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カルテ318 牡牛の刑(前編) その11

「ケ……ケルベロス!」


 エリザスが鉄仮面の下から喘ぐような声でその魔物の名前を告げた。


「なんだそいつは?」


「あんた知らないの、ケルガー? ケルベロスとは三本首を持つ、子牛ほどの大きさもある漆黒の魔犬で、口から猛毒の液体を吐き出すと言われる恐るべき怪物よ。神話によると暗黒神デルモヴェートの眷属とも言われ、地獄の番犬をしているという説もあるわ」


 確かに先ほど紫色の液体がかかった地面からはシュウシュウという音とともに蒸気が立ち上り、非常に不快な臭いを発していた。


「なるほど、まさに猛獣だな。でも結局はお前さんも施設で改造された俺たちの同僚だろ? なんだって攻撃なんかしてくるんだよ?」


 ケルガーは元からやや尖り気味の牛口を突き出して抗議する。


「うるさいボケが!てか避けるんじゃねえよ、鈍牛のくせしやがって!」


「ハッハッハッ、怒るな怒るな。こいつら何もわかってなさそうだし」


「……眠い」


 対するケルベロスは、三本の首が口々に喋るため、聞き取りにくいことこの上なかった。首同士の仲が良いのか悪いのか、今ひとつ不明だな、とケルガーは考察した。


「まったく厄介なワンちゃんだな……どれか一つが代表して話してくれよ。てか、あの犬『わかってない』とか言ってるけど、一体なんのことだ?」


「知らない……何か怨みを買うような真似をしたかしら、私たち?」


「「「何ィィィィィっ!?」」」


最後のエリザスの一言で、魔獣の三つ首は揃って完全に切れ、六つの瞳を真紅に染めて逆上した。


「お……覚えていないだと、あれだけのことをしでかしたくせに……このアバズレのビッチのクソアマっ子があああああっ!」


「死ねよ、股のゆるゆるなズベ公があああああっ! 生まれてきたことを後悔しやがれ!」


「疲れたああああああああっ!」


 今まで比較的落ち着いていた首までもが毛を逆立て、憤怒の形相と化して頬を膨らませた。


「お……おいおい、急にどうしたんだよ? ちょっと深呼吸でもしろよ」


「こ……これはマジでヤバいわ……」


 二人が戸惑っているうちに、三つの口が一斉にすぼめられ、致死性の唾を容赦なく雨あられと発射した。


「うがががががっ!」


 さしもの勇猛無比なケルガーもこれにはたまらず、恐怖で立ち尽くすエリザスを電光石火の早業で山賊担ぎすると、バッタのようにピョンピョン飛び跳ねて、矢のように次々と飛来する毒液をかわしまくった。

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