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ガチャ70 報告と師弟喧嘩

 数千年の時を過ごす者。

 霊峰に住まう飛龍族の頂点に君臨する王。

 神話にしか登場しないはずの、生きる伝説がそこにいた。

 オーブの中の生きる伝説は、僅かに眉を上げ、リィオスの問いかけに応じた。


「リィオスか。どうした? そなたがオーブを使わなければならないほどの事態が、そうそう起こるとは思えないが」


 リィオスは真剣な表情で声を発した。


「閣下。単刀直入に申し上げます。『使役者』が出現しました。王都には操られたモンスター達が押し寄せています」


「間違いないのか? 予想よりも随分と早いが」


「私の弟子が直接『使役者』と戦闘し、生き延びて持ち帰ってくれた情報です。間違いありません」


「そうか。余は降臨の儀の途中だ。しばらくの間は霊峰から離れられん。リィオス。『使役者』の方は頼むぞ」


「わかりました。なんとかしましょう。それよりも……」


 そう言ってリィオスはオーブから視線を逸らし、大陸の西側を睨みつけた。

 脳裏に浮かぶのは、とある離れ小島。

 島の中心には巨大なクレーターがある。そこにぽっかりと空く洞穴。

 邪悪な魔力で汚染され魔境と言われている地底洞窟だ。

 

「彼の地にかけられた封印が、解かれかかっている。それが一番の問題ですね」


 フェンロンは厳しい表情を浮かべる。


「まだ数百年以上先になると思っていたが……。勇者の掛けた封印が完全に解かれる前に手を打つ必要がある。こちらでも封印については調べておこう」


「よろしくお願いします。話は戻りますが、先ほどワイバーンナイトの群れが王都を襲ってきました。ワイバーンナイトはワイバーンと行動を共にするはずのモンスター。そちらに使役者が行ってワイバーン達を攫ったのかもしれません。それらしき人物が来た覚えはありませんか?」


 一瞬黙り込んだフェンロンは、与えた二つ名の通りに激しい性格の女を思い出す。


「……業火炎が、少し前に支配領域を荒らされたと言っておったな。同じ場所に留まることを知らない女故、捕まえ次第、確認しておこう」


「よろしくお願いします。報告は以上ですが、1つだけ、お聞きしたいことがあります。よろしいですか?」


 そう言って魔力消費に耐え、冷や汗を流しながら許可を求めるリィオス。

 フェンロンは白翼をはためかせながら笑った。 


「……フッ。大量の魔力消費を継続してまで聞きたいとはな。あの者のことがそれほど心配か?」


「ハハハ。バレてしまいましたか。閣下には敵いませんね」


 苦笑いをしながら、頬をポリポリと掻くリィオス。


「……私の全てを引き継がせられる逸材なので、期待しているんです。それで、リュウ君はどうですか?」


「あの者は順調に修行を積んでいる。なかなか見込みのある若者だな。既に魔法剣も体得しているようだ。ドラゴンワームを一刀で切り伏せていた。良い弟子を、見つけたな」


「元気そうですね。それに魔法剣まで! そうですか! よかった……」 


「ただ、今の業火炎は支配領域を荒らされて機嫌が悪い。今の実力で最上層まで来るのは危険だと忠告した。だが、大人しく従うような人物ではないだろう? あの目つき。寧ろ強敵との闘いを望んでいるようだった」


 フェンロンは粋の良い若者を思い出し、薄く笑う。

 そんなフェンロンを見て、柔和な笑みが売りのリィオスの口元が大いに引きついた。


(閣下にもいつもの感じで話しかけてたのかな? リュウ君! 怖いもの知らず過ぎだね!!)


 内心ではそう叫びつつ、リィオスはリュウの実力がフェンロンにどう評価されているのか気になっていた。


「……閣下から見て、リュウ君の勝算は?」


「ドラゴンワームを倒した時点の実力のまま、成長せず最上層に到達した場合、勝てる見込みはほとんど無い」


 フェンロンがあっさりと言い放った。

 なおも食い下がるリィオス。


「……勝率をお伺いしても?」


 慈悲を感じさせない声色で、フェンロンが即答する。


「99%、業火炎の勝ちだな」


 リィオスは額から汗を流しつつ肩を落とす。


「修練してくれることを祈るしかありませんね……」


 もう少しリュウの様子が聞きたいところであったが、伝達のオーブは魔力消費が激しく、既に疲労も随分と溜まってきていた。

 そろそろ限界だ。そう思ったリィオスはフェンロンとの通信を終えることにした。


「もう少し話をしたいところですが、使役者の操る軍勢から王都を防衛するために、魔力を使い切る訳にはいきません。そろそろ失礼させて頂きます」


「フッ。あの若者については気にかけるようにしておこう」


「ありがとうございます。それでは」


「うむ」


 リィオスがフェンロンとの通信を終えて一息ついた頃。

 ようやく逞しい女性兵士達から逃れたマルコが城壁の上へと戻ってきた。

 

「マルコ君。大人気じゃないか。お相手してあげなくていいのかい?」


「バカ言わないで下さいよ。俺はおしとやかなタイプが好きなんです。筋肉質な女性はちょっと」


「筋肉の塊みたいな君がよく言うよ」


「そういうリィオスさんこそ、脳味噌が筋肉でできてるんじゃないですか?」


「脳味噌が筋肉?」


 リィオスは目だけで怒り、顔全体で見れば笑っているという器用なことをしながら、魔光圧気エーテルグラストを放出した。


「……マルコ君! さあ、今から実践稽古をつけてあげようじゃないか。この木剣を使いなさい。私は優しいからね。構えるまで待ってあげよう!」


 リィオスがマジックポーチから訓練用の木剣を2つ取り出し、片方をマルコへと投げつけた。

 マルコは木剣を受け取りつつも、とぼけた顔をする。


「おっと、警邏の時間ですね。俺、行ってきます」


 走り去ろうと背を向けるマルコ。

 しかし、リィオスは神速で回り込み、碧眼を大きく見開いた。


「ハハハ。今日は警邏に行く必要はないのさ。ポール君の使い魔が代わりに見張ってくれているからね」


「ポールが? あの野郎! 余計なことをしやがって!! ちくしょう! 俺はまだ死にたくねぇよ!!」


「覚悟したまえ。では行くよ?  ――魔法剣……」


「やられる前にやるしかねぇ! ――空破斬!」


「流星斬!」


 木剣から放たれる最高峰の武技2つ。


 光の刃と闘気の刃が空中で激突。

 一瞬の均衡。

 しかし、軍配はリィオスに上がった。


「ぐああああああああ!?」


 絶叫を上げ、マルコは気絶した。


◆◆◆


 王城の中。謁見の間につながる門の前に寡黙なポールが外敵の侵入を阻むように立っていた。

 そんなポールの感知網に突如として出現した巨大な魔力反応。

 ポールは驚き、大きな声を出すと、慌てて警邏に当たらせていた使い魔の風妖精達を呼び寄せた。


「Sランク級のモンスターが来たのか? リィオスさん達はなにをやってるんだ!?」


 切迫した様子のポール。

 顔を見合わせた風妖精達が頷き合い、リーダー格の妖精がポールにリィオスとマルコのやりとりを伝えるのだった。


「リィオスさんの悪い癖だよ。マルコ。生きてたら酒を奢ってやるからな……」


 マルコから恨まれていると知らないポールは、優し気な声でそう呟いた。


◆◆◆

お読み頂きありがとうございます。

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