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ガチャ90 ファラ・ロヴィーサ

 滲んだ視界には、人型の何かを捉えた。

 恐らくは黄泉の水先案内人なのだろう。

 生前は信じていなかったが、まさか……。


「死者の国が実在しているとは」


 と虚ろな瞳で業火炎が呟く。

 リュウは業火炎を見下ろしながら笑い声を上げた。


「ククク。何を言っている。お前はまだ、生きているんだよ」


「何を馬鹿なことを。妾は人間に殺されたんだ。丁度、お前のような背格好の」


 そう言って、業火炎が虚ろな目で人間の男らしきそれを凝視。

 徐々に視界がクリアになっていく。

 目立つ銀髪。

 白亜のコートにクロムグリーンのブーツ。

 先端の砕けた見たこともない魔道具。

 見れば見るほど、先ほど死に追いやったはずの人間そのものであった。

 業火炎は震えて口から火炎を漏らす。


「……なんだと!!」


「ようやくお目覚めか」


 業火炎は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「妾の命は確かに潰えると本能が告げておった。お前、何をした?」


「天使の涙という、マジックアイテムさ」


 リュウは訝し気に睨む業火炎に、ティアドロップ型の小瓶を投げつけた。

 器用に腕で受け止めた業火炎は、すぐに人間の使うポーションの類だと気が付き、瓶の口元に残っていた透明な滴をひと舐めする。

 

「これは……!」


 舌に広がる滴の生命力に、業火炎は全身を震わせた。

 これが己の朽ち果てそうな命を救ったのだと理解するのには十分な衝撃だった。

 しかし、目の前の人間は敵のはず。

 業火炎は受けた恩など捨て置いて、鋭い眼光でリュウを射貫く。


「なぜ、領域を荒らしまわったお前が、このようなものを妾に使った」


 問答次第では飛びかかるぞと言わんばかりに、殺気を噴出させる業火炎。

 涼やかにそれを受け流すリュウは、不敵に口角を上げた。


「お前『あやつに知られたら』と『父上、母上』って言ってただろ。同格かそれ以上の仲間が他にいるんじゃないか?」


「……飛龍族は他にも何匹かおるが、それがどうかしたのか?」


「数匹か。助けて正解だったな。お前には、いずれそいつらの元に案内してもらいたい」


 鋭いプレッシャーを放つ業火炎の目が細められた。

 だが、リュウは何食わぬ顔で話を平然と続けて行く。


「飛龍族は世界の覇者と呼ばれた種族なんだろう。強そうじゃないか。俺はそういう奴らを求めていた」


「妾達を屈服させてどうする? 世界の覇権でも握るつもりか?」


「そんなものはいらん。面倒なだけだ」


「ならば、なぜ飛龍族を狙う?」


「腕試しには、丁度いい強敵だからだな」


 当然だと言わんばかりの顔をするリュウ。

 ファラは毒気が抜け、戦闘態勢から一気に脱力してしまった。


「はあ?」


「だが、伝説と言われる飛龍族に簡単に会えるはずもない。だから、お前を生かした。伝手というのは、あって困ることはないだろう?」


「そんな理由で、これほどの霊薬を敵対した相手に使ったというのか? お前、バカだな」


「そんな理由が、俺にとっては重大なんだよ。世界最強へと続く最短距離の道が、今ここにあるんだからな」


「復活させた妾に、殺される可能性は考えなかったのか?」


「力の差は逆転していると、気がついているはずだ」


 ファラは沈黙した。

 それが答えを物語っている。

 リュウは不敵に笑った。


「どうやら飛龍族ってやつは存在の格が違うらしい。お前との戦闘で随分とレベルを上げさせてもらった。次は、地力・実力・道具を有する俺が、間違いなく勝つだろうな」


「妾だけであればそうだろうが、妾にすら苦戦していた矮小極まりないお前が、他の飛龍族全てを敵に回すというのか」


「当然だ。要は、俺が勝てばいい。ただ、戦うのは1匹ずつがいいな。2匹同時だと、流石に勝てる気がしない」


「……くっくっく。あーはっはっはっ! 面白いやつめ!! いいだろう。好きなタイミングで妾に声をかけるがいい。必ず、他の飛龍族に合わせてやろう」


 業火炎は楽しそうに笑いながら、リュウの顔を覗き込む


「気に入ったぞ、人間。名はなんという?」


「俺はリュウ。修行中の冒険者だ」


「細かいことは喋らない性質タチか? まあいい。妾は……」


 と言いながら、業火炎は全身を白い炎で包んだかと思うと、燃えるような赤髪を靡かせる美女へと姿を変えた。


「飛龍族のファラ=ロヴィーサ。特別に、ファラと呼ぶことを許してやろう」


 背中から伸びる二対の翼を羽ばたかせながらリュウの前にファラが降り立った。

しかし、一糸纏わず裸体を晒すファラをリュウは正面からみることができずにいた。


「おい、ファラ。その恰好はどういうことだ?」


「ん? 驚いておるのか。龍人変化の術に」


 ツンと張ったお椀型の乳房。

 頂点に咲く、艶やかな小桜。

 谷間に流れ落ちる赤髪が扇情的だった。

 リュウは目を逸らしても存在を主張してくる胸元を意識しないように、努めて冷静な態度でファラに注文をつける。


「人間の姿になったことにも驚いたが、このままだと目のやり場に苦労する。なんとかしてくれ」


「ふふ。初心なやつめ。少し待つがよい。動け竜鱗」


 赤い鱗が煌びやかなチャイナドレスとなり、翼を除いて、艶めかしい肢体を包み込んだ。

 それでもくっきりとボディラインが浮き出るドレス。

 胸元には大きなトライアングルホールが空いており、大きな乳房が作る渓谷を惜しげもなく披露している。

 脚を覆う布に深く入ったスリットからは、情欲を煽る太股が覗いて見えた。

 どちらかと言えば、こちらの方が本能を直撃している感もある。

 しかし、リュウは鉄の意思でその話題には触れないと決め、話題の矛先を変えていく。


「ファラは、どうして人間の姿をとれる?」


「長く生きていく中で、霊峰で住み続けるというのも暇だろう? 時折下界に降りて、この姿で遊んでおるのよ」


「遊ぶって、なにをしてたんだ?」


「人間の作る料理というものを食べ歩いておったわ。本当に、人間は旨いものを作り出すのに長けておる。量がちと少ない点が玉にきずだがな」


「……なるほどな。次に来る時は、上手い物を持ってきてやるさ。その代り、その時は、俺を飛龍族に会わせろよ?」


「当然じゃ」


「よし。……じゃあな。ファラ」


 話すべきことは無くなったリュウは、刀身が無くなってしまったアイスブランドの柄と、銃身が砕け散った魔弾の拳銃を悲し気に見つめながらグリードムントの指環へ収納すると、躊躇なく洞窟に戻ろうと歩き始めた。

 慌てたファラが大声で引き留める。


「待て! もう少し、語らおうぞ」


 しかし、リュウは片手を上げてそのまま歩いて行ってしまう。

 手を横に振るのは普人族のサヨナラの合図だと、ファラは何処かで聞いたことがあった。


「待てというに、せっかちなやつめ!」


 チャイナドレスから伸びる二対の翼をはためかせ、ファラが高速でリュウの前に回り込んだ。

 ファラはリュウの肩をずいっと掴み、下から覗き込む。

 

 リュウは、視界を埋め尽くすファラの怒り顔に肩を竦めた。

 

「なんだ? こう見えて俺は忙しい。次の予定もある。そこをどけ」


「……こんなところまで来るやつが、忙しいものか!」


「野暮用だが、済ませなきゃならないことがあってな。ここへ留まる訳にはいかない」


「ここで修行すれば、飛龍族とも戦えるというのにか?」


「……帝国に、早々にリベンジしなければならない相手がいる」


 そう言った直後、帝国がある北を睨むリュウの瞳から闘志が溢れ出した。

 リベンジしたいというのは、どうやら本当らしい。

 ファラはそう思い、質問を投げかける。


「まぐれとは言え、妾に勝ったお前が負けた相手か。どんなやつじゃ?」


「ファラは知らないだろうが、帝国の手練れだ。全身を灰色のコートで覆った男で、そいつのことは灰色尽くめの男と呼んでいる」


 『男』と聞いたファラが美麗な眉を顰めた。


「まさか、人間か?」


「見た感じは、そうだな」


「信じられんな……。勇者がいた時よりも、人間は随分と強くなったようだ。それで、その灰色尽くめの男とやらとお前はどんな因縁があるんだ?」


「俺はオーガ討伐直後に現れた灰色尽くめの男に襲撃を受けた。実力差は歴然だった。命からがら、ワープで逃げた俺は、リベンジを誓った。だが、アイツは流浪の冒険者というわけじゃなくてな。実は……」


 灰色尽くめの男が王国と帝国が戦争をするようにと暗躍する凄腕であることや、禁忌のマジックアイテムを幾つも使ってくる嫌らしい奴であること。さらに、戦争開始まで秒読みであり、元凶の灰色尽くめの男は王国冒険者ギルドも総力を挙げて捜索、討伐に当っていることまでをファラへと説明した。


「と、こういうわけだ。さっさとしないと、横取りされてしまうだろ? だから、急いでいるんだ」


「灰色尽くめの男とやらは、王国に大きな被害を与えておる敵なんじゃな。それで、とうとう王国側が尻尾を掴んだと。確かに、放っておいたら軍や冒険者の精鋭どもに先に倒される可能性もあるかもしれんの」


「そういうことだ。横取りされる前に、俺は灰色尽くめの男を探しにいく必要がある。わかったか?」


「どれほど急いでおるのか、よ~くわかった」


「よし。じゃあ、そこをどけ」


「いやじゃ」


「おいおい。話を聞いてわかってくれたんじゃなかったのか?」


「もちろん、理解した」


「だったら、そこをどけ」


わらわも連れていけ。リュウと一緒にいた方が退屈せずに済みそうだ。それに、久しぶりに旨いものも食うてみたい」


「……断る。観光は自分で勝手にやってくれ」


そう言って横を通り過ぎようとするリュウ。

ファラは一瞬渋面を浮かべたが、すぐさまニヤリと笑って、わざとらしく語尾を伸ばしながらしゃべり出す。


「妾の背に乗ればあっという間に帝国までいけるのになぁ~。無駄な時間を掛けて霊峰を下りて、挙句は短い足で走り何日も掛けて帝国へいくのか。ああ、勿体ないとは思わんのかなぁ~」


 無表情でリュウが洞窟の中から戻ってきて、ファラを正面から睨んだ。


「観光は、灰色尽くめの男を倒してからだぞ」


「おお! 話がわかるではないか! それでよい。では、善は急げだ」


 小躍りした後。ファラが、紅蓮のような炎で全身を覆った。

 リュウが瞬きをする間に、ファラは飛龍の姿へと戻っていた。


「乗れ。リュウ」


 背を向けたファラが、恭順の意を示すように地面に伏した。

 リュウは口の端を上げつつ、ファラに飛び乗った。


「ファラ。まずは、王都へ向かえ。灰色尽くめの男を倒す前に、会っておきたい人がいる」


「ふふふ。女にでも会いに行くのか?」


「そうだ」


 感情の読み取れない顔でリュウが頷く。


(まあ、これだけ強いおとこなら、おんなの1人や2人いてもおかしくないのう)


 と内心で呟きながら、ファラは大く紅い翼を広げた。


「いくぞ! しっかりつかまっておれ!!」


「ああ!」


 紅の飛龍が、銀髪の青年を背に乗せて、凄まじい速度で断崖を飛び立った。

 雲間を飛翔する龍騎。

 彼等の通った後ろには、朱銀の光芒が陽炎を作り、空に紅蓮を咲かせていた。


◆◆◆


 リュウが飛び立つ、ほんの数十分前のこと。

 フェンロン山脈の麓にある広大な森の中にある、人工的に作られた平地。

 そこへ、不埒者達と捕われし少女がやってきていた。

 少女の表情は蒼白く、対照的に不埒者共は艶の良い顔をしている。

 木陰に潜む、麗しき女達の表情は険しかった。

 混沌とした感情が渦巻く平地の中央で、不埒者のリーダー格が下卑た笑みを浮かべた。


「さあ、宴のはじまりだ! ウホ! ウホホッ! ウホホホホホッ!!」 

お読み頂きありがとうございます。

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