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ガチャ84 女達の決意

 ダリアの列にも当然常に10人ほど並んでいる。

 しかし、手続きスピードが速く、入れ替わりが激しいのだ。

 先ほどまでは最後尾にいた農夫は、あと何十分待つのかと思っていた。

 だが、予想より随分早く終わりそうであるのだ。

 心底このカウンターに並んでよかったと思いながら、自分の番を迎えて依頼書と身分証を差し出した。


「食料の方で」


 ダリアは丁寧に会釈し、

「ありがとうございます。緊急依頼『飲食物』ですね」

 と言いながら紙面に目を通した。

 字が汚いだけで、不備はない。

 ダリアは手早く判を押し、身分証を農夫へ手渡しで返した。


「手続きが完了しました。頑張ってくださいね」


 ダリアが農夫の手を握りながらそう言って微笑んだ。

 気をよくした農夫は力こぶを作る。


「俺は見ての通り、腕っぷしだけが取り柄でねぇ。水汲みでもやってくるよ。姉ちゃんも頑張ってな」


 やる気を引き出すのも受付嬢の役目。

 ダリアは身を乗り出して、力こぶを見つめた。


「とても頼もしいですね。お気を付けて」


 農夫は美女に煽てられ、気持ちよくカウンターから出て行った。


「いってらっしゃいませ」


 と頭を下げたダリアは、鼻にツンとくる獣臭さが漂っていることに気がついた。

 ダリアの知る限り、この臭いを発するのは素行の悪さで有名な2人組の獣人パーティーしかいない。

 ドナル並みに厄介な相手。

 ダリアは内心でため息をつきながら、覚悟を決めて頭を上げた。


 しかし、正面に見えたのは革服を着た少女の姿だった。

「お願いします」

 と緊急依頼『薬草』の依頼書と身分証を差し出してきた少女は、ダリアから見て儚げに見えた。

 よく見れば、手足が蒼白く、微かに震えている。

 完全に体調不良だ。

 チークの上塗りがそれを余計に助長している。


(きっと、何か事情があるのね。えっと、お名前は……と)


 そう思ったダリアが身分証の名前欄を見て、目を見開いた。

 リュウから聞かされた恋敵ライバルの名前が載っていたからだ。

 それと同時に、横から覚えのある汚らしい声が聞こえてきた。


「よう、ダリア。今日は急いでいるんだ。早くしてくれよ」


 ダリアが声のした方を向くと、ここ数か月で見慣れた冒険者パーティー『豪猿』の兄貴分ダンクがエテキチを従えて下品に笑って立っていた。


「ダンクさん。今はこちらの女性の手続き中ですので、後ろに戻ってお待ちください」


 とダリアが注意するも、ダンクは意に介さずズイッと前に出てきた。


「何言ってんだ。俺も関係者だぞ」


 ダリアの疑いの眼差しが、ダンクに突き刺さる。

 しかし、ダンクはヘラヘラと笑ったままだった。


「薬草採取の護衛を実力派の『豪猿』にお願いしたいと言ってるから、わざわざついてきてやったんだ。そうだろ? エリー」


「エリーさん、本当ですか?」


 ダンクとダリアの視線を受け、エリーはコクリと頷き、用意していたセリフの中から適切なものを選んで口を開く。


「私はハイポーションの原料となるクシバノ草の群青地を知っていますが、そこは獰猛な獣が集団で出る場所なので、とにかく強い冒険者の方について来てもらいたいと思っていたんです。そんな時に『豪猿』がウチの宿に泊まってくれていたので、声をかけさせてもらいました」


「なるほど。それで、ハイポーションの群青地は何処に?」


 間髪入れずにダリアが質問を重ねる。

 重要な回復薬であるハイポーションの元となる薬草の場所は、当然ギルドとしても知りたい情報であるのだから、当然だ。

 エリーも聞かれることは想定していたため、特に動揺することなく答えることができそうで安心していた。


「王都の南東にある、小高い山の中です」


「他のパーティーにも協力要請をしてもよろしいでしょうか? より多く、効能のある薬草を得ることは急務なので、できればお願いしたいのですが」


 とダリアは王都の現状を考えれば当たり前の提案をした。

 しかし、エリーはそこまで尋ねられるとは思っておらず、歯切れが悪くなる。


「……ごめんなさい。その、それは、ちょっと困るんです」


一瞬言葉が詰まったものの、そのまま押し切るしかないエリーは

「あの山の獣は、人の気配に敏感なんです。これ以上人を増やすと、死人が出るかもしれません。だから、無理なんです」

 と、咄嗟に作ったそれらしい理由を並べた。


「そうなんですか……」


 ダリアは残念そうに眉を潜めながら、豪猿に挟まれた可憐な少女を見つめた。

 確かに、エリーの言う小高い山が南東にはある。

 ハイポーションの群青地はまだ発見報告がされていないが、それは冒険者が普段狩るべきモンスターの居ないエリアだから不自然ではない。

 代わりに、気性の激しい大型の獣が住んでいると噂でも聞いたことがあった。

 聞いた話の中で特に違和感のあるところはない。

しかし、オンナの勘が警鐘を鳴らしているのだ。

『この少女は嘘をついている』と。

 だが、正当な指名で正式な手続きを済ませようとするのを、勘を理由にして止めることなどできない。

 下卑た笑みでエリーを見やる豪猿の2人を見たとしてもだ。

 ダリアは無言で依頼書に判を押し、身分証をエリーに返しながら、何かを掴むために言葉を続ける。


「そう言えば、エリーさんってやすらぎ亭の従業員なんですよね?」


「そうですけど、それがどうかしましたか?」


「銀髪の冒険者、知ってますか? リュウっていうんですけど。彼は看板娘さんが綺麗だっていつも話してくれるんですよ。戻って着たら会いに行くと言ってましたが、宿を空けてしまってよろしいんですか?」


「ウチを贔屓して泊まってくださってますね。そうですか。リュウさんがそんなことを……。ダリアさん、リュウさんに伝えたいことがあるんですが、伝言をお願いしてもいいですか?」


「もちろんですよ。それで、なんとお伝えすればいいでしょうか?」


 エリーは目を閉じて俯いた。

 両親とリュウの命。

 どちらも諦めることなどできないし、したくない。

 両親の命を守るためには、一週間、なんとか人質として過ごし、豪猿から解放されることが必須だ。そして、リュウの命を守るためには、自分を救いにくることを止めさせる必要がある。

 どんなに成長著しいリュウと言えど、同ランク冒険者2人を相手に勝てる道理もないのだから。


「修行お疲れさまでした。

 やすらぎ亭はしばらく休業です。

 ……私は元気です。王都の緊急依頼を受けて遠くまで薬草を取りに行ってきます。

 戻りが遅くても、迎えに来ないでくださいね!

 久しぶりの冒険ですから、満喫させてください。

 それと、くれぐれも、自分の身体のことだけは大事にして下さいね。 

 以上です。お願いできますか?」


 エリーはダンクに睨まれながら、ギリギリのラインを見定めてメッセージを残した。

 ダンクは伝言内容を聞いた今も、ヘラヘラ笑ったまま。

 どうやら、機嫌を損ねるようなこともなかったようだ。

 エリーは誰にも気づかれないように、細く長く息を吐いた。


「……わかりました。受付嬢のダリアです。責任を持って伝えさせて頂きます」


 ダリアの直感が騒音をかき鳴らす。

 この少女は食い物にされる。

 そんな気がしてしょうがなかった。

 エリーを見ると、静かな決意を瞳に宿しているのがわかった。

 

(この子! きっと脅されているのね……)


 その決意は、オーク討伐に向かう新人女性冒険者のそれと同じに見えた。

 相手は恐らく、豪猿の2人か、バックにいるであろう組織だろう。

 王都にいて犯罪を働いた者は二度と王国の敷地を跨げなくなるだろうから、相当な大物組織のはずであった。

 ダリアの美しい顔が僅かに歪む。

 しかし、エリーはダリアが考えていることなどわかりもしない。


「ありがとうございます。では、豪猿の皆さん。出発しましょうか」


「ようやくか。さっさといこうや」


「ウキキ! じゃあね。ダリアちゃ~ん」


 エリーは豪猿を従えて、ギルドの扉から出て行った。


◇◇◇


 悲壮な少女の背中を見送ったダリアは、休憩時間を終えて戻って来た他の受付嬢を呼び止めると、窓口業務を交代してもらうと、階段を目指して走った。

 同じ女として、見過ごすことなどできない。

 それに、


(エリーちゃんに何かあったら、リュウが悲しむから)

 

 ダリアは力強く階段を上りきり、廊下を駆け抜け、ギルドマスターのいる部屋のドアを勢いよく開けた。


「ジョセフさん! しばらく休暇を下さい!」


「急にどうした? お前がいないと業務が滞るんだ。今日、明日は特に忙しいってわかっているだろう? 別の日にしてくれたら、休みも増やしてやるから、ずら……」


「できません!」


「理由は?」


 ダリアは悪戯っ子のように微笑んだ。


「正妻候補のピンチを黙って見過ごすと、将来の主人に嫌われてしまうので」


 意味不明なダリアの発言。

 ジョセフの目が点になった。

お読み頂きありがとうございます。

現在、二回目の初巻分改稿に入りました。

投稿ペースは変わらずでいけると思います。

頑張ります!

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