カルテ379 ライドラースの庭で(後編) その49
結核菌は不衛生な所に多いという医者の言葉を信じるならば、あのスオード・コンレイとかいう男は、彼の身の上話から察するに行きつけの娼館で菌に感染した可能性がある。その彼の友達が語ったどこぞの村の村長夫人は、多分慈善事業でやっている貧民への炊き出しの時にうつったのかもしれない。そう考えると、本多の講義は全てきれいに辻褄が合うのだ。
「ちなみに付け加えるならこの病気は片側性が多くて男女比は1対3くらいだそうですよ。最初は一個ないしは数個のリンパ節がそれぞれ孤立的に腫れていきますが、やがて周囲のリンパ節同士が癒着して大きなかたまりとなり、時に痛みを伴います。これが潰れて穴が開いたりすると治るのが非常に困難になりますが、何もせずとも小さくなって固くなり、勝手に治る場合も結構あるんですよー」
ジオールが内心うなっているうちに本多の独壇場は再開していたが、またもや超常の聴衆が三千世界のどこかから水を差す。
『素晴らしいご回答誠にありがとうございます、本多先生。正直申し上げますと、私はこの神殿の聖水とやらに何の力も与えた覚えはありません。なのに何故病人に効果があるように一見見受けられる場合があるのか、以前から非常に気になっておりました。こればかりは世界の全てを見通す我が神眼をもってしても真相究明には至らず、どうしたものかと考えあぐねておりましたが、今回先生の貴重なご高説を賜り目から鱗の思いです』
よどみなく鳴り響く美声は感謝の言葉に満ち溢れ、まるで学会発表後の演者を湛える感想のようだと本多は心中感心した。
「いえいえ、お気になさらず。たとえ神様だって万能ってわけにはいきませんからねー。地球の神様だってせいぜいヤ〇チャの足元がお留守だって指摘したぐらいしか活躍していませんし……」
「相変わらず言ってる意味が欠片もわからないっスよホンダ先生! もうちょっとわかりやすく例えて!」
もう何度目かわからない黒尽くめの悲痛な突っ込みが診察室に木霊するも、ジオールは今のライドラース神の発言に打ちのめされ、身体中の内臓がよじれてのたうち回っている気分だった。彼は今や絞首台の13階段を一歩一歩登る死刑囚そのものだったから。




