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カルテ372 ライドラースの庭で(後編) その42

「どういうことですか? 聖なる池の水中呼吸は単なる二重底の仕掛けによるもので、池の水も単なるそこら辺の水と同じものだってことは証明済みだと思いますが?」


 本多はあくまで余裕しゃくしゃくの態度を崩さず、頭をポリポリかいている。しかしジオールも口の巧さにおいては彼に引けを取らないという自負があった。戦いはまだこれからだ。


「うるさい無礼者が! あの池の仕組みは疑り深い凡俗たちに少しでも聖水の効能を信じてもらおうと、やや過剰に、かつわかりやすく演出したまでのこと。奇跡の水の本質はもっと別のところにある。不治の病を癒すというところにな!」


 ジオールはここぞとばかりにドヤ顔を決め、得意の良く通る声を響かせた。そしてとどめとばかりにもう一言を付け加え、側に侍る使用人を顎で示した。


「今言ったことに何か一つでも間違いがあるか、ブレオ!?」


「た……確かに神官長殿のおっしゃる通りです。池の水の神秘的な力で、神殿に来た信徒たちの醜い腫れ物が治ったという話はしょっちゅう伺っておりますし、実際にそういった方々にも会ってきました」


 ブレオは一も二もなく即答する。こればかりは疑いようのない真実であり、誰がどう言おうとも否定できない、現実に起こった出来事だ。


「はいはい、噂の首に出来たっていう例のアレですね。まあ、治ったっていう人たちがどこぞのミステリー小説みたいに全員そろって嘘ついているんじゃなければ、本当でしょうけどねー。ちなみにあの本最初読んだ時僕はつい、『金と時間返せー!』って壁に向かって叩きつけましたが……」


「そんなバカなことがあるか! 全く繋がりのない人間たちや遠く離れた地方の者たちばかりだぞ! そんな口裏合わせのようなことが出来るはずないだろう!」


 本多の軽口を侮辱と受け取ったジオールの眉毛が逆立ち、感情が怒涛の勢いで隆起する。周囲の一同はどうなることかと一瞬固まった。しかし本多は九牛の一毛ほども動じた様子はなく、禿げ頭をカキカキするのをやめないばかりか、お笑い芸人ばりに平手で叩いてペチペチと不快な音を立てる始末だった。


「いやー、診察室がギュウギュウなんで蒸してきて、僕の頭もなんだか腫れ物が出来そうなくらい痒くなってきましたよ。すみませんねー、みっともない真似をして。で、よく聞いてなかったけどなんでしたっけ? シベリア超特急殺人事件の話でしたっけ?」


「欠片もんなこたぁ話しとらんわこのクソハゲがああああああ!」


 怒りゲージがリミットブレイクしたジオールは、自分もつるっ禿げであるにも関わらず同族嫌悪的に本多を痛罵した。

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