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ガチャ75 ならず者たちの名は豪猿

「民の協力か。一見悪くないように思えるな。しかし、小規模とは言えモンスター侵攻があり、帝国軍の動きにも気を配る必要もある。民にとって、外へ出るのはリスクが大きすぎるだろう」と言いながら、シュバルツは真意を探るような目つきでオズワルドの瞳を見つめた。


「具体的には、どのような方法を考えているのだ? オズワルド卿」


 オズワルドは大袈裟に両手を広げ「軍と冒険者に協力を仰ぐのです」と言って、議事堂に集まる全員を一望した。


「狩りや水の確保については量がありますから、正規軍と生業にしている民を中心に組んでもらいます。薬草採取は、嵩が少ないでしょうし、冒険者と知識のある民を中心に動いて貰います。無論、火急の案件でありますから、報酬も十分に支払うべきでしょう。期間は一週間」


 言葉を切ったオズワルドが、濁った瞳を見開いて「これで、当面の食料とポーションが用意できるでしょう」と鼻息を荒くさせた。


 沈黙するシュバルツが、リィオスに顔を向けた。

 リィオスは臣下の礼を取って「帝国と反対の南側で、十分な護衛をつけることができれば可能かと思います」と静かに答えた。


「わかった。では、オズワルド卿以外に、意見のある者はいるか?」


 シュバルツがテーブルについている高官達を眺めていくが、誰一人微動だにしなかった。

 公爵の態度と言動は、普段と180度違う。

 覇気を剝き出しにしたことがこれまでに一度でもあっただろうか。

 違和感の塊でしかない。

 シュバルツはオズワルドの悪魔のような濁った瞳を見つめる度にそう思うのだ。

 しかし、提案自体は民のためによく考えられたものであった。

 反対する者もいない。

 かくいう自分自身が、この案を望んでいる。


(間違いではないはずだ。これが、民を傷つけず義を貫ける唯一の方法だろう)


 シュバルツは思索を打ち切って立ち上がり、一斉にこちらを向いた高官達に向かって命令を下す。


「…………オズワルド卿の提案を採用しよう。明日の朝、食料確保と薬草採取の御触れを出す。皆、迅速に動いてくれ」


 会議が終わり、議事堂を後にしたオズワルドの口元には欲望に塗れた笑みが浮かんでいた。


 ◇◇◇


 月のない夜。王都の外れにある酒場で、公爵の執事ワトキンは二人組の冒険者が顔を真っ赤にして酒を飲んでいるのを見つけると、完璧な愛想笑いを浮かべながら近づいて行った。

 もちろん。事前調査は済んでいる。

 Cランク冒険者パーティー『豪猿』。他国から渡り歩いてやってきた実力派だが、先日ギャンブルで大負けし、文無しになって宿を追い出されている。このところは近くの狩場で適当にモンスターを倒し、安酒を煽って飢えを凌ぎ、娼館通いもやめているそうだ。

 そんな輩が、食いつかないはずがない。

 ワトキンはそう確信しながら「とある貴族様からの極秘依頼です。報酬はしばらく遊んで暮らせる額ですよ。興味ありませんか?」と筋肉質で背丈の高いゴリラのような風貌の男へと声をかけた。


「あん? 冗談はその薄ら笑いだけにしておけよ、普人族!」とゴリラ顔が酔った勢いでワトキンの胸倉を掴み、片手でズイッと天井付近まで上げてしまう。


「アニキ! こいつから金の匂いがプンプンするぜ!」と相方のサル耳男がウキキと笑った。


 ゴリラ男が泡を吹いているワトキンを一度睨みつけると「エテキチィ。冗談じゃねぇだろうな?」と疑いの眼差しを相方に向けた。


 エテキチは「オイラの鼻は金と女の匂いにだけは敏感だって、アニキも知ってるだろ?」と能天気に笑う。


 ゴリラ顔はワトキンを椅子に座らせ、軽くビンタした。


「ぐわっ」


 ワトキンが目を開けると、視界一杯に毛深く堀の深い獣の顔が映る。

 反射的に喉元まで夕食で食べたスープのイモが出かった。

 しかし、こんなことで動じていては、公爵に仕えることなどできない。拷問のような日々を潜り抜け、公爵家執事長となったのだ。

 ワトキンは、酒気混ざった獣臭さに吐き気を催しながらも、愛想笑いを崩すことなく立ち上がり、ゴリラ顔に頭を下げた。


「ダンク様。失礼いたしました。私はとある貴族の執事を務めている者でございます。依頼はあなた方なら簡単にこなせることです。ある人物をある場所まで連れてきて頂きたいのですよ。その代り、王都には住めなくなるかもしれませんがね。……手付金として、まずは、これだけ用意して参りました」


 ワトキンは周囲の客に見えないように懐から白金貨を取り出しつつ「もう1枚、ありますよ」と囁いた。


「きなくせぇ話だな?」とダンクがワトキンを睨む一方、エテキチは「うまそうな話じゃん!」と差し出された白金貨の鈍い輝きに目を眩ませていた。


「さようでございます。表沙汰にはできない依頼だから、高額なのですよ」


「ですが、あなた方はそもそもこの国の人間ではない。ここに住めなくなっても困らないのではありませんか? 他国で、豪遊して暮らすもよし。暗黒街で名を上げるもよし。使い道に困るほどの報酬を準備する用意が、こちらにはあります」


「オイラ、バヌヌもっと食いてぇし、酒も女も我慢の限界だよ。なぁ、アニキ。話くらい聞いてやってもいいんじゃない?」と丸い耳をぴくぴくさせた。


 粗悪なエールに嚙み切れないジャーキー。

 金払いが悪いと知った途端、眉を潜める娼婦。 

 確かに、エテキチの言う通りだった。

 我慢強い方ではないという自覚がダンクにも多少あった。

 きな臭いのはこの際目を瞑ろう。いざとなれば己の腕力に物を言わせて、目の前の普人族から白金貨を奪って逃げてしまえばいいのだから。

 そう思ったダンクは「……エテキチがそんなに言うなら仕方ねぇ。おい、執事。話くらいは聞いてやる」と恩着せがましくワトキンの肩を叩いた。


 ワトキンは激痛にも顔を歪めず「では、ついてきてください」と言って冒険者パーティー『豪猿』を密かに立てた公爵家の別荘へと連れて行き、エリーを誘拐するための作戦を伝えた。

 期間は一週間以内。成功すれば白金貨50枚。そして、エリーで少々遊んでも構わないと言われたダンクは銅貨の入りそうな鼻穴を更に押し広げ、手付金と呪いのアイテムを受け取り「楽勝だ。すぐ戻ってくるから金の準備はしておけよ!」と言って別荘を出ていく。


「ウホ! 腕がなるぜ」

「ウキキ! エリーちゃん、待っててねー」


 暗がりに下品な猿とゴリラの笑い声が木霊する。

 ワトキンは豪猿が出て行った後、別荘の中で使い捨て通信用オーブを起動した。


「公爵様。豪猿が依頼を引き受けるそうです」


「そうか! よくやったぞワトキン! うはは! うははははは!」


 ワトキンから依頼料などの報告が続けられるが、オズワルドの耳にはそれ以降何も入ってこなかった。頭の中は、既に帝国で理想郷をどう作り上げるかで一杯だったのだ。


◇◇◇


 王城で会議があった翌日。高官達は関係各所を駆けずり回り、商会や冒険者ギルトに協力を依頼。日が昇り切る前には、国民向けに書き上げた依頼書の山にシュバルツが印を押すだけとなっていた。

 そんなことになっていると知らない民達の生活は、いつも通り朝課の鐘で始まっていく。

 やすらぎ亭でリュウの帰りを待つエリーの朝も、いつも通り母親との喧嘩で始まっていた。

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