カルテ272 エターナル・エンペラー(前編) その17
「ありがとう、わざわざこんな素敵なところに連れてきてくれて。おかげでだいぶ楽になったよ」
「そう、それは本当に良かったわ」
なんとか苦痛を押し隠し、虚勢を張って礼を述べるラミアンに対し、花の精の如き可憐なエルフは満開の桜の下で頬を染め、照れ隠しに下を向いた。その隙に深く息を吸いながら、改めて彼は周囲に目を移す。
太古の森の中に浮島のように点在する孤高の種族のツリーハウスは花霞に覆われ、この世の楽園か天上の別世界に思われた。神々の園もかくやという幻想的な風景に言い知れぬ恍惚感を覚え、原因不明の忌まわしい病気も村長の謎めいた警告も須臾の間忘却の彼方へ飛び去っていたが、「実はここにあなたを引っ張ってきたのは、この絵にも描けない素晴らしい景色を見せるためだけではなくて、他にも訳があるのよ」というラベルフィーユの言葉に、ラミアンは一気に現実世界に引き戻された。
「えっ、それって……どういう意味?」
彼は痺れ感を伴う震える手をなだめながら木製の柵をギュッと掴み、ラベルフィーユの方へ首を向ける。
「あなたも聞いたことがあるでしょう? あらゆる種族に言い伝えられる、伝説中の伝説の、あの存在のことを……」
「えーっと、確か……」
「ここは、それが現れるのに、まさにふさわしい場所だと思うの。私はまだ一度も出くわしたことがないし、あなたと一緒に訪れる資格を有しているわ」
神秘的なエルフの娘は、まるで名高い運命神のお告げ所の聖なる巫女のように厳かな声音で彼に告げた。
「ま、まさか、白亜の建物のことを言ってるの、ラベルフィーユ!? そりゃあ僕だって生まれてから見たことないけど、あれは単なるおとぎ話じゃ……!」
ラミアンが炎症の舌から困惑の響きを迸らせるのと同時に、空中楼閣の舞台の中心に、彼の声に呼応するかのように一条の白い光が迸った。
「えっ、ええーっ!?」
突然の出来事に驚愕し叫び声を上げるも、光の中心にいたものを見て、彼は二度驚いた。
「あら、お久しぶりね」
その姿と声に、ラミアンには見覚えがあった。それは紛れもなく、五年前に川原で出会った、あの女性だった。




