表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/97

ガチャ85 ダリア、駆ける

「わかるように説明してくれ」


「実は……」


 渋面を浮かべるジョセフに、ダリアは豪猿とバックにいるであろう組織がエリーを脅しているということを説明していく。


「ということなの。ほら。エリーちゃんを助けないといけないでしょう? 同じハーレムを築くメンバーなんだから、困った時はお互い様なんですよ」


 あくまでもリュウがハーレムを結成する可能性があるというだけであるのだが、ダリアの中では既に決定事項となっていた。

 仮に、リュウが断っても、隣に居座るくらいの心積もりだ。


「だから、休暇は今すぐ下さい」


 執務机に両手を載せたダリア。

 細められた目が『許可がなくても休みますよ』と言っているように、ジョセフには見えた。


「なあ、ダリア」


 独身のジョセフは、まるで自分の娘に話しかけるようなトーンでダリアに話を振る。


「リュウと結婚できるなら、側妻でいいと言っていたのは、冗談だろう。まさか、本気だとでも言うのか?」


 ダリアは当然のように、

「もちろん、本気よ」

 と砕けた言葉で即答した。


 益々皺が寄り、ジョセフの強面が加速度的に増していく。


「……お前がそれでいいというのはわかった。確かに、リュウは稀にみる才能を持つルーキーだ。俺も期待はしているしな」


 渋々といった様子でリュウを認めるジョセフ。


「じゃあ、行かせてくれるのね? ありが……」


 許可を得たと思ったダリアはお礼を口にしようとする。

 しかし、言い切らせまいとジョセフが割って入った。


「だが! それとこれとは話が別だ」


「どうして?」


「拾いの親としては、お前に危険なことをさせたくないんだ。豪猿をとめるのに、何もお前がいく必要はないだろう」


 ダリアは一瞬口を噤んだものの、ジョセフの顔を正面から見返した。

 こういう時には言いたいことを言うべきなのだ。

 例え拾いの親だとしても。

 いや、拾いの親だからこそ。

 少なくとも、ダリアはそう思っていた。


「……でも、今の王都に、豪猿を止められる冒険者がいるかしら? 私がさっき資料に目を通した中では、Cランク以上の冒険者が軒並み地方都市防衛に当たっているようだけれど」


「確かにそうだな。しかし、それならばDランク冒険者を束にして派遣すればいいだろう?」


「残念ながら、そのランク帯は緊急依頼の護衛依頼でほとんど残っていないわ。戻って来たらすぐに次の護衛依頼をいれなきゃいけないのよ」


「……それほどか。こんな時に限って」


 瞼を閉ざし、声を絞り出すジョセフ。

 ダリアはゆっくりと首を振った。


「破格の報酬だもの。仕方ないわ」


「他に、方法はないのか?」


「ないわ。それに、怯える少女を救うのは、腕に覚えのある大人の女性が適任だと思わない?」


 そう言って、あるはずのない弓を引くポーズをとるダリア。

 ジョセフはため息をつくと、椅子にもたれ掛って天井を見上げた。


「お前と初めて会った時を思い出すなぁ」


――15年前。

 王国東部の砂漠をさまよっていた黒髪の美少女は、デザートゴブリンとの戦闘で疲弊しきっており、乗っていた馬から転げ落ち、愛弓と共に地に伏せていた。

 たまたま探索の途中で通りかかったジョセフが、黒髪の美少女の口に水を含ませて起こしてやると、黒髪の美少女はお礼もそこそこに、力強い瞳でこう言ったのだ。


「……素敵な街で焦がれるような恋をするために、海を越えて婚約相手から逃げ出してきたの。早くしないと追っ手が来ちゃう! おじさんは冒険者さんよね? 私を素敵な街へ連れて行って!」


 バカげた話だ。

 しかし、齢10そこそこの少女の見せる意思の強さに惹かれてしまったのも事実だった。

 それに、少女を捨て置くわけにもいかなかった。

 ジョセフは、助けてやるついでに願いを叶えてやることにした。

 冒険者活動の拠点。

 リーデンブルグ王国の王都レーヴォリへと案内したのだ。

 身寄りのないダリアは、当然のようにジョセフの元に居ついた。


(初恋はまだまだ先かと思っていたが……。まさか、こんな形になるとはな)


 随分と大人になった目前のダリアは、あの時と同じように、決意を秘めた瞳でジョセフを見つめている。

 いくら話しても、エリーを助けに行くのだろう。

 そう悟ったジョセフは、苦笑いを浮かべた。


「……少し待て」


 ジョセフが執務机に置いていた音声通信用オーブを起動させる。


「リィオス。聞こえてるか?」


「おや? ジョセフさんじゃないですか。どうされました?」


 ギルドマスター室に響く、間の抜けた王国最強の声。


 ジョセフは頭を掻きながら

「ウチの札付き冒険者コンビが、どうやら悪さをしていそうでな。助けが欲しいんだが、頼めるか?」

 と言った。


「もちろんですよ! ただ、主力級はモンスターが散発的にでも現れる限り、動くことができません。騎士団から人手を借りることになりますが、それも数に限りがあります。どんな人材が欲しいですか?」


「尾行に長けた、女性騎士を頼む」


「女性騎士ですか。いるにはいますが……。なぜ、女性騎士がいいのですか?」


 腕力だけで考えれば男性の方が役に立つ。

 敢えて女性の騎士を要請することに疑問を持つのは当然であった。


「やすらぎ亭の看板娘が、札付きどものターゲットのようでな。脅されて王都の外へ出て行ってしまったらしい。それで、俺の義娘むすめが助けに行くと言って憚らないんだ」


 なんとなく決まりの悪いジョセフは顔を顰めた。


「ハハハ! ダリアなら、そう言ってもおかしくないですね。わかりました。今すぐに手配します」


「ああ。それと、軍馬を頼む」


「飛び切り足の速い馬を用意しましょう。騎士と軍馬の準備が出来次第、門に行かせます。それでは」


 打てば響くリィオスの反応に、ジョセフは舌を巻きながら、

「頼んだぞ」

 と言って通信を切ろうとした。

 

 そこへ、ダリアが滑り込む。


「リィオスさん! ちょっと待って!」


「どうしたんだい? ダリア」


「リィオスさん。やすらぎ亭はしばらく休むってエリーちゃんが言ってたのよ。でも、あそこは家族経営だから、お休みする必要なんてないでしょ? しかも、両親は緊急依頼なんて受けてないの。だから、もしかしたら……」


 最悪のケースも容易に想像できる状況である。

 話を聞いたリィオスは通信用オーブ越しに眉を潜めた。


「……エリーちゃんの御両親にも、危害を加えた可能性があるね。そちらも騎士団に調べて貰うように、手配しよう」


「お願いします」


 ダリアが深々と頭を下げたと同時に、真剣なリィオスの声が耳に届く。


「Bランクモンスターだって? 失礼!」


 通信を終えたジョセフがオーブを台座に戻すと、ダリアの方へ向いた。


「……これでよし。いいか、ダリア。決して深追いはするなよ? 無理だと思ったときは引き返してこい」


 完全に父親の顔をするジョセフ。

 ダリアは明るく笑った。


「ありがとう。お義父とうさん!」


「……職場でお義父とうさんと呼ぶんじゃない」


 口ではそういうものの、ジョセフの顔は赤くなり喜んでいるようだった。


「うふふ。最初にお義父とうさんが『拾いの親として~』って言うからいけないのよ」


 見つめ合った親子が、どちらともなくクスクス笑い出し、終いには大声で笑い合った。


「うふふっ! じゃあ、私。もう行くわ。あんまりグズグズしてられないもの」


 ダリアが扉に手をかけた所で、ジョセフが

「ダリア!」

 と大きな声で名前を呼んだ。


 ダリアが流れるような黒髪を靡かせて振り返ると、ジョセフはニヤッと笑い小さな革袋を投げてきた。

 慌てて受け止め、ダリアが中身を出す。

 革袋から出てきたのは、魔法銀製の小さな長方形の板だ。

 何かが書き込まれているようだが、ダリアは見たこともない文字が並んでいた。


「これは?」


「お守りだよ。本当にピンチになった時、握ってみろ。お前を必ず助けてくれるはずだ」


 ただ持っているだけでも、安心できる。

 そんな暖かな魔力を感じさせるお守りだった。

 親のぬくもりというのも無関係ではないとも、ダリアは思った。


「……ありがとう! 今度こそ、いってきます」


 心配そうに見つめるジョセフに見送られながら、ダリアは颯爽と冒険者ギルドを出て行った。

 ジョセフは二階の窓から、自宅へと向かって走るダリアを見つめながら、

「気をつけろ」

 と小さく呟いた。


◇◇◇


 家に着いたダリアは、自室に入るなりクローゼットに押し込んでいた戦闘用の胸当てを手に取った。

 機動性を重視した特殊な紫の胸当てを身に纏う。

 調整機能が働いて、豊かな胸にもジャストフィットする辺り、高性能な防具だとわかる。

 開いている胸元から谷間が見えなければ完璧なのにとダリアは思っていた。

 しかし、この装備はどうしても構造上、こうなってしまう。

 気にするだけ無駄というものだった。


 同様に、極限まで装甲を減らした腰巻をウエストに合うようにグッと締め上げる。

 これも、マイクロミニサイズとなっており、妖しい色香を放つ太股が惜しげもなくさらされていた。


 続けて東洋の雰囲気漂うグリーブとガントレットを装着。

 そのまま、最奥に置いていた中折式フォールディング式の弓を手に取った。

 通常の弓とは違い、中折式フォールディングの弓は矢を番える部分から伸びる両端が折り畳まれる仕組みを採用している。

 高グレードになると、取り回しも通常の弓と同等であったり、状況次第では上回るモノすらある。

 ダリアが手にしたものは、故郷から勝手に貰って来た、家宝『風弓』だ。


 風弓の性能はBランク。

 文句なしの逸品だ。

 そのため、普通の弓よりも、寧ろ取り回しが容易な部類に入る。

 女性にも扱いやすいようにと軽量化の魔法が施された風弓をスッと背負ったダリアは、家を飛び出ると、門へ急いだ。


 緊急依頼を請け負った人で溢れかえる王都の大通りをダリアは走って行く。

 城門に着いたダリアは、人だかりの中でもすぐに女性騎士を見つけることができた。

 軍馬に騎乗しているため、よく目立ったのだ。

 彼女の名はミレーヌ。

 斥候を任されることが多い騎士ということだった。

 さっそくダリアはミレーヌと一緒に訓練された軍馬に跨ると、できる得る限り最高の速度で南へと向かった。

お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ