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カルテ195 閑話休題 その73 運命神のお告げ所(後編) その11

「しっかし思った以上に重いわね、これ……一体袋にどれだけ突っ込んでいるのよ、あの脳筋鈍牛は」


 あまりの重量に、すぐに速度を落とさざるを得なくなったルセフィは、大風に抗いながら嵐の中の木の葉のようにふらふらと空を漂った。眼下には真っ暗な大地が横たわり、その中でひと際燦然と青白い輝きを放つお告げ所の丸いドームが、あたかも宇宙を煌々と照らす満月のようだった。


「綺麗……ん?」


 幻想的な風景に知らず知らず吸い込まれそうになるも、ふと、下げている荷袋の底に裂け目が走っているのに気づき、ルセフィは背筋の凍る思いがした。この高度から落下しては、やわな子ウサギの命などひとたまりもないだろう。


「まったくあの牛頭ったら、こんな安物の袋を使うなんて……どうしたらいいのかしら? 一難去ってまた一難とはこのことね……」


 一人ぶつぶつと文句を呟きながらも、とりあえず急場しのぎとして、彼女は裂け目側の方を上にして持つこととした。幸い袋の口はしっかりと縛られているようで、すぐに解ける心配はないし、上下逆にしてもあまり問題ないだろうと思われたのだ。ここから宿泊所までの道のりはそれほど遠くないし、到着までぎりぎりもつだろう。


「空中で持ち替えるのってけっこう難しいわね……って、えっ!?」


 悪戦苦闘しながら袋を掴む位置をずらしている最中に、彼女の爪の先が、裂け目から飛び出してきた何か固い物に触れてしまった。


「ギャアアアアアアーっ!」


 刹那、彼女の全身に、落雷にでも打たれたかのような信じられないほどの激痛が走り、思わず袋から指を離してしまった。


「……あっ、しまった!」


 袋はクルクルとコマのように回転しながら、地上に向かって一目散に落下していく。


「グウゥ……いけない!」


 苦痛に顔を歪めながらも、彼女は何とか力を振り絞って翼を動かし、自らも落ちていくかのようなスピードで袋を追う。体中の筋肉が悲鳴を上げて抗議するが、可愛い可愛いモフモフの命には代えられない。地表は無慈悲にもぐんぐん目の前に迫ってくる。


「させるかぁっ!」


 あわや激突という時、文字通り飛鳥の速さでからくもルセフィは荷袋と岩肌の間に滑り込み、自ら緩衝材代わりとなった。


「グガアアアアアっ!」


 先ほどとは桁違いの衝撃とともに、あの神経に直接針を刺したかのような痺れに襲われ、ルセフィは喉が裂けんばかりに絶叫し、ついに変身を解いてしまった。一糸纏わぬ青白い裸身を寒風に晒し、岩床に仰向けに倒れ込んだ彼女は、身を苛む疼痛と痙攣に耐えながらも、傍らに転がっている荷袋になんとか視線を向けた。


 袋は今や無残にも大きく破れて、木から落下した鳥の巣のように中身がそこら中に散らばっているが、かろうじて中に残っている眠った子ウサギの、タンポポの白い綿毛のような胸がスヤスヤという可愛らしい寝息とともに小さく上下しているのを確認し、ルセフィはホッと安堵の息を吐いた。

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