カルテ374 ライドラースの庭で(後編) その44
「き、貴様ああああ! 黙って聞いておればどこまで我が神を侮辱する気かあああああ! 歯を食いしばれええええ!」
ジオールがけたたましく吠え立てた時、まさに奇跡が起こった。
『おやめなさい、ドグマチール神殿の神官長、ジオール・カデックスよ』
遠くの潮騒のようにかすかな、しかしその背後にある限りない大海原を想起させるほどの包容力を内に秘めた美声が、診察室の面々の鼓膜にではなく、大脳の聴覚野に直接響いた。
「ララララララライドラース神様!?」
餓えたドラゴンのように獰猛だったジオールが、謎の声を皆まで聞き終わらぬうちにガバッとベッド上に平伏する。その仕草はとても先ほどまで本多と激しく言い争っていた人と同一人物とはとても思えないほど卑屈だった。
「あれ、何だ、この声は…? 耳がおかしくなったのか!?」
「僕にもなんか聞こえましたよ! 幻聴って実は初体験なんですけど!」
「全員が同じように聞こえている時点で幻聴かどうか疑わしいですよ、本多先生」
「うっひょー、これが噂に聞く慈愛神様ってやつっスか!?」
「え……!?」
なんと、常とは異なり自分だけでなくその場にいる全員に神の宣託が届いたと知って、ジオールはシーソーのように下を向いたばかりの頭を即上げた。
「ば……バカな! お前らごとき信仰心の欠片の無いやからにも尊い神の御言葉がわかったというのか!?出鱈目を吐くな!」
『出鱈目ではありませんよ、ジオール。私は今、緊急特別措置として、そこにおられる皆さんの心に語りかけています……話が理解しやすいように』
「そ、そうでありましたか! 失礼いたしました! どうかお許しください!」
かつてない展開に動揺しつつも、ジオールは何とか神の真意を探ろうと頭を働かせる。一体全体何のために、祝詞や儀式も無しに、今、このタイミングで現世に御降臨あそばされたのだ!?
『私こと五大神が一柱・慈愛神ライドラースが何故今回このような行為に及んだのかといいますと、理由はただ一つ。皆さんの中に一度是非膝を交えて言葉を交わしたい御仁がおられるからです。わかりますね?』
金の雨のごとく天から燦然と降り注ぐ神の聖なる響きは、絹のように滑らかかつ、羽毛のようにふんわりとして、聞く者の気持ちを陶然とさせた。身を委ねるだけで全ての傷が癒えるかのように感じた者も中にはいたであろう。
すみませんが次回更新は一週間後の6月28日です!では、また!




