カルテ399 ライドラースの庭で(後編) その69
「考えてもみてくださいっス。何故自分がこの神殿に出入りしているパムさんにあんな場所で出会えたんっスか? 何故さっきジオールの旦那が首になる寸前にタイミングよくハーボニーの姐さんが現れたんっスか? ご都合主義ってやつにしては、ちーっと出来過ぎてるって思わないっスか?」
「……」
ノービアは物分かりの悪い生徒に根気よく勉強を教える教師のような態度(それよりは若干嫌味っぽいが)で神官長に話しかける。戯言に対し聞く耳を持つまいとしていたジオールだったが、面と向かって指摘されると確かに腑に落ちない点が幾つかあるのに気づき、押し黙った。ライドラース神殿ご用達商人のパム・ドルナーのことなど特定の人間しか神殿との関係を知らないし、今宵いきなりハーボニーが白亜の建物に飛び込んできたのも不可解であった。だが……
「残念だが貴様の口車になんぞ乗せられんぞ、ペテン師め! パムの件はどうせ偶然だろうし、ハーボニーだって彼女が言う通り貴様たちが中庭で騒いだからバレたにすぎんわ! 大体貴様が知らせたとしてもどうやってハーボニーと連絡を取り合うというのだ!? この神殿内には護符は持ち込めんぞ!」
「おおっ、よっくぞ聞いてくださったっス! これっスよこれこれ!」
急に水を得た魚のように瞳を生き生きとさせると、ノービアはズボンの尻ポケットに手を突っ込みゴソゴソとし、なにやら毛だらけの丸めたボロ雑巾のようなものを掴み出した。そしてまるで宝物でも見せるがごとく、おもむろにジオールの眼前で手を開いて披露した。
「ネ……ネズミっ!?」
正体を知ったジオールは思わず一歩後ずさる。そのもふもふした薄汚い灰色の生き物は、せっかく安穏と過ごしていたのにこんなタコ入道の前に曝さないでくれと言わんばかりの恨めし気な視線をご主人に投げてよこし、フシューっと鳴いた。
「紹介するっス! こいつは俺様が飼ってる可愛い可愛いカンサイダスちゃんっス! とーっても頭が良くって気が利いて働き者で、手紙を目当ての人間に運ぶくらいのお仕事は朝飯前っスよ! でも食べ物にはうるさくって、ハムやソーセージやチーズをご所望するグルメなんっス! 以後お見知りおきを!」
「だからかああああああ!」
ジオールは思わぬところで厨房から消失したチーズ事件の真相がわかったため、衝動的に突っ込んでしまった。




