カルテ427 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その18
「ング……!?」
当然エリザスに答えがわかるわけもなく、目玉を白黒させるのみだった。
「まー、ちょっと難問でしたかね。さて、天啓が脳裏に舞い降りたポータル医師は、『即ありったけのキャベツを持ってこい!』と周囲の者に命じました。彼は皆が訳も分からず集めてきたキャベツを千切りにさせると鍋でグツグツ煮込みました。おっと、別に急にお腹が空いたわけじゃないですよ」
「……」
最早全く話の流れについていけなくなったエリザスは、沈黙することしか出来なかった。
「我らがポータル大先生はいみじくもこうお考えになったんです。『ガラスを取り出すには下からよりも上からの方が当然距離的に短いが、薬で嘔吐を誘発させる時、胃の筋肉が収縮して破片が胃壁に突き刺さり大出血してしまうだろう。しかし、ならば何か大量の柔らかいもので胃内をいっぱいにすれば、欠片はそこに包み込まれるに違いない。そうすればほぼ無事に吐かせることが可能であろう』とね。中々論理的な考え方だと思いますよ。
そして彼は茹で上がった山盛りのキャベツを青息吐息の患者に何とか牛のごとくモリモリ食わせた後、食後のデザート代わりに吐酒石という嘔吐誘発剤を水に入れて飲ませ、神に祈って審判の時を待ちました。昔のあちらのお医者さんは手術前とかによく神様にお祈りを捧げたそうですけど敬虔ですね~。その甲斐あってかたちどころに効果は表れ、変なメニューでお腹いっぱいの哀れな若者は嘔気を訴え、盛大に吐き散らかしました。そこにはもちろん無数のキャベツの繊維にくるまれたガラス片が夜空の星のようにキラキラと輝いていたそうです。その後患者はたっぷりミルクを飲まされたそうですけどね。
いやはや、ほとんど治療手段がなく、しかも差し迫った状況の現場で咄嗟にここまで思いつくとは、ポータル御大には本当に頭が下がります。自分も長年ユーパン大陸のあちこちでいろんな苦難を舐めてきたからよく理解できるんですが、そう簡単に出来ることではないですよ。僭越ながら最大限の賛辞を惜しみなく贈りたい所存ですね」
滅多に他人を褒めることの無い本多が珍しく手放しで過去の偉人を称賛している姿に、セレネースは心中少しばかり心を動かされていた。




