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カルテ416 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その7

「さあな……ただ、この村を襲い毒を噴出して皆を苦しめ母さんを喰い殺したあの憎たらしい銀竜のやつも、インヴェガ帝国の方向から飛来したという情報もあるしな……本当にあの国は昔から何を考えているのかさっぱりわからんし、恐ろしい……」


 ローガンも肉を咀嚼するのをやめ、声を潜める。まるで誰かに聞かれるのを心配するかのように。


「ひょっとしたら戦争になるの? 父さんも戦いに行くの?」


「たとえなったとしても、さすがにこんな山奥までは敵の軍隊も来ないだろう。それにこんな腰痛のオヤジは徴兵なんぞされんよ、ハッハッハ」


 ローガンの空笑いが虚しく食堂に木霊する。雰囲気を明るくしようとするせめてもの気配りだったがピートルの顔は暗く沈んだままで、かえって逆効果だったようだ。


「ハァ……こんな時、伝説の魔女がまた来てくれるといいのにね」


「おお、確かにあのお方なら、帝国騎士の千や二千、瞬く間に蹴散らせるだろうな。何しろあの毒竜を見事打ち取ったんだし……」


 ローガンはテーブルに据えていた視線を、その上に揺れる三日月のような角に移し替え、自信満々に請け負った。


「いいなー、僕も会いたいなー。ねぇ、伝説の魔女ビ・シフロールの噂話は何かないの?」


「さぁ、そっちの方はさっぱり聞いてないな。もうずっと姿を見たって人もおらんし……ひょっとしたらエナデール先生が何か知っているかもしれんが……」


「あれ、お父さん、顔がちょっと赤くなってない?」


「な、何をいう!? そりゃエールのせいだ!」


「だって今日はエール飲んでないじゃない。ふふーん、そういうことか……」


 ピートルは父がまんまと自分の仕掛けた罠に引っ掛かったことを喜び、ちょっと元気になった。


「まったく大人をからかうんじゃない! ただ、噂と言えばドグマチールのライドラース神殿が以前のようにお布施をあまり取らなくなったとか、ドルコール王の元に怪盗から予告状が届いたとか、運命神のお告げ所で何やら騒ぎがあったとか、そういう面白そうな話ならいくつかあるぞ」


「へーっ、聞かせて聞かせて!」


 少年はたちまち最新の話題に喰いつき、その顔は好奇心に輝いた。食事そっちのけで会話する二人は、その後あんな騒動が起こるとは、この時はまだ予想だにしていなかった。

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