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ガチャ89 全霊飛翔! 業火炎

 口から洩れる火炎。

 離れていても感じられる熱量。

 龍鱗が赤黒く染まった瞬間。炎魔光圧気エーテルグラストが爆発し、地面を削り取った。

 

「――業火・炎昇龍!」

 

 魂すらも消炭にしそうな咆哮。

 超高温の炎を全身に纏った飛龍が全霊で飛翔する。


 リュウは魔弾の拳銃を流れるように抜き出し、引き金を絞った。

 装填されたMP1500弾――広域殲滅魔法並みのMPが込められた魔弾は、稲妻投槍ブリューナクを超える初速で撃ちだされた。

 

 勝気な目を鋭く細めた業火炎。


「……凄まじい威力。が、狙いが読めれば!」


 翼を折り畳み、脚部から炎を噴出。

 強引に加速し、急降下。


 受ければ重傷を負うのは間違いのない魔弾を、身に纏った炎に掠る程度で避けきって見せた業火炎。


 しかし、その表情は硬い。

 身に纏う炎は攻撃手段だが、物理にも若干耐性のある特殊な魔法障壁でもある。

 その莫大な魔力を込めた障壁が、魔弾を僅かに遅くする程度の抵抗しかできずに突破されているのだ。

 魔力と物理の両面を持つ攻撃は飛龍族をして、脅威と言って差し支えなかった。


「油断は禁物、か」

 そう言いながら、大きく羽ばたいた業火炎が加速する。


 リュウは眉1つ動かさず、行く先を予測しながら発砲。

 しかし、今度は業火炎が上体を一気に剃らせ、火炎噴射。

 上空に抜けることで躱してしまう。

 

 上昇した勢いを活かし、宙返りを決めた業火炎が、速度を更に上げてリュウへと直進。


 無言のまま、リュウは連続する静止画から到達地点を予測して2発目を続けて撃った。


「甘い!」


 旋回した業火炎が、次弾は低い軌道だと読み切って、強く短く爆炎噴射。

 急上昇で3発目を交わし終えた所で、失速。


 そこへ、切れ目なく襲い来る古代魔法クラスの強化魔弾。

 業火炎は身体の軸を中心に、360℃回転させながら左へ反転。


 直後、正面から飛来する2つの魔弾の気配を感じながら、酷薄な笑みを浮かべる


「最早、速度にも慣れたぞ!」


 業火炎は大気に炎の弧線を描きながらバレルロール。

 弾丸を一発も掠らせることなくリュウへと迫る。


「ここまでだ」


 業火炎は後方へ両腕を向けると、爆炎を放った。

 脚部と両腕から推進力を得た業火炎の巨躯が、倍のスピードで中空を舞う。

 両者の距離は数メートルを切った。


 リュウには華麗に接近してくる業火炎が相変わらずコマ送りで見えている。

 しかし、直撃を喰らうまで、もう幾許の余裕もない。


 ヴィーチェルコートの風幕越しに伝わる熱量は、冷や汗が流れる傍から蒸発しそうなほど。

 弾も既に尽きている。

 だが、この極限状態でも維持されている集中力ならば、もう一つだけ試せることがある。


 リュウは半身で構えたまま、残存する全ての雷魔力を銃口へ収束させていく。

 魔力が枯渇し、意識が飛びそうになるが、歯を食いしばって耐えた。

 銃身内で暴発しそうな雷魔力を抑えながら、更に上乗せしていく傍らで、業火の熱波が体表を炙っていく。

 目と右手だけ厚めの魔法障壁を掛け、指先の感覚と視覚だけは損なわないようにしているが、他の感覚はもうほとんど残っていない。


 朦朧とする意識。

 守っている網膜にすら、ノイズが混じり出す。


 だが、これでいい。

 確実に当たる瞬間まで持てば、それで。


 ……さっさとこい! 飛龍!


 限界まで込められた魔力で、銃身に亀裂が入り、極光が漏れ出た瞬間。

 地上の太陽と化した飛龍が瞳に映った。

 飛龍は身に纏う業火を更に強く大きく燃え上がらせ、叫ぶ。


「――散れ!!」


 リュウは浴びた業火で右半身を焼かれながらも、引き金を引いた。


「……お前が、くたばりやがれ」


 神話魔法クラスの魔法発動に必要なMP3000を込められた魔弾が、銃身を通って超加速。

 白銀煌く銃口を砕きながら、紫電の弾丸が撃ち出された。


 ズガンッ! バリバリバリバリ!!


 雷弾は爆炎による魔法障壁を軽々しく通過し、赤黒くなり硬度を増した強靭な竜鱗を穿つ。

 魔弾から発する雷が、体内を不規則な軌道で駆け巡った。


「ぐがああああああああああ!!!」


 内部に多大なるダメージを負った業火炎は、絶叫し一際身体を大きく跳ねさせると、纏っていた業火を消して、地面へと落ちた。

 同時に限界を迎えたリュウは背中から倒れながらも、大幅なレベルアップの感触に震える口の端を無理やり上げる。


「これで、もう一段〝上‶に行ける」


 傍から見れば相打ちの状況。

 今にも死にそうな顔色だ。

 それにも関わらず、リュウは堂々と右手を天に向かって突き上げた。

 誰に示すわけでもなく、自分自身を讃えるために。



 激戦を終え、安堵して意識が飛びかけていたリュウであったが、気絶を避けるために血が出るほど唇を噛んでいた。

 このまま意識を失えば熱傷と火傷で命を失うのは間違いないからだ。

 リュウはグリードムントの指環からエリクサーを取り出すと、腹部と右半身に振りかけた。

 神秘の霊薬が掛かった部位は眩い煌きと共に、瞬時に復元されていく。


「これは……。回復アイテムのキャンペーンガチャが来たら、何を差し置いてでも引いておくべきだな」


 そんな軽口を叩きながら、全回復したリュウが跳び起きると、まだ息のある業火炎と目が合った。

 業火炎は口から血を零しながら、掠れた声を絞り出す。


「ゴホッ……。妾に致命傷を与える人間がおるとはな。魔道具の力もあるのだろうが、まさか神話魔法と同等の威力を瞬時にだせるとは……。油断した。ゴホッゴホッ!」


 リュウは痙攣を始めた業火炎にゆっくり歩いて近づいていく。

 自分より随分と小さな人間に見下ろされながら、業火炎は自嘲気味に笑った。


「こんな顛末をあやつに知られたら、偉大なる業火炎の名がコケにされてしまうわ」


 命が滑り落ちていく感覚。

 業火炎の視界が色を失っていく。

 眼前にしゃがみこんだ青年の銀髪も、クロムグリーンのブーツも、等しく無味乾燥なまでの白に映るのだ。


「もう、長くはないようだ。済まぬ、父上、母上……」


 大量に吐血。

 胴体に開いた弾痕と傷穴からも、夥しい量の血液が噴き出した。

 自身を覆う血液は寒気を感じ震える身体には熱く感じられた。

 抗いがたい、凄絶なまでの睡魔が襲ってくる。


「……420年。終わる時はあっけないモノよ」

 と上の空で呟いた業火炎は意識をブラックアウトさせていく。


 全身に血液を送り出そうとする意志に関係なく脈動する心臓すらも、鼓動することを諦め、勢いが次第に弱くなる一方だ。

 業火炎の命が、零れ落ちてゆく。


 しかし、それに待ったをかける者がいた。


「勝手に死ぬなよ」

 

 リュウはグリードムントの指環から取り出した小瓶のコルクを抜きSランク回復系ポーション『天使の涙』を業火炎の全身に振りかけた。


 魔弾と雷にズタズタにされた内部。

 拳打と剣戟によってつけられ外皮。

 更に、失った血液までもが、天使の慈悲により再生されていく。


 永劫に閉じられるはずだった業火炎の瞼が、静かに開かれた。


お読み頂きありがとうございます。

熱戦が描けているといいのですが…。

魔弾の強化や属性付与については以前の話に盛り込まれているので、こんなの無かったやろ!

と思われた方は、この機会に是非もう一度読み返して頂ければと思います。


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