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カルテ286 眠れる海魔の島(後編) その15

「さっき知り合ったばかりのイーブルエルフのイレッサさんだ。何でもうちのご先祖様に対して興味がおありだとのことだ」


 ゼローダは何の感情も交えず事務的にこの見るからに危険人物と思われる男を家族に紹介した。


「……ご先祖様だって?」


 荒波の上にもかかわらずさっきから爆睡状態だったアーゼラが、息子の言葉にビクッと反応を示した。


「そうそうそうよー、お婆ちゃーん! あなたのところの問題児のゲンボイヤちゃんについての真実を是非ともご教授して頂きたいのよー! そうすればあの暴れん坊のタコ助野郎をまた海の底にお帰り頂くナイスな方法がわかるかもしれないじゃないのよー! お礼にあたいの全てをあげちゃうわー!」


「俺の母親に何をする、この邪妖精め!」


 イレッサはここぞとばかりに枯れ木のような老婆の身体にしゃぶりつかんばかりに迫ったので、ゼローダは反射的にモヒカン頭にチョップをお見舞いした。



 実際にはゲンボイヤ・ファリーダックは怠け者や大食いの穀潰しなどでは決してなかった。確かに身体は人一倍大きかったが、筋骨隆々とした屈強な男性で、ゼローダのような感じだったらしい。彼の一族は勇敢な戦士が多く、ゲンボイヤ自身も漁の傍ら肉体を鍛え、剣技や体術に秀でていたという。


 彼が成人して数年経ったある時、インヴェガ帝国の軍隊が久々にガウトニル山脈を超えて南下し、国境を接するグルファスト王国に侵攻してきたため、時のグルファスト国王はエビリファイ連合諸国に檄を飛ばし、盟約で結ばれた各国の軍が救援に向かった。


 ユーパン大陸の南端に位置するジャヌビア王国でも急遽軍隊が差し向けられることになり、民間からも希望者が広く募られた。血気盛んで義侠心に溢れるゲンボイヤは、彼の兄や弟とともに志願し、両親を残して遥々遠い戦場へと赴いた。


 戦闘は、最初は奇襲を仕掛けた帝国側が圧倒的に有利であったが、雲霞のごとく続々と集結する連合国軍に徐々に苦戦を強いられ、激しい攻防戦の結果、遂に帝国軍はガウトニル山脈の向こう側まで撤退を余儀なくされ、連合国側の勝利に終わった。


 だが、帝国側もただでは帰らず、何百人もの捕虜を連れ帰り、その中には武運拙く囚われたゲンボイヤとその兄弟の姿もあった。そして健康体の捕虜は北の果ての魔獣創造施設に送り込まれ、そこで死んだ方がましだと思われるような悪夢の人体実験の素材となった。


 その結果、ゲンボイヤは見事合成に成功した……「完全に」とは言い難かったが。

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