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ガチャ76 女将とコック長の愛娘に迫る危機

「エリー! ちょっとお酒の買い出しに行っておくれ!」

と、調理室で酒棚をみた女将が、丸々としたほっぺを大きく動かしながら叫んだ。


「たまにはお母さんが行ってよ! アレ、すごく重いんだから!」


 誰もいない食堂で客が残した朝食を片づけ始めていたエリーは『当然あんたがいくべきなんだよ』という態度に腹が立ち、そう怒鳴り返した。

 女将はわざとらしく目を見開くと「何を言ってんだい! アンタ、最近オヤツ食べ過ぎて太ったかもしれないって心配してたのを、もう、忘れたってのかい? 見ればなるほど、二の腕辺りだけじゃなくて、脚も怪しいもんだよ」と言ってエリーの太股を触り、鼻で笑ってやった。


「酷い! だいたい、お母さんは人のことを言える体型じゃないでしょー!?」と女将のふくよかな腹を指さすエリー。

 しかし、女将は腹を叩くと「女将ってのは、どっしりしてるくらいでちょうどいいのさ! そんなことより、リュウが戻ってきたらどう思うかね? アンタの二の腕と太股を見て、幻滅しないといいけど」と言ってニヤリと笑った。


 最近ちょっと甘いモノ食べ過ぎたかな。

 エリーはため息をつき、気になるお腹周りも撫でてみた。

(なんとなく、昨日より前に出てる!?)

 実際にはそんなことはないのだが、太ったと思い込んでしまったエリーは、この時点で女将の話術に完敗を喫したのだった。


「………………はぁ。わかったよ。行ってくる。ビール、何本いるの?」と項垂れるエリー。


女将は「4ケース分だね。はやくお行き!」と大笑いしながらエリーの背中をバンバンと叩くのだった。


「もう。急かさないで! 準備してくるから」と言って更衣室に入ったエリーはエプロンと制服を脱いで、ブラジャーとパンティーだけになった姿で鏡に映る自分のカラダを点検するように見つめた。

 鏡の中の少女は服を脱ぐと発育の良さがわかる肉付きの仕方をしているようだった。

「胸、ちょっとだけきつくなってきたかな」と言って嬉しそうに両乳をゆっくりと揉むエリー。リュウが胸の谷間に食いついて以来、友人から教えてもらったサイズアップのマッサージを密かに毎日姿鏡の前に立って行っているのだ。

 着替える時は必ずやる徹底ぶりだった。

 身体が温まるくらい入念にマッサージした後、腰を下ろしたエリーは、体操座りになって指先をパンティーと太股の付け根辺りに運び、足先へと向かって全体をゆっくりと撫でまわしていった。

 友人曰く、足がすぐに細くなるマッサージだそうだ。

 太いなんて言わせないんだから!と思いながらエリーは何度も繰り返すのだった。

「んんっ」

 マッサージを終え、身体を伸ばしたエリーはお気に入りの黄色いワンピースを着て更衣室を出た。

 なんだか気分まで明るくなってきたエリーは鼻歌を歌いながら駆け足で玄関まで向かった。


 すると、無口なコック長である父親が珍しく顔を出し「最近は物騒だ。街の中でも、十分気を付けて行け。お前は綺麗な娘だから、変な男には気をつけろよ」と普段の3割増しでしゃべりかけてきたのだ。

 こんなに天気がいいのに。今日は雷でもなるかもしれない!

 と驚きながらもそんなことを想ったエリーは、後ろを向き「エヘヘ。お父さんは心配性だね! 大丈夫大丈夫! どうやっているかは知らないけど、犯罪者は王都に入れないじゃない? それに、こんなに治安もよくて仕事もある都市はここしかないんだし、住めなくなるとわかってて悪いことする人なんて、きっといないよ」と笑った。


「……そうは言うがな」と渋るコック長の背中に「しめっぽいこといってんじゃないよ、ケン!」と張り手をかます女将。バチンッと派手に音が鳴る。


「痛いだろう、アンナ」と言うケンの背中は、服に隠れて見えないだけで、特大の手形がついているのは間違いなかった。伴侶となってこの方何度も身をもって体験しているから、見なくてもわかるのだ。

 エリーが気の毒そうにケンを見ていると、アンナは意味深に笑った。

 

「いざとなったら、リュウがきっと助けにきてくれるらしいからね。安心していいよ」


「えっ! お母さん、リュウ兄さんから手紙でも来たの!? 見せてよぉ!!」


「なーに言ってるんだい。アンタ、毎晩のように『ああ、信じていました! リュウ兄さん!』って、ヨダレ垂らしながら枕を抱きしめて寝言いってるんじゃないか。てっきり、恋文の交換でもしてるのかと思ったけど、違うのかい?」とニヤニヤ笑うアンナ。


 エリーは頬を膨らませ「もう! お母さんなんて知らない!」と言って食堂に置いてあった最低限の荷物だけを持つと、顔を真っ赤にしながら飛び出していった。

 元気に走って行く娘の姿を見送るアンナとケンの目が細められる。


「元気よくいきなさい! エリー!!」


「達者でな……」


 そう言った二人の前に、大きな獣のような影が落ちてきた。


「挨拶はすんだろう。さあ、こっちにこい」とゴリラのような風貌のダンクがそう言ってアンナの腕を掴んで強引に引っ張った。


「娘に、手出ししないってのは本当だろうね!」とアンナが声を張り上げる。


「……」ケンも無言で無法者を睨みつけていた。


「お前たち次第だな! ちゃんと言うことを聞けば、手は出さんぞ?」とダンクが大きな声を出すと猿耳のエテキチが「アニキ、本当かよ? エリーちゃん、娼館にもなかなかいないかわい子ちゃんだったのに?」とおちゃらけて言った。

 

「アンタ達ねぇ!」「……黙ってるだけだと思うな!」

 と拳を振り上げるアンナとケン。しかし、2人の記憶が残っているのはここまでであった。


◇◇◇


 エリーがいつもの商店買ったビールを台車に乗せて大通りをやすらぎ亭に向かって歩いていると、大勢の人が王城前の広場に集まり騒がしくしていることに気が付いた。


「おいおい! まじか! こんなに貰えるならやってもいいかもな」


「私、薬草は知ってるから役にたてるかも」


 と口々にする人々。

 エリーは多少気になるものの、さっさとこの重いビールをやすらぎ亭まで運んでしまいたいという気持ちが勝り、歩みを続ける。


「台車が動かしずらいなぁ。いったいなんだろ?」と言いながらエリーが人混みを掻き分けて進んでいると、突風が吹いて顔に紙が貼りつく。


「何?」とエリーが紙を顔から引きはがすと、それが依頼書と呼ばれるものだとすぐにわかった。

そこにはこう書かれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

依頼主 リーデンブルグ王国


指定ランク 不問


依頼内容

 現在、王都は近年稀に見るモンスター侵攻を受けている。幸い被害は少なく、最近はモンスターの侵攻の頻度と個体レベルが低下しており、安定して撃退することができている。しかし、王国政府としてはこれが一時的なものであり、第二次侵攻があるものと想定している。このまま籠城していては食料やポーションが底を尽きてしまうだろう。そこで、モンスター侵攻が落ち着きを見せている今、一週間という期間限定で門を開放し、その間にできうる限りの物資を集めることにした。だが、我々だけでは足りない。どうしようもなく人手が足りないのだ。

 そこで、第二次侵攻に備えるための物資調達に、有志ある国民の力を借りたいと思っている。

 軍や冒険者と一緒に、この難所を乗り越えて欲しい。

 受付は冒険者ギルドにて行う。自らの街を生かすために、共に立つ者が1人でも多いことを祈る。


調達対象

 飲食物、薬品、薬草等


期限1週間以内


飲食物:1日銀貨5枚+出来高により上乗せあり。

薬 草:1日銀貨10枚


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そうなんだ……」

 エリーはポーションの原料になる薬草や花について知っている。だが、やすらぎ亭に癒しを求めてやってくる客が最近は増していて、看板娘として離れるわけにもいかないと思うのであった。


 せめて依頼書をやすらぎ亭に貼っておこう。

 そう決めたエリーは再び台車を押し、広場を抜けてやすらぎ亭へと向かって行った。

 両親がどうなっているかなど、露程も知らず、鼻歌を歌って。

お読み頂きありがとうございます。

今月は更新が遅くなり申し訳ありませんでした!

10月はなるべく週一でと思っています。

また、詳しいことは活動報告にてお伝えしたいと思います<(_ _)>

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