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カルテ332 ライドラースの庭で(後編) その2

「えーっ、もう終わりかよー!? もっと見せてくれたっていいんじゃないか?」


「いやー、眼福でしたぞ。あの世へのよい土産が出来ました」


「……あの、ここの聖なる水はいただけるんでしょうか?」


「ママー、あのハゲ買ってー!」


 人々の雑多な声が投げかけられるなか、ハーボニーは猛禽類のような鋭い蒼い瞳で聴衆を一瞥すると、僅かに目を細めた。


「それでは、次に名前を読み上げる方は、神官長様から直々にお話がありますので、神殿の前室にてお待ちください。スオード・コンレイ様、エリキュース・セクター様……」


「えっ、俺!?」


「わ、私も!?」


 群衆の中に動揺が走り、驚きの声が上がるも、ハーボニーは構わずに粛々と謎の名簿を読み上げていった。



 一方、外界の雑多な喧騒から隔絶されたジオールは、冷たい石の上に座したままだったが、心中では、どっしり構えた外観とは裏腹に穏やかではなく、不安の強風が吹き荒れていた。


(うーむ、儀式の時間になったから見に行くことは叶わなかったが、ノービアのやつはちゃんとあのリックルとかいう大男に勝ったのか……? いかんいかん、儀式に集中しなければ……)


 しかし、いくら心中を鎮めようとしても胸騒ぎは悪化する一方で、水のすぐ側にいるというのに喉の渇きさえ生じてきた。


(ええい、こんなくだらんもの一刻も早く終わらせて、とっとと観戦に駆けつけたいものだが、神官長という立場上こっそりとしか動けんし……ん?)


 その時、ふと水面を見上げたジオールの黒瞳に、旗のごとく白く揺れる物が映った。副神官長ハーボニーの腕だ。彼女が儀式が終わったことを彼に伝えるため、周囲の群衆や神官たちを下がらせ、手を振って合図を送っていたのだ。さすが彼の腹心中の腹心だ。


(よし、それでは後一仕事するとしようか。楽しみは後に取っておいた方が良いとも言うしな)


 ジオールは心を切り替えると、よっこいしょとばかりに冷え切った重い腰を持ち上げた。実は聖なる儀式の終わる少し前、二人の戦いは既にけりがついていたのだが、それは自ら奇跡を起こせぬ、神ならぬ身の神官長の知るところではなかった。

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