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カルテ225 伝説の魔女と辛子の魔竜(後編) その6

「おお、伝説の魔女殿の御帰還だーっ! 道を開けろーっ!」


「我らが英雄様が、邪悪極まる毒竜めを退治して下さったぞーっ!」


「今日は祭りだーっ! 皆、ありったけの酒を持ってこーいっ!」


「ありがたや、ありがたや……」


「こりゃ怪我で寝ている場合なんかじゃないわー!……あいててて」


 その日の昼頃にポノテオ村に辿り着いたビ・シフロールと、エミレース改めエナデールは、死にかけた村とは思えぬほどの、割れんばかりの歓声と拍手に出迎えられ、いささか戸惑っていた。


 村落はまるで嵐でも通り過ぎたかのように、倒壊しかけた家屋や折れた木々や破壊された柵などがあちこちにあったが、ざっと見渡したところ、所々に散らばっていた死体は全て片付けられており、生き残った人々も、皮膚の一部が焼けただれたように赤くなっていたり、両眼が充血していたり、ひたすら咳き込んでいたりなど、何らかの異常を呈している者が殆どだったが、それでも久方ぶりの朗報に、皆笑顔に溢れていた。


(これは皆、私のせいで……)


 自分の犯した罪の深さを今更ながら骨の髄まで思い知り、自然と項垂れてしまいそうになるエナデールだったが、「ダメよ、背筋をシャンと伸ばして、ちゃんと伝説の魔女の弟子らしくしなさい」と師匠がこっそり脇腹を突っつくため、無理矢理胸を張り、前を見据えた。


 ちなみにフードを目深く被って額の傷跡を隠し、髪の毛は魔女の持っていた墨の護符を使用して黒々と艶やかに染めていた。どちらも、正体が銀竜であると感づかれないための、精一杯の処置だった。


「これが邪竜を退治した証拠の品よ。身体の方はこれを切り落としたらあっさり溶けちゃったので、残念ながらもう何も残っていないんですけどね。ところで、村長さんはまだ村に戻ってないのですか?」


 村の広場に到達したビ・シフロールは凱旋門でもおっ建てんばかりに興奮して騒いでいる村人の一人を適当に捕まえ、エナデールに持たせた三日月の如き銀色の角を指し示しながら問い質した。


「はい、私がローガンです! すいません、今朝旅から帰ってきたばかりでして……」


 雑踏を掻き分け、髪の毛が一本もない壮年の男性が、他の人とは違って憔悴しきった顔で飛び出してきた。おそらく帰宅した直後にショッキングなニュースを聞かされ、まだ心の整理が追い付いていないのだろう。ローガンは魔女とその弟子に深々と頭を下げると、宝物のように角を受け取った。


「本当に、なんとお礼を申し上げてよいのやら……留守の間の事情は概ね伺いました。妻の死を知ったばかりで、混乱と悲嘆の中に沈んでいましたが、お二人に仇を打っていただき、とても言葉では表せぬくらい感謝しております。望みのものは何でも差し上げます。どうか、遠慮なくおっしゃってください」


「いえいえ、別に報酬が欲しいからって竜退治をしたわけじゃないんですよ、流れ者の傭兵じゃあるまいし。ただ、敢えて言うならば、一つだけお願いがあるんですけど……」


「はい、何でしょうか?」


 海老と化した村長が、わずかに緊張する。


「実は、この娘は私の押しかけ弟子のエナデールというんですけれど、この村の惨状に心を痛め、是非とも復興の力になりたいと申しているので、お役に立つかどうかわかりませんが、ひとつ、お側においてやってくれませんか?別に村の中じゃなくても構いませんから」


「そういうことでしたら、こちらからお願いしたいくらいです。喜んでお引き受けいたします!」


 ローガンは人のよさそうな笑みと共に顔を上げた。

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