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カルテ383 ライドラースの庭で(後編) その53

「タケルダ村出身のジオール・カデックスさんねぇ……ふむふむ、なるほど……」


 顔面に盛大に唾液をぶっかけられたにもかかわらず、本多は何やら深く考え込んでいる様子だった。やがて普段は垂れ下がっている瞳をぱっちり開けると、何やら納得したような顔つきで、一人勝手に頷いた。


「はいはい、わかりました。正直ぶっちゃけますと、すみませんが当本多医院は病気の方々の希望の星なのは確かですが、出現は結構ランダムなんですよ。つまりどんな重症の方であっても、その人の前に現れる場合と現れない場合があります。何故そうなるのかは僕自身もわかってないんですけどね」


「なっ……」


 ジオールは言葉を詰まらせる。伝説の存在のくせにあまりにもいい加減ではないのかと脳裏では文句が渦巻いていたが、言語化する前に、本多に先を越された。


「それっていい加減すぎないかって思われるかもしれないですけど、僕のせいじゃないですしねー。ま、これはあくまで仮説なんですけど、例えば当院が物理的に出現可能なスペースが近くにあるかどうかが鍵なんじゃないかと思うんですが、どーですかね? だって海に浮かぶ船の上とかじゃ、さすがに病院がぽっこり現れたら沈んじゃいますからねー。一度は湖の上の小さな島に出ちゃったこともありましたが……」


「ええい、それ以上詭弁を弄するな! 俺の育った村には建物の一つや二つ軽く建つ程度の広い空き地ぐらいいくらでもあったわ! くだらん言い訳をするな!」


 怒り心頭のジオールが再び頭から湯気を吹いて反論する。


『……本多先生、良いのですか?』


 少し気づかわし気な慈愛神のささやきが間に割って入り、束の間の沈黙が訪れた。神の声はまるで全てを見通しているかのように、その場にいる者たちには感じ取られた。


「んー、何のことですかぁー?」


 本多はそれに対し、白を切るかのような生返事だ。神殿内においては冒涜的行為に当たらないのかと、やや怒りが治まったジオールはちょっと冷や汗が出た。


『……まあ、先生がそうおっしゃるならそれでよいでしょう』


 当の慈愛神は別段気に障った様子もなく淡々と受け流す。ホッとしたジオールだったが、次に続く言葉に色を失った。


『というわけで、ジオール・カデックスよ。あなたの悲しい過去はよくわかりましたが、それでも到底今までの売僧のごとき悪行に対して情緒酌量の余地はありません。よって……』


 一瞬、神の託宣が途切れ、地獄のような静寂に一同は沈み込んだ。

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