カルテ367 ライドラースの庭で(後編) その37
「さて、ここらで一つちょっと話を切り替えて、リラックスしながら僕の世界の美術についてのお話をしましょう」
「「「美術ぅ!?」」」
ユーパン大陸側の三人の瞳が皆満月のように丸くなった。目の前の男におよそ似つかわしくない単語だったら。
「おっと、美術といっても普通の絵画やら彫刻やらの類いじゃないですよー。最近の現代美術ってやつは、今や何でもありでしっちゃかめっちゃかの闇鍋のバトルロイヤルみたいなもんでしてね、たとえ便器やうんこや母乳でも、『これは美術だ! 異論は一切認めん!』って誰かが断定しちゃえば、美術になるんですよー。ま、僕に言わせりゃ所詮一発ギャグみたいな代物ですが、アイデア勝負って点は面白いですね。中にはボディペインティングした人間を一日中突っ立たせておいたり、うんこに限りなく近い物質を人工的に作り出す装置や、記念碑の周りを囲って宿泊可能なホテルぶっ建てて室内で鑑賞するみたいなとんでもないものもありますし、ああいうのを見ていると、普段裸婦画か美少女フィギュアにしか興味のない僕でも衝撃を受けて、ブルピリで双亡亭で脳がぐらんぐらん揺れて健康に良いですよー!」
もはや本多の高速回転する舌の暴走は止まらず、話がどの方向に転がっていくのか、その場の聴衆の誰一人として……いつも無理矢理聞かされているセレネースですら予測不能であった。皆困惑と呆れと諦めとほんの少しの好奇心がごっちゃ混ぜになった表情で、ただただ脳が再起不能になりそうなほどの振動をくらっている気分だった。
「僕も金さえあれば母乳で縄跳びするすげえ高い現代美術エロフィギュア購入したいんスけどねー。そういやとある現代美術作家が出身校に代々伝承されてきた一升瓶を股間に挟む全裸芸『よかちん』の女性版でザルを股間に挟む『よかまん』を考案し、肉食系女学生2人に全裸でやってもらった映像を個展で発表したという逸話を聞くと、美術だの人生の悩みだの細かいことはどうでもよくなりますねー」
「ええい、さっきから黙って聞いておればダラダラとくだらんことを垂れ流しおって! 一体何が言いたいのだ貴様!」
話が言葉のラビリンス入りして数分経過した頃、遂にジオールの癇癪玉が爆発し、再び頭部がゆで蛸状に紅潮した。
「おっとすみませんねー、でももう後ちょっとで結論なんでご勘弁を。さて、とある現代美術館に『スイミング・プール』という奇妙な作品があります」
本多はそこまで言うと言葉を切り、意味あり気に一同を舐めるように見渡した。




