ガチャ79 憑依魂宿る宝箱ミミック
ワイバーンはマリもリュウの仲間だと判断し、襲い掛かっていた。
対するマリは、ワイバーン如きは瞬殺できるはずなのに、適当にあしらっていた。
時折、力加減を間違えてワイバーンを三又槍で切り裂いていたものの、基本的には殺さないように、ゆっくりとしたモーションで立ち回っている。
リュウは凄惨な笑みを浮かべた。
「いい度胸だ。覚悟しろ」
雷魔光圧気を放出。
轟音を置き去りに、戯れているマリの頭上へ飛来。
「む。マスターが消えた? ――うぐっ!」
リュウがマリの背中に思い切り回し蹴りを叩き込んだ。
真っ逆さまに地面へ落ちていくマリ。
ミミックはその場で上蓋を開き、黄土の瞳に愉悦を浮かべ、エサが落ちてくるのをジッと待ち構えていた。
箱隅から出ている舌から、ヌメヌメした唾液が垂れる。
「なんと汚らわしい! 断固拒否する!!」
寒気を覚えたマリは落下を止めようと翼を必死に上下させる。
「危ない所だった」
途中で制止し、マリが安堵の声を漏らした直後。
伸びてきた粘つく舌に身体を絡めとられてしまう。
「ああっ! なんだこの感触は! 気色悪い!! ウッ……」
マリは、全身に鳥肌を立て気絶。
ミミックが勢いよく舌を収縮させ、一気にマリを引き寄せた。
マリが箱の中に飲み込まれようという時。
リュウは練り込んだ雷魔光圧気を爆発させ、天に右手を突き上げる。
解放した雷魔力を一気に昇華。
広間上空に漂う雷雲。
雲間を走る幾本もの稲光が、暗雲の中央に収束していく。
巨大な雷龍が暗雲の中で渦を巻いた。
「……裁け、雷鎚之龍!」
執行の命を受けた雷龍が、暗雲を飛び出した。
「はっ! なんだこの魔力反応は! マスターか!」
と意識を取り戻したマリが咄嗟に障壁展開。
直後、極大の雷柱が広間を埋め尽くす。
「ギュギャギャ!」
「ギャーッ!」
圧倒的な雷光と轟く炸裂音。
雷柱に巻き込まれたワイバーンは、強震する肉体を焼き焦がされ絶命。
下僕のナイトは雷柱に触れたそばから消し炭になる。
辺り一面が灰の海と化した。
これで仕留めたか。
リュウがそう思った矢先。
灰塵を撒き散らしながら、黒焦げになったミミックが跳びでてきた。
「コノ依代ハ、モウダメダ! 次ハ、アノ剣ダ! ニンゲン、ヨコセェエエ!!」
血走った眼でアイスブランドを睨みながら、舌足らずに叫ぶミミック。
謎の文様浮かぶ舌は、半ばまで魔寄せの香ごと焼失していた。
援軍が来る気配も同時に無くなっていた。
完全にタイマンじゃないか。
リュウはアイスブランドを鞘ごと持ち上げながら嘲笑してみせた。
「箱如きが、この魔剣を欲しいっていうのか。上等だ。奪えるもんなら、奪ってみろよ」
ミミックがダメージを負っているように、リュウも雷鎚之龍のような大魔法を放つ余力など既にない。
状況は五分五分。
いや、身体能力で劣るリュウの方が分は悪いのは明白だった。
そんなことは、お互いに理解している。
勝負を決めるのは次の一手だということも、同様だ。
石畳に降り立ったリュウはアイスブランドを静かに納刀。
微かに残った雷魔力を鞘内で循環。
腰を深く落とし、脚を前後に開く。
腕は眼前。
目を閉じる。
全神経を、右手に集中させた。
ミミックはリュウが動かないと悟り、血走った眼を嫌らしく細めた。
箱底をしならせ、タメを作り切ったミミックが突貫。
「喰ワセロ! 宝クワセロオオオオオオ!!!!!」
寸前まで、叫ぶ人食い箱が迫っている。
しかし、リュウは目を閉じたまま、微動だにしなかった。
いや。
まだだ。
堪えろ。
あと少し。
そうだ!
ここだあああああああああああッ!!
カッと目を見開いたリュウの視界は、ミミックの暗い口内で一杯となる。
ミミックの上蓋が、今まさに閉じられようとしていたのだ。
構うものか。
幾数千と繰り返した動作で、神鉄製の柄をつかみとる。
「――魔法剣・瞬雷絶氷刃!!」
雷光纏う氷刃を斜め上に抜刀。
急速に凍てつく大気。
ミミックは氷像と化した。
一拍遅れで通り抜ける紫電。
氷像が粉々に砕け散る。
白藍の輝きが、一面に広がった。
「……箱如きが、俺の宝を奪うだと?」
キンッ。
甲高い音を立てて氷刃を再び納刀。
「片腹痛い。寝言はあの世でいってくれ」
全身を襲う虚脱感には勝てず、片膝をつきながらも、そう強がるリュウであった。
◇◇◇
灰の海から蝙蝠の翼と羊の角が突き出し、マリがむせ込みながら強引に出てきた。
マリは明らかに強くなったリュウを見て、魂を飲み込むのは時間がかかりそうだとため息をつく。
「……マスターは直ぐに死ぬと思っていたが、評価をし直す必要があるな。稀に見る強者の素質を感じる。困った」
「マリ。お前はストレートすぎるな。やるからには勝つ。当然だ。だが、それよりも……」とフレイムタンの鞘に目を落とすと、リュウはそれ以上言葉を続けることができなくなった。
ミミックは文字通り、跡形もなくなった。
幾度も窮地を救ってくれた愛剣フレイムタンを飲み込んだまま、消えたのだ。
今ばかりは、レベルアップの感触に素直に喜ぶこともできなかった。
だが、マリは感傷に浸るリュウのことなど気にもかけず「そうだ。感じると言えば、マスター。あの雷鎚之龍という技、痺れ具合が最高だ。もう一度所望する」と尻尾を激しくクネらせる。
「……言ってろ」
リュウは相手にせず、コレクションロスに陥るのだった。
しばらくの間、マリと心底どうでもいいやり取りを続けながらぼうっとしていると、リュウは広間の中央で何かが発光していることに気がついた。
近寄ると、最初にミミックが宝箱に擬態して居座っていた場所に、戦闘中に見た不可思議な文様があった。
当然のように後ろをついてきたマリが口を開く。
「憑依魂族とは、誠に不可思議な生き物だ」
「マリは、これのことを知っているのか?」とリュウが絨毯越しに光る文様が描かれた陣を指さした。
「ワタシは上級悪魔。大抵のことは知っている。これは送還陣。特定の場所に保管していたものを、別の場所に送り込む魔法陣のことを、そう総称している」
戦闘中、突然ミミックの舌に現れた魔寄せの香を思い出し、リュウは眉を潜めた。
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