せそうに見える世の中は、無数の不幸の上に成り立っている』ってことじゃないかと思うのよ。例えば恋愛ってのは一つの恋がめでたく成立するまでにいろんな辛い別れや人知れず消えていった片思いなんかの悲劇が死屍累々と横たわってんのよ。綺麗な花だって地面の下のなんかよくわからないドロドロに腐った物を栄養にしているわけだし、見かけに騙されちゃ駄目ってことね」


「「……」」


 いつの間にやら熱弁を振るう女性の圧に負け、聴衆と化した二人はただただ頷くのみだった。

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