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ガチャ87 飛龍の巣 最上層

 洞窟を抜けた先は、切立つ断崖だった。

 霊峰フェンロンの中腹に位置する断崖からの眺めは、形容しがたい美しさだ。

 尖塔のように伸びる天然岩。

 眼下に広がる雄大な緑と大地。

 地平線に浮かぶ蜃気楼。

 流れゆく霧が、伸ばした指先を通り抜けていく。


 そんな光景をリュウがやって来るまで独占していたのは、空の狩人「ワイバーン」の卵から飛び出したばかりの、6匹の幼体達だった。

 成人男性ほどもある卵の殻を被る、生まれたてのワイバーン達。

 身体の全てが未熟だった。

 しかし、目の前に現れた人間など、食うべきエサに他ならないと本能が教えてくれている。

 生まれながらに自在に動かせるその翼で、浮き上がった幼体がリュウに向かって飛んでいく。


「「ギュウアア!!」」


 包囲してリュウ襲いかかっていく幼体ワイバーン達。

 流れる涎と血走る目。

 小さくも鋭い牙がギラリと光る。


 リュウは自然体で、ギリギリまで接近するのを待ち、いよいよ食いつかれてしまうという段になってしゃがみ込んだ。


「実力差を考えろ!」


 鋭い叱責。

 逆立つ足が高速回転。

 蹴りの嵐が巻き起こった。


「「ホギュア!」」


 幼体に突き刺さるクロムグリーンのブーツ底。

 緑の旋風が幼体を弾き飛ばしていく。

 幼体達は抵抗もできず、もれなく絶壁から落ちて行った。


「……加減が難しいな。いまので、大分掴めたが」


 と姿勢を戻しながらリュウが呟きながら、どこかにいるはずの親のワイバーンを探し、周囲を見回した。


(リィオスは、片方どちらかが残って巣を守るという話をしていたが……。いないな。ミミックに呼び出された個体で全部だったのか?)


 だとすれば、修行としてはかなり物足りない。

 そう思いながら、岩場に何かモンスターが隠れていないか探すために断崖を歩き回っていると、断崖ギリギリにある大きな岩石辺りに、覚えのある魔力の揺らぎを感じ取った。

 それは、オーガ討伐直後の撤退劇を強いられるハメになった元凶『灰色魔力』だった。

 リュウの心臓が大きく跳ね上がる。


(またか……。今度は、負けんぞ。念には念を、だ)


 グリードムントの指環から取り出したのは、戦女神の祝福を浴びた小瓶。

 コンセスタDのコルクをそっと抜いたリュウが、一気に呷り、小瓶を投げ捨てた。

 硬質な岩肌にぶつかり、小瓶が派手な音を立てて割れ、破片が飛び散った。

 リュウはその様子を見ながら、目を大きく見開いた。

 一連の動きが、コマ送りで見えていたためだ。

 凄まじいまでの集中力が発揮されている。

 流石はSランクのマジックアイテムだ。

 リュウはそう感じながらも、フレイムタンとアイスブランドいつでも抜刀できるように構えている。


 しかし、何時まで経っても灰色尽くめの男が姿を現す気配がない。

 思えば、圧倒的なまでのプレッシャーも感じられなかった。

 不審に思ったリュウが揺らぎを感じさせる岩石に近づいていく。

 剣の間合いに入っても、まったく反応がないことを確認し、恐る恐る岩石の裏側を覗き見た。


 視界に入ったのは、一際大きなワイバーンの卵だった。

 明らかに先ほど倒した幼体よりも異常に大きい卵には、刻印に似た一種の陣が施されている。灰色魔力の揺らぎは、ここから漂っていたのだ。

 リュウは目を閉じ、高い集中力で探索限界距離まで気配察知を試みたが、灰色尽くめの男らしき波長を放つ個体は見つからなかった。

 リュウは落胆と安堵の混ざった溜息を吐き、己の三倍以上あろうかという卵に手を触れた。


(なんだこれは? なぜ、こんなに大きい?)


 掌越しに伝わってくる不気味な胎動。

 リュウは鑑定をかけながら、思わず身震いをした。

 結果は『ワイバーンキングの卵:状態従属』と出た。

 灰色尽くめの男の魔力を感じるに、支配下にあるということなのだろう。

 控えめに言って、最悪だ。

 そう思ったリュウは、後顧の憂いを残さぬように、氷炎双牙斬で粉々にしてしまうことにした。


「ハッ!」


 鋭い呼気。

 両腰に下げた魔剣の柄を同時に抜く。

 氷刃によって凍てつき、突き刺した炎剣によって、卵は破砕された。

 リュウが魔剣を仕舞うと同時に、灰色魔力の揺らぎも立ち消えた。


(こんなところにまで、アイツは来てやがったのか)


 そんな風に考えていたリュウの脳内に、けたたましいアラート音が鳴り響いた。

 まるで、殺気を隠そうともしない相手は、上空から一直線にこちらへと接近してきている。

 そう知覚した瞬間、斜め上方から高熱を放つ物体が飛んできた。


(当れば火達磨どころの騒ぎじゃない!)


 リュウが咄嗟に後方へ跳ぶ。

 目の前を通り過ぎた炎球が周囲の岩にぶつかると、蒸気を発しながら岩を溶かし始めていた。

 冷や汗をかきながら、リュウが上を見た時に目を疑った。


 雲海を抜けて来たのは、伝説にしか存在しないはずの飛龍。

 紅蓮のように全身を染めている飛龍は険しい表情で断崖に降り立ち、リュウの視界を奪うように大きく翼を広げた。


「再びこの業火炎たる妾の領域を荒らしに来たか人間! 覚悟はできておるのであろうな?」


「……一応言っておくが、俺がここに来るのは、初めてだぞ」


 戦闘態勢のまま、無駄だと思いつつもそう言うリュウ。

 しかし、業火炎と名乗る飛龍の目には、視線だけでも相手を殺せそうなほどの強烈な眼光が宿っていた。


「そんなハズがないわ! 妾の眷属を悉く奪って行った時に感じた薄汚い魔力を先ほど感じたから、戻って来たのだ。お主以外に誰がおる!!」


「人違いだ」


「ならば、先ほどまで無事であったワイバーンの卵が割れているのは誰の仕業だというのだ?」


「それは……。俺がやったが」


「奪うだけでは飽き足らず、幼体をも手にかけるとは! この外道が!!」


「話を聞いてくれる感じでは無さそうだな……」


「問答無用じゃ!」


 浮き上がった業火炎が、恐るべきスピードでリュウの間合いに侵入。

 火炎を纏わせた鋭い爪が無造作に振るわれた。

 コンセスタDで何とか反応することができたリュウは、咄嗟にアイスブランドを斬り上げた。

 燃え盛る爪とアイスブランドが嚙み合って、硬質な音が鳴る。

 火炎と冷気がせめぎ合い、睨み合う両者の間に、蒸気の境界線が引かれた。


「大人しく死ぬがよい! 人間!!」


 燃える爪を強引に押し込む業火炎。

 このやり取りだけで、どちらが格上かなど、かけた鑑定の結果を見るまでもなくわかってしまった。

 しかし、リュウは不敵に笑った。


「断るッ!」


 相手に飲み込まれたら、あっけなく死ぬだけだと、直感的に理解していたからだ。

 リュウは片手でなんとかアイスブランドを支え、空いた手で雷球を生成し、胸に押し込んだ。


「……全開だ。轟纏雷!!」


 紫紺のオーラを纏ったリュウは、一瞬アイスブランドを押し出し、即座に引き戻しながら後ろへ跳んだ。

 拮抗していた所で上手く力を流された業火炎はほんの僅かに姿勢を崩す。


 数コンマ単位の隙。

 普段であれば確実に見送るであろうタイミング。

 だが、コンセスタDで極限まで集中力を上げ、轟纏雷で高速移動を可能としたリュウにとっては十分な時間だった。


 着地を待たずにウイングブーツを起動。

 空中を駆け、逆手のままアイスブランドを抜き放つ。

 氷刃が長い胴に逆一文字を描く。

 斬った傍から凍りつく紅蓮の鱗。

 勢いのまま、空中疾走。


「くっ! 貴様ああああああああ!」


 薄くとはいえ、龍鱗を斬り裂かれた業火炎が、憎らしさを込めて叫んだ。


 地面に着地したリュウが振り返り、氷刃の切先を業火炎に向ける。


「高みへの踏み台に、伝説の飛龍族は丁度良さそうだ」


 上空を睨みつけながら、リュウは傲岸不遜に口角を上げた。





※業火炎の鑑定結果

―――――――――――――――――――――――

名前 業火炎

種族 飛龍族

レベル 283

HP 3519/3519

MP 1523/1523

筋力 1821

魔力 1647

耐久 1859

敏捷 2060

器用 1341

幸運 256


スキル

【宿りし業火lv10】

【火炎操作lv10】

【龍鱗lv6】

【ドラゴンブレスlv8】

【アクロバットlv8】

【身体制御lv9】

【格闘lv8】

【変化lv7】


魔法

【炎魔法lv3】


加護

【龍王の加護】

【炎精に愛されし者】

―――――――――――――――――――――――


お読み頂きありがとうございます。

※加筆しました。

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