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ガチャ94 ひとりじゃない

 昼下がりの王都。

 その大通りに面する人気宿屋『やすらぎ亭』前に、突如として数人の人間と飛龍が現れ大騒ぎになり、王都の大通りは一時的に通行できない状態になっていた。

 大通りを歩いていた人々にとっては、なんの前触れもなくリュウ達が現れたのだから、騒ぎになるのは自然な流れだった。


「なんだ!? いきなり!」


「こ、こ、こここれは、モンスター!?」


「ひっ! ……な、なんて魔力なのっ!」


「通報だ! 通報! 騎士団でもなんでもいいから!!」


 ファラの存在が、王都に住む人々に最もパニックを齎していた。

 ファラの口から漏れ出る炎。燃える翼。

 その出で立ちは、飛龍を知らない者にも十分に畏怖を与えるものであった。

 冒険者の中には、魔力を感知できるせいで、ファラの魔力量に腰を抜かし、無様に座り込んでブルブルと震えてしまう者もいたほどだ。


 そんな騒ぎを聞きつけた兵士達は、すぐさまリュウ達を囲み込んだ。

 兵士達のリーダーらしき男が、震えながらもリュウ達に向かって、

「この騒ぎを起こしたのはお前らだな。王城まで来てもらおうか」

 と言い放つ。

 リュウはエリーと目を合わせると、一緒に一歩踏み出た。


「この子の両親を救いたいんだ。とにかく時間がない。話なら後でどれだけでもする。だから、そこをどいてくれ」


「お願いします! お願いします! お願いしますっ!!」


 エリーが頭を深く下げ、大きな声で何度も懇願する。

 騎士団に所属するミレーヌも、前に出てきて頭を下げた。


「騎士団所属のミレーヌだ。こちらの女性の、両親の命がかかっている。詳しくは私から説明するから、この人たちだけでも通してあげて欲しい」


「ミレーヌもいたのか? 彼女の両親を救うとはどういうことだ?」


 ミレーヌを見て眉を寄せたリーダーが、リュウの隣で頭を下げる少女に視線を移した瞬間。

 巨大な魔力の出現を感じ取っていたリィオスが王城の窓から飛び降りるなり、城壁を蹴ってやすらぎ亭まで一気に跳んできたのだった。


 ズンッ!


 リーダーとリュウ達の間に着地したリィオスは、自身の上げた土埃にむせながら、リュウ達の方を一瞥。

 リュウがエリーと一緒にいるのは想定内だが、飛龍族を連れているのはどういった事情だろうか。

 そう考えたリィオスだったが、先ずは騒ぎを収めるために、周囲に行き届くように大きな声で謝った。


「すまない。私の弟子が騒がせてしまったようだね」


 リィオスの言葉を聞いた人々であったが、それでもファラを見て怯えてしまうことは、無理からぬこと。

 そう思ったリーダーは、渋面を浮かべてリィオスに頼みこんだ。


「……リィオス様のお弟子さんでしたか。しかし、あのドラゴンのようなモンスターを野放しにするわけにはいきません。リィオス様の配下ならば、なんとかしていただけますか? 人々が怯えています」


「ああ、あの龍ね。あれは特殊な魔法であの姿に変化しているのさ。確かに、怖がらせてしまうよね。少し待ちたまえ」


 そう言ってリィオスがファラを見上げた。


(閣下に比べれば、感じる力は小さい。

 でも、十分に伸びしろがある。

 リュウ君がどうやって仲間にしたのか興味はつきないね。でも、それは後にしておこうか

 今は、エリーさんの両親の命がかかっているんだ)


「君! 人間の姿に戻ってくれないか? あと、魔力も抑えて。周りの人々が怖がっているんだ」


「おお。忘れておったわ! 転移など、初めての経験だったからな!」


 ファラは足の爪で掴んでいたダンクとエテキチを放り投げ、全身を炎で覆い隠し、地面に降り立つ。

 数瞬の後、炎のヴェールから出てきたのは、チャイナドレスに身を包んだ絶世の美女。

 周囲にいた人々。特に男性達は、食い入るようにファラを見つめていた。

 そこに、先ほどのような恐怖の色は見られない。むしろ、好奇心に満ちた目つきに変わっていた。


 ファラの着ているチャイナドレスは、谷間を見せつけるように胸元を開いているタイプ。

 スカート部分のスリットも、太ももの付け根が見え隠れするほど際どいものであった。


 男性達は、鼻の下を伸ばさないようにするのに必死といった様子である。

 そんな男性達を面白く思わない女性達は、パートナーの耳を引っ張ったり、足を踏んづけてやっていた。


 リィオスは人々がファラの変身に気を取られた瞬間を逃さず、声を張り上げた。


「ドラゴンのような姿を取っていた彼女も私の知人です! 特殊な魔法を使っていただけで、元の姿はこの通り。犯罪者を捉えることに協力して貰っていただけなのです。皆さんには危害を与えることはありませんので、ご安心下さい」


 リィオスの説明を耳にした人々の顔には、もう怯えの色などまったく見えなくなっていた。


「いやー。びっくりしたけど、リィオスさんのお弟子さんだったのか」


「リィオス様の知り合いも、やっぱり凄い人ばっかりなのね……」


「何属性魔法なんだろうな?」


 先ほどとは別のざわめきがやすらぎ亭前に起き始めていた頃。

 馬車が進まずにイライラしていた執事風の男が、馬車の窓から顔を出すと、地面に転がっているダンクとエテキチを目の当たりにし、

「なんということだ!」

 と、大声を上げていた。

 近くにいた冒険者達は、執事風の男を睨んだ。


「なんだあいつ? 豪猿なんてやられたって嬉しいだけじゃねぇかよ」


「好きだったんじゃないの? 貴族って変な趣味してるっていういしさ」


「あっちの方だろ? 本当に貴族様ってのはこれだから」


「飯がまずくなるような話すんなよ! 気持ちわりぃ……」


 周囲の注目を浴びた瞬間、男は反射的にゆったりとした服の布を使って顔を隠すと、馬車の中に逃げるように入り込んでいった。

 男は主人に献上するために積み込んだ女達に囲まれながら、絶望的な表情で縮こまって頭を抱えていた。

 しかし、それ以降、男を気に掛けるものなどはいなかった。

 普段であれば人目を引くような貴族の馬車がほとんど見向きもされないのは、当然であった。

 王都民の目の前には、英雄リィオスと、その弟子に、龍から人間になった絶世の美女。注目を集める人物達が揃って同じところにいるのだから。


 男を見ていた冒険者たちもすぐにファラの虜になり、あーでもないこーでもないと言い出していた。

 リィオスは一先ず民衆がパニックを起こすことはなくなったと判断し、兵士のリーダーに声をかける。


「お願いがあるんだけど、いいかな?」


「なんでしょう?」


「犯罪者である豪猿を縛って、ここにいるミレーヌ君と一緒に王城の騎士団詰所まで運んでくれるかい? 詳しい話はミレーヌ君から聞いてくれればいいから」


「了解しました。おい、みんな聞いてたか? そこに転がってる猿どもを縛れ!」


 リーダーの言葉に反応した兵士達は豪猿を縛りあげていく。

 リィオスはその隙にリュウに手招きをした。


「リュウ君。こっちこっち」

「なんだ?」

「飛龍の彼女、味方ってことでいいんだよね?」

「そうだな」

「なら、一応、ミレーヌ君達が王城に行くところまでは、彼女に護衛もしてもらいたいな。もし、豪猿に仲間がいたとしても、彼女がいれば逃すことなさそうだから」

「わかった。俺も、あいつらにはきっちり落とし前をつけさせたいからな。

 おい、ファラ!」


 リュウが大きな声でファラを呼ぶ。

 ファラはスリットから太ももを大胆に覗かせながら、歩いてリュウの元へやってきた。


「妾に何用だ?」

「ミレーヌ達が王城につくまで、見守ってやって欲しい。王都に仲間がいる可能性がある。豪猿を取り逃がすわけにはいかないんだ。頼む」


 ファラは少し間をおいて、

「後で、美味いものを奢れよ?」

 と言った。

 そんなことならと、リュウは軽く頷き返す。

「ああ」

 ファラはリュウの返事を聞くと

「よし! 約束だからな。エリーをちゃんと支えてやれよ」

 と言いながら、豪猿を縛り上げている兵士達の元へ向かって行った。


 兵士達は手早く猿どもを頑丈な縄でこれでもかとばかりでりに縛り上げていっていたが、それもそろそろ終わりそうであった。


 ミレーヌは、出発する前に隣にいるエリーへ何かを言おうと考えた末に、

「快気祝いのお酒を、後で持っていきますから、お食事の準備をお願いしますね」

 と、言って笑顔を見せてみた。


 エリーの冷えた芯が、少しだけ熱を取り戻す。


「ジョセフィーヌちゃんも、連れてきて下さいね」


 弱々しくも、 エリーが笑い返した所で、豪猿を縛り上げた兵士達が大きな声でミレーヌを呼んだ。


「おーい! ミレーヌ。いくぞ!」


「それでは、また後ほど」


 ミレーヌが兵士達に合流し、ファラという超強力な護衛をつけた上で王城へと向かっていった。


 兵士達とファラが離れていったのをキッカケに、王都民達もポツリポツリとその場から離れていく。

 大通りに戻る人の流れ。

 冒険者達の姿がちらほらとダリアの視界に入り、受付嬢としてのスイッチが入ってしまった。

 豪猿の件は、早くギルドマスターに伝えなければならない事項だ。

 ダリアは短くため息をついた。


「私もギルドに報告にいかなきゃ。エリーちゃん。ご両親に、後で挨拶にいくからって伝えておいてね」


 ひとりじゃない。

 きっと、そういうメッセージ。 

 ダリアの遠回しな気遣いが、今のエリーにとっては心地良かった。


「はい。とっても手強いライバルだと、伝えておきますから」


 エリーが気丈にも言い返すのを確認すると、ダリアは妖艶に微笑んだ。


「うふふ。よろしく」


 ダリアは流し目をエリーに送ると、ギルドに向かって足早に歩いて行った。


 リュウは、ミレーヌとダリアとの会話で緊張が少しだけ解れたエリーに、

「いくか」

 と、声を掛けた。


 エリーがゆっくりとリュウを見上げた。

 助けられるはず。

 あの日常が戻ってくるんだ。

 もう一度、そう思うことができそうだった。

 エリーは黙って頷き返す。


 エリーの反応を確認したリュウがやすらぎ亭のドアを開けようとした。

 その瞬間、背後からリィオスの声が聞こえてくる。


「そこに、アンナさんとケンさんはいないよ」


「どういうことですか!?」


 振り返ったエリーが、リィオスに詰め寄っていく。


「おい、リィオス!」


 リュウも説明をしろとばかりに鋭い眼光を飛ばしている。


「今は、王城にいるんだ。でも……」


 と言葉を切ったリィオスの顔は、微かに陰って見えた。


体調不良でパソコンに向き合えませんでしたが、なんとか書籍販売した週に投稿することができました。

思った以上に字数が伸びそうだったので、切りの良いところで区切りとしています。

書籍の方は続刊できるように、とは思いますが、売れなければ1巻で終わることもあり得そうです。

ああ、ドキドキする!

でも、できることは書くことだけなので、地道に行きたいと思います。

今後とも希望のクライノートをよろしくお願いします。


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