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ガチャ83 スマイル、スマイル

 目ざとく機を伺っていたエテキチが跳びつき、

「エリーちゃん。危ないからナイフは貰うね~」

 と言ってナイフを拾い上げる。

 

 エリーは交渉に役立つナイフが取られていく様を見ていることしかできなかった。

 無力感と大切な人を失う恐怖が全身を支配し、エリーは震えていた。 

 苦しく長い時間が続く。

 縋るような思いで祈るエリー。

 脳裏に浮かぶのはリュウの精悍な顔つきだった。

 しかし、頼もしい義兄の映像は、野蛮な舌打ちで掻き消されてしまう。


「チッ。いつまでそうしてるつもりだ? さっさとギルドに行く準備をしろ!」


 ダンクにしてみれば、あまりに長い沈黙であった。

 例の執事から出されたスケジュールを考えれば、なるべく早くここを出る必要がある。

 ダンクは不機嫌そうに眉を潜めた。


「はやくしねぇと、2人とも殺すぞ! 別に、俺達は失敗したら逃げるだけでいいんだからな」


 急かす言葉に、エリーは首を縦に振る以外の方法が見つからなかった。


「……着替えてくるから、少し待って」


 そう言って更衣室に向かうエリーの肩を掴むエテキチ。


「エリーちゃん。変なものを持ってきそうだから、オイラがついていくね」


 エリーは手を振り払いながら振り返る。


「そんなこと、しないよ。私はお母さんとお父さんを助けたいんだから」


「そうはいってもねぇ~? そのワンピースの中にも、実は変なものを隠してたりするんじゃないの?」


 丸い瞳を歪めながら、エテキチは怪しい手つきで両手を動かし、エリーに近づいてく。

 後ずさるエリーの背後は壁。

 直ぐに動けなくなり、息を吞む音が調理室に響く。

 とうとう、黄色いワンピースの裾に猿の手が掛かった。

 

「やめて!」


 エリーが身を捩って逃れようとした時。  


「エテキチィ!!」


 ダンクの怒鳴り声が、エテキチの手を止めさせた。

 エリーも驚いて身体を強張らせている。

 エテキチは猿耳をヒクつかせた。


「でも、アニキ。またナイフとか持ってきたら、メンドクサイよ~?」


「……いいから、やめとけ」


 殺意の籠ったダンクの目つき。

 エテキチはやれやれとワンピースの裾から手を放し、両手の平を上に向け、首を傾げた。


「はいは~い。アニキには従いますよ~」


 エリーは慌てて更衣室へ向かい、急いで中へ入るなりドアを勢いよく閉めた。

 木製のドアが軋み、衣擦れの音が響く。

 エテキチは聞き耳を立てながら、ダンクに向き直った。

 

「ねぇ、アニキ。どうして美味しく頂けるチャンスを逃しちゃうの? エリーちゃんは娼館では絶対会えない美少女なのに」


「わかってるなら、もう少しだけ待てよ。半減しちまうだろうが」


「どういうこと?」 


「躾をして、自分から股を開くようにしてやらねぇとダメだろ。無理矢理ヤルと、普人族の女はすぐに壊れちまうからな。目的地についたら、あの執事が寄越したこの鞭と薬でゆっくり調教してやる。それまでは我慢だ。いいな? ウホッ、ウホホ!」


「ウキキ! オイラ、待ちきれないよ~」


 いやらしく笑う豪猿の2人が邪な想像を張り巡らせる中、小さ目な革の服へと着替えを済ませたエリーが戻って来た。

 はち切れそうな革服の胸元を見て、ダンクは鼻の下を伸ばす。


「ウホッ! 誘ってんのか?」


「これしか持ってないだけ! 勘違いしないで」


 成長期のエリーには小さいのか、整ったボディラインがくっきりと浮かび上がっていた。

 数年前に、やすらぎ亭を休みにして、旅行に行く時に買った革の服。

それ以外に、外へ探索にでるに相応しい服など、エリーは持ち合わせていなかった。

 ダンクとエテキチの視線が上下左右からエリーの身体を舐めまわす。

 

 エリーは思わず身震いをしながら、掠れ声を絞り出した。


「……っ。早く、いこうよ」


 ダンクはまだまだ実っていく若い肉体から視線を外すこともせず、ニヤニヤと笑いながら計画の手順を思い出していた。


 僅か一週間でエリーを王国最南端に位置する森まで連れていかなければならない。

 目的地に着いたら、顔に笑顔を張り付けている執事に通信し、回収に来る人物を待つということであった。

 だが、早々に連絡するとエリーで遊ぶ時間が無くなってしまう。

 誰の邪魔の入らない場所で、金も払わず美少女を貪れる貴重なチャンスだ。

 回収に来る人物への連絡を少々遅らせても期限内なら問題ない。

 ギリギリまで連絡するのを引き延ばせば、数日程遊べるはず。


 目的の場所に早く着けば、それだけ遊べる時間も長くなるのだ。

 既に、依頼を受けてから1日経っている。

 選りすぐりの馬車を買って、すぐにでも出発したいところであったのだ。

 

 ダンクは乾いた鼻を舐め回すと、意識を切り替え、依頼達成のために動き出すことにした。


「それもそうだ。ここで油を売ってると、時間が無くなっちまうな。エリー。お前が先頭に立っていけ。エテキチと俺は左右に分かれて護衛役だ。エテキチ、出発するぞ」


 仕事をする気になったダンクが鋭い声で指示を出す。

 エリーはすぐさま先頭に立って歩き始めた。

 しかし、エテキチはエリーの揺れる美尻を涎を流しながら見惚れていたのだ。

 ダンクは額に血管が浮かべ、右腕を大きく回し始めた。


「エテキチィ! ぶっ飛ばされてぇのか!」


 殺気の籠った怒声。

 エテキチのありとあらゆる毛が逆立った

 アニキと慕うダンクのポーズは、難敵をなぎ倒してきた必殺のラリアットの構えだった。

 美少女を味わえないまま依頼が終わってしまうのだけは避けたい。

 そう感じたエテキチは、揺れる美尻から目を外し、さっと背筋を伸ばした。


「す、すんません、アニキっ! すぐいきま~す!」


「チンタラすんなっ!」


 エテキチのどこか間延びした声にイラつきながらも、ダンクはラリアットの構えを解いた。


「おら。早く行けっ」


 エリーの元へと急ぎ、目の前を通り過ぎていくエテキチの頭。


「はいは~い……あいたたた!!」


 軽く殴って落ち着いたダンクは、エリーの横にピタリとついて囁いた。


「いいか。自然に降るまえ。できなきゃ、お前の両親の命はそこまでなんだからな」


 やすらぎ亭を出たエリーは、むさ苦しい獣人に左右から挟まれながらも、王都の通りを足早に歩く。

 なるべく人の少ないところを選んで、声をかけられないように気を付けながら。

 それでも出会ってしまうのは看板娘であればこそ。


 挨拶にもなるべくいつも通りに応えなければならない。

 エリーは泣きそうになるのを押し殺し、無理やりにでも口角を上げ、健気に手を振って応えながら足を進めた。


 冒険者ギルドの大きな建物が目に入る頃には、エリーの顔から血の気が引いてしまっていた。

 アンナの化粧道具で頬を明るく染めていなければ、誰かが医者を呼んでもおかしくないほど、蒼白い顔色だ。


 ギルドのドアを開ける時、豪猿の2人がお尻を凝視しているのがわかって吐き気がした。

 しかし、それでも笑顔は絶やさない。

 両親の命が、自分の一挙一動にかかっている。

 絶やすわけには、いかないのだ。

 

 気丈に。

 普通に。

 いつもどおり。

 スマイル、スマイル。


 エリーは心の中で繰り返しながら『一番進みの早いカウンターへ並べ』と言うダンクの命令に従い、男だらけの列だけ進みが早いとわかると、覚束ない足取りで列の最後尾にいる農夫の後ろへと並んだ。

 

◇◇◇


 緊急依頼が出てすぐの冒険者ギルドは絶えず人が押し寄せて混雑していた。

 カウンターには受付嬢だけでなく、臨時で事務職員も出張って依頼受注の対応に追われている。

 どのカウンターも常に十人以上は人が並んでいるようだった。

 そんな中、明らかに回転率の良いカウンターが1つだけあった。


 常に口と手を同時に動かす黒髪の美女。

 器用さと頭の回転の速さがそれを可能にしていた。

 受付嬢のはずなのに、どこか気品ある佇まい。

 鼻の下を伸ばす男をあしらう姿すら妖艶さが感じられる。

 王都冒険者のマドンナ、ダリアだ。


お読み頂きありがとうございます。

一周年おめでとうの感想、とても嬉しかったです。

本来なら、個別に感想を返信したいのですが、なかなか返信することができていませんので、こちらでまずはお礼させて下さい。

V字回復するブックマークにも心躍りました。

今後もご愛読よろしくお願いしますm(__)m


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