カルテ284 眠れる海魔の島(後編) その13
「こ、これは……」
本多が家に運び込んできた見たこともない異形の物体を目にして、アラベルは声を失った。一見縦2m、横90㎝程度の青い敷布団だが、ただの布団とは異なり、敷布の上に、青くて細長い筒状の物体が横向きに二十本ばかり並べられ、その上で寝るようになっている様子だ。更に奇妙なことに布団の先端からは黒い紐状のものが伸び、白くて四角い箱のような物に繋がっている。箱には何やら丸い取っ手のようなものが付いていた。
「これは褥瘡予防のエアマットレスというもので、とっても優れものでお買い得ですよ~って別に売るわけじゃなくて差し上げますけどね。ざっと簡単に説明しますと、この青い筒に機械でシュコシュコ空気を送り込んで膨らませたり、逆に空気を抜くことで収縮させ、寝たきりの人の体重がかかる部分を自動的に変えてくれるんですよ。これで二時間おきに介護者がゴロゴロ身体を転がさなくてもいいという優れものなんです! しかもこいつは最新式の太陽電池式なんで、日光にたまに当てるだけでこちらの世界だってずっと使えるんですよ! ワンダホー! そして更に、このすげえ布団には驚くべき壮絶な物語があるんですよ……! 皆さん聞きたいですか?」
本多はまるで生き物のように音を立てながら少しずつ動く不思議な物体を褒めちぎると、子供のように瞳を輝かせた。アラベルとアーゼラは只々圧倒されるばかりで、コクコクと鳩のように首を縦に振るのみだった。
「えーっ、僕はここよりは大きいけど割と小さな島国に住んでるんですが、その島国で近年とんでもない大地震が起こり、その結果かつてないほどの大津波が発生し、沿岸部の街を一呑みにしたのです。これによって様々な悲劇が生じました。とある海岸近辺の五階建ての病院も、この大災害の影響で甚大な被害を被りました。大地震の直後に街を襲った高さ十メートルを超える津波は海から400メートル離れていた病院まで途中にある全てを押し流しながらあっという間に接近し、結果病院は実に四階の天井付近まで水に浸かりました。からくも五階まで移動出来た医療スタッフと患者さんたちは何とか助かったそうですが、逃げ遅れた人々も多かったそうです……」
ここで本多は一旦言葉を切って黙祷するかのように閉眼した。アラベルも津波の恐ろしさは子供の頃から散々言い聞かされてきたので、なんとなく彼の心中を慮って一緒にまぶたを閉じ沈黙を守った。




