ガチャ71 飛龍の巣 上層
様子を間近で見ていた兵士達は『またか』と2人のやりとりを眺めていた。しかし、再びモンスターの軍勢が接近していることに気が付き各自武器を構え直す。
「緑の人型? またゴブリンか。楽勝だな」
楽観的な兵士がそう言った。
しかし、索敵専門の兵士がマジックアイテムの双眼鏡を覗きながら、怒鳴り声を上げる。
「バカ! あれはオーガの大軍だよ! 遠いから小さく見えるだけだ!!」
「なんだって!!」
「リィオス殿とマルコ殿は何をしている!?」
兵士達は浮足立っていた。
Cランクのオーガを倒せる者は一流と呼ばれる戦士のみ。
普通は徒党を組んで戦うべき相手である。それが数百体はいるというのだから、取り乱すのも無理はなかった。
城壁の上。
リィオスは気絶したフリをしているマルコを見て碧眼を細めた。
「マルコ君。いい加減、起きなさい。私たちの出番だよ」
反動をつけて一気に立ち上がったマルコが、軽く埃を払いながら返事する。
「リィオスさん。もう少し弟子は優しく扱って下さいよ」
リィオスはオーガの大軍を指さした。
「冗談言ってる場合じゃないよ? オーガの大軍が来て、兵士たちが混乱してる」
リィオスの指先の向こうに見えるのは、統率された動きを見せる醜悪な大鬼の大軍勢だ。
通常では考えられないオーガの動きを見て、マルコは深緑の森での出来事を連想した。
「この規模と動き……。キングがいるかもしれないですね」
リィオスは最もな意見だと示すように頷き、マルコに共闘を提案する。
「そうだね。少なくとも、指揮を執る個体がいるのは間違いないと思うよ。マルコ君。手分けして倒そうか。……どっちから攻める?」
「……俺は右からで。キングがいたら、貰いますよ?」
マルコが自信満々に笑って宣言した。
リィオスは微笑みながら、出来が悪ければ自分が出るとマルコへ伝える。
「あんまり時間がかかるようだったら、私が倒すよ。周りに被害を出したくないから」
マルコは憮然とした表情を浮かべて腕を組んだ。
「それは、こっちのセリフですよ」
リィオスは大口を叩くマルコにリュウの姿を重ね、思わず吹きだした。
「ハハハ! その調子だ。じゃあ、行こうか」
「サクッと倒しましょうか!」
目線を合わせ、頷き合ったリィオスとマルコは瞬時に戦闘態勢となり、城壁から飛び降りた。
◆◆◆
飛龍の巣の上層。
洞窟の天井に開く穴から差し込む光はある程度先を見通せる程度に明るかった。
白亜のコートを着た銀髪の青年が洞窟内を走っていると、千里眼に5体のサイ型モンスターが映った。
モンスター達も青年に気が付いているようで、自慢の角を突き刺すために軽く頭を下げ、凄まじい勢いで突撃を始めている。
「……横並びでこの勢い。また、ブルホーンの群れか」
Bランクモンスター『ブルホーン』
体表はフレイムタンやアイスブランドでも僅かにしか切り込みが入らないほど、恐ろしく硬い岩石で覆われており、その間から、さらに硬度の高い角が天を穿つように突き出している。
ブルホーンからとれる素材は僅かに3つ。
角、肉、それと小さな魔石のみ。
肉は美味だが、腐敗が早く二束三文の値段しかつかない。
旨みの少ない相手に全力を強いられる展開に、リュウは思わずため息をついた。
「鬱陶しい奴らだ」
リュウが呼応するように前傾姿勢で正面のブルホーンに向かって走り込む。
自ら飛び込んできたリュウを突き刺すため、ブルホーンがさらに頭を下げ、角の位置を調整した。
リュウは地面を蹴る足に力を込め跳躍。
下がった角を躱し、ブルホーンの背に手をついて宙返り。
コートを靡かせながら地面に着地し、忌々しいとばかりにブルホーン達を睨む。
「……まったく」
ため息をつくリュウ。
しかし、それも無理はなかった。
既に攻略法を編み出した相手ではある。
だが、得意の雷魔法では、ほとんどダメージが通らない体質。
魔剣の性能だけでは斬り裂けないほどの圧倒的な硬さを誇る角と岩皮。
まともにぶつかり合えば勝ち目はないと確信できるほどに、相性の悪い相手なのだから。
「ダンジョンの名前を『ブルホーンの巣』に変えたらどうだ?」
身も蓋もない愚痴をこぼしつつ、練り上げた雷魔力を爆発させ、魔光圧気を一気に解放。攻撃的な紫電が中空に不規則な線を引き、空気を切り裂く音が洞窟に響き渡る。
「さっさと決着をつけさせてもらうぞ。……轟纏雷!」
短い詠唱が終わると、激しく放電する魔光圧気が一瞬で身体の中へ収束された。
直後、リュウの全身が紫紺のオーラで包まれる。
対するブルホーン達は反転し終えており、前脚で数回地面を踏みしめた。
突撃する前の予備動作だった。
「……ブルルル!」
中央のリーダー格のブルホーンが嘶いた。
急加速したブルホーンが、黒光りする角を突き立てようとリュウへと突撃していく。
リュウは望むところだと言わんばかりに口角を上げて、その場から姿をかき消した。
「…………ブル?」
瞬きする間に姿を消したリュウを探すため、ブルホーン達はその場で急ブレーキをかけた。
四本の足で踏ん張り、滑りながら止まって首を巡らせる。しかし、自分たちで巻上げた土煙に視界を妨げられてしまっていた。
苛立つブルホーン達は隊列を乱し、近くにいるであろうリュウへ攻撃を当てようと躍起になって角を大きく振り回し出す。
大振りで隙の多いブルホーン達の中心に、紫紺のオーラを纏ったリュウがフレイムタンとアイスブランドの二刀を構えて出現した。
「邪魔な角だ!」
リュウはその場で飛び上がり、リーダー格のブルホーンの硬質な角を目掛け、炎を纏わせたフレイムタンで切り上げた。
当然、角を切断することはできない。角が高温の炎で瞬時に熱せられて黒ずむ程度だった。
しかし、リュウは構わず白靄に包まれているアイスブランドを上から降り下ろした。
触れたものを即座に凍らせるほどの冷気を放っている氷刃が、角へ当たる。
焦げ付くような熱気。
凍てつくような冷気。
双方が角の中心でぶつかった。
「氷炎双牙斬!」
リュウが不敵に笑った瞬間。
硬質な角に無数の亀裂が走り、粉々に砕け散った。
「ブルア!」
一番硬い角の中に魔石を隠し持っているブルホーンは、魔石ごと角を砕かれて、短く悲鳴を上げ、屍と化した。
一瞬でリーダーをやられたブルホーン達は統率を乱し、リュウへと背を向けその場から逃げ出し始めていた。
そんな隙を逃すようなことをリュウはしない。
「こないなら、一方的にやるだけだ」
リュウはいち早く逃げ出そうとしていたブルホーンの前に高速で移動。
後ろにいたはずのリュウが前に現れ驚くブルホーン。
リュウはブルホーンの足を払い、こけさせた。
「……ブルルル!?」
もがくブルホーンの角をフレイムタンとアイスブランドで挟撃。粉砕した。
残りの3体は自棄になり、目の前にいるリュウへ再び突撃を敢行しようとした。
しかし、リュウは再び紫紺の光芒を残してその場から消えてしまう。
リュウが姿を消したと同時に、硬質な物質と刃物がぶつかる音が数回連続で洞窟に響いた。
直後、3つの角が爆砕し、ブルホーン達はとうとう全滅した。
「ようやく終わったか」
紫紺のオーラに包まれたリュウは角と魔石を失っているブルホーンをグリードムントの指環に収納していった。
(グリードムントの指環の中なら腐敗はしないからな。食いきれるかどうかはわからんが、ストックしておけばいい。味もいいしな。だが……。魔石が欲しいよな)
旨い肉が手に入ることは嬉しいが、やはり、ガチャを回すために魔石が欲しいとリュウはブルホーンを倒すたびに感じていた。
(まぁ、こればかりはしょうがない。現状ではこれ以外にブルホーンを倒しようがないんだ。……それよりも、この漲る力だ。またレベルアップしたな!)
Bランクモンスターを数十体倒してきたリュウ。
既に何度もレベルアップを繰り返してきていた。
(何回目でも心が躍るものんだな)
そう感じながらステータスを確認。
リュウは機嫌よく相好を崩すのだった。
お読み頂きありがとうございます。




