ガチャ92 炸裂! 空中回し蹴り
メリークリスマス!
程なくして、天幕へと辿り着いたダンクは、天幕の寝床で横たわっているエリーの隣に、ダリアとミレーヌを転がし、足枷をつけてから、ミレーヌの頬を叩いて目を覚まさせた。
「おい。お前は王国の騎士だろ。なんでこんなところにいる? 周囲に仲間はいるのか?」
しかし、ミレーヌは口を開こうとしなかった。
ダンクは筋肉を軋ませて、エリーの細腕を掴み、ミレーヌを睨んだ。
「こいつが痛い目に合ってもいいっていうんだな?」
渋面を浮かべたミレーヌが、右足の痛みをこらえながら答えた。
「お前達がエリーさん相手に不穏な動きをしていたから追跡した。周囲に仲間はいない。だが、先ほど救難オーブを使った。直に王都守護隊が来るだろう」
「何? 嘘こいてたらどうなるか、わかってんだろうな」
ダンクが腕に軽く力を込めると、エリーが苦しそうに顔を歪めた。
ミレーヌは意識的に上ずった声を上げた。
「夜明けまでに、来ることになっている」
「王都守護隊か。面倒だな」
ダンクがエリーの腕を離し、考え込む素振りを見せる。
ミレーヌはゆっくりと囁いた。
「……私達を見逃さないか? 見返りは、追跡をやめさせること。王都守護隊が来た時には豪猿達は強力なモンスターに食われたと私が言えば、信じてくれる。どうだろう? お互いに利のある話じゃないか?」
「悪い話じゃない。ただ、段取り次第では、必要ないかもしれねぇ」
そう言ったダンクが通信用のオーブを取り出し、起動した。
「おい、執事。ダンクだ。いるか?」
「ええ。おりますよ。エリーを無事所定の位置まで連れてくることはできましたか?」
「当然だ。順調……といいたいところなんだが、どうやらつけられてたらしい。追っ手の女騎士とギルドの受付嬢を捕まえた。騎士を脅して確認したら、夜明けまでに王都守護隊が救援に来ると言いやがるんだ。今晩には引き渡したい」
「なるほど、それは急がなければなりませんね。確認してみましょう。すぐに折り返しますから、少々お待ちください」
「はやくしてくれよ」
「もちろんでございます」
一旦通信を終えたワトキンは、腰かけているオズワルドに臣下の礼をとった。
「オズワルド様。ダンクはエリーを所定の位置まで連れ込むことに成功したようです」
「そうか! でかしたな!!」
そう言ったオズワルドは執務机に両腕を乗せてニタニタと笑う。
だが、ワトキンの口角はすぐに下がってしまう。
「しかし、追っ手もいたようです。その場にいたのは女騎士とギルドの受付嬢だけですが、女騎士が王都守護隊に救援要請しており、夜明けまでにはやってくるようです」
「王都守護隊! それはまた厄介な相手だな……」
王国の誇る選りすぐりの少数精鋭部隊を思い出し、オズワルドはきつく眉根を寄せ、黙り込む。
ワトキンはオズワルドの機嫌を伺うように、ゆっくりと、小さな声で話しかけた。
「……ダンクが、引き渡しを今晩にしたいと言っていますが、どういたしましょう」
「グレイに聞いてみるしかない」
オズワルドが灰色の通信用オーブを起動。
耳障りなノイズが執務室に響いた。
……ジジッ……ジッ。
「……おいおいおい。何の用だ? もしかして、エリーを捕まえたか?」
「ああ。エリーを捕まえた」
「おうおう! やるじゃねぇか!」
グレイはテンションの高い声を出す。
しかし、オズワルドの溜息がオーブ越しに聞こえ、グレイは眉を吊り上げた。
「……何か問題でもあんのか?」
「追っ手がいたんだよ。部下が現場にいた者を倒したが、すでに王都守護隊への連絡が入っているようだ。夜明けまでには来るだろう。今晩には引き渡しを終えたい」
「今晩か。いいだろう。夕日が沈みきっちまう前までに、エリーの回収に向かう。そう伝えておけ」
「よろしく頼む。では」
通信を終えたオズワルドは、皇帝一族の女性リストを眺め、だらしのない笑みを浮かべた。
この中から、更なる権力と好みの女を手に入れる日も近い。
そう考えると、豚のように鼻をヒクつかせてしまうオズワルド。
「ヒヒ。……ワトキン。豪猿に伝えろ」
「かしこまりました」
頭を軽く下げたワトキンは、すぐに直立姿勢に戻り、通信用オーブを起動した。
「ダンクさん。こちら執事です。応答願います」
「おう! 執事か。回収の件、どうなった?」
「夕日が沈む前までに、回収する者がそちらへ参ることになりました」
「ウホホ! 了解だ。報酬の準備、忘れるなよ?」
「もちろんでございます。それでは失礼します」
「おう」
ダンクは通信用オーブを投げ捨てると、エリー達に毛深い顔を向ける。
「まだ、夕日が沈むまでたっぷり時間はある。誰から頂こうかな」
ダンクの視線がダリア、ミレーヌ、エリーの身体を順番に舐め回していく。
「……前々から一度は犯してみたかったんだよ、ダリア。騎士はその後の箸休めだ。エリーはメインデッシュ。楽しみにしておけよ? ウホホッ!」
ダンクが血走った目つきでダリアへと手を伸ばす。
豊満な胸を守る胸当てに汚らわしい手が触れようかという時。
(お願い! 助けて!!)
ダリアは腰当のポケットにしまっていたお守りを取り出し、ぎゅっと握った。
お守りに書かれた異国語の文字が光り、女性陣の周囲に強力な障壁を展開。
ダンクは目前で腕を弾かれ、以外そうに目を見開いた。
「硬そうな障壁だ。けどな。いつまでも張り続けられるもんでもないだろう。何発耐えられるかな! ウホホ!」
ダンクは獣腕を軋ませて、力任せに右拳を突き出す。
衝撃に振るえる障壁。
右拳を引きながら、今度は左拳を突き込んだ。
障壁が微かに明滅しながらも防ぐ。
続く拳打に、障壁は明滅を徐々に激しくしていく。
何時破られてもおかしくない。
そう思ったダリア達の顔に焦りが浮かぶ。
「そろそろ壊れちまえ! オラ!!」
ダンクが一際強く右拳を突き込んだ。
障壁がガラスの割れるような音を森全体に響かせながら、崩れ落ちる。
上空で羽ばたいていたビックバードが慌てて逃げて行った。
きつく目を閉じる女達。
ダンクは下卑た笑い声を上げずにはいられなかった。
「ウホッ! ウホホホホホ!! さあ、股を開く準備はできたか!!」
瞳から力を失い、震えるダリア。
「ごめんね。皆。私にはもう何もできないわ」
ミレーヌは己の力不足を呪い、血が出るほどに唇を噛み締めた。
「私に、もっと力があれば……。くっ!」
エリーは全てを諦め、天を仰いだ。
そして、あり得るはずのない光景を見て絶句する。
(……!!)
伝承でしか見たことのない、伝説の飛龍。
その背に乗って突貫する銀髪の青年。
出で立ちは正に英雄と呼ぶ他ない。
嬉し涙を浮かべるエリーは、
「お母さんの言う通りね」
と、そっと呟くと、湧き上がる想いに動かされ、再開を待ち望んだ恋人の名を、喉がかれるほどに叫んでいた。
「リュウ兄さんっ!!」
エリーの声に釣られてダリアとミレーヌが天幕外の上空を見ると、飛龍に跨っていたリュウが、背から飛び降りた瞬間を目の当たりにした。
そのまま、信じられない速度で空中疾走するリュウの雄姿。
エリー達の瞳に、希望の光が舞い戻った。
「リュウだと?」
ダンクが右眉を吊り上げ、エリー達が見ている方へと振り返った。
眼に映ったのは濃厚なクロムグリーンだけ。
「楽に死ねると思うな」
と、冷徹な声が耳に聞こえた次の瞬間。
ダンクの顔面にリュウの空中回し蹴りが炸裂。
「ぐぇっ」
ダンクは何もできず、血反吐を撒き散らしながら、弾き飛ばされた。
同時に天幕が一瞬で燃え上がり、塵となる。
受け止めるはずの天幕が焼き消され、ダンクの身体は森の方へと飛んでいった。
大木を数本なぎ倒した所で勢いを失うダンク。
そこへ、紫紺のオーラを纏ったリュウが瞬く間に回り込み、振り上げた右踵を叩き落とした。
ギロチンの如き鋭い踵落としが、ダンクの筋肉に覆われた身体を逆ハの字に折り曲げ、地面に強く叩きつける。
蜘蛛の巣状の罅が地面に走った。
ダンクは全身を痙攣させ、泡を吹く。
リュウはダンクを射殺すほどの勢いで睨みつけると、瞳から力を抜いてエリー達の方を見た。
ファラに枷を外してもらったエリー達は何事かを話しているようだったが、戦闘を終えたことに気がついて、エリーもリュウの方を向いた。
そのままリュウの元へと走り出したエリーの表情は険しい。
リュウは大声で呼びかけた。
「エリー! どうした!?」
「リュウ兄さん! お母さんとお父さんが病気で死んじゃうかもしれないんです! その獣人がマジックポーチに薬をしまっていたはず。それを奪って王都まで私を運んでください!」
「なに!? わかった!」
泡を吹いて倒れているダンクの腰回りについているポーチに手を突っ込むとポーション瓶の感触が手に伝わって来た。
それを引っこ抜くと、黒い薬液の入ったポーション瓶が出てきた。
リュウは訝し気な表情で振り返ってエリーにポーション瓶を見せる。
「これか?」
「そうです!」
こんな禍々しいものが呪いを解くポーションなのか。
そう思うリュウであったが、今は急いで王都に戻るべき時だ。
エリーに追求することはせず、ポーション瓶をグリードムントの指環に収納し大声で叫んだ。
「皆、一か所に集まれ! ワープするぞ!!」
楽しいライトノベルナイトを!




