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ガチャ69 麒麟児、吠える

  リィオスは悪びれもせずあっさりとした口調で重大なことを口にする。


「1年くらい前にポール君の入隊試験を飛龍の巣でやった時、試験官として付き添ったんだ。そこで、フェンロン閣下にたまたま会ってね。業火炎のことを直接教えてもらったんだよ。気性の荒い奴だから、気を付けるようにってね」


 マルコは再び衝撃的な話を耳にして驚く。

 神話に出てくる登場人物なんて実在するはずがない。しかし、桁違いの師匠リィオスがわざわざ嘘を言う理由もなかった。

 マルコは野性的な顔に自信の無さ気な表情を浮かべ、嘘であってくれと願いながら尋ねることにした。


「……フェンロン閣下って、数百年前の大戦時に霊峰フェンロンに攻め込んできた魔王軍をたった1人で殲滅したという、あのフェンロンのことですか?」


「そうだよ。流石に私も本物にあったのはあれが初めてだったね! さすがに肝が冷えたよ。久しぶりに私より強い人に会った。ポール君なんて膝が震えていたしね。いや。よく生きて帰ってこれたよ。ハハハ!」


 笑うリィオスの金髪が揺れた瞬間、マルコは城壁を降りようと決め足を踏み出す。

 しかし、碧眼を光らせたリィオスが、無言で走り抜けようとしていたマルコを止めた。

 マルコは怒りながら振り返る。


「それが本当なら、業火炎とやらが実在することになる。

 リュウが危険だ! 助けに行ってやらなきゃならんでしょうが!!」


「そうかもしれないね! けど……」


「だったら、どうして!」


 感情を露わにさせ、憤るマルコ。

 リィオスは兄弟子マルコ弟弟子リュウを大切に想う様子を見て嬉しさを感じながらも、すました顔で続きを話し出す。


「確かに、かなりの実力者だよ。それが神話に残る先代の業火炎ならね」


「先代の? どういうことですか?」


「今代の業火炎はまだまだ経験が不足しているみたいだよ。フェンロン閣下はAランク中位~上位程度の実力があるって言っていたかな。まぁ、Sランクには程遠いってことは間違いないね」


 業火炎はAランク冒険者が数人がかりで相対することが望ましいとされる実力を持っている。

 リュウの成長速度が尋常でないことを加味しても、通常通りに飛龍の巣を制覇しただけでは、勝てるだけの力を身に着けることはできない。

 過去、飛龍の巣を制覇した経験を持つマルコは、そのことを容易に想像できてしまうが故に、リィオスの言葉を聞いても安心などできなかった。むしろ、相手の力量がはっきりと想像でき、リュウが窮地に立たされているとさえ感じ始めていた。

 マルコは握る拳に力を込めた。


「相手はAランク中位以上ですよ? リュウが無事最上層まで辿り着けて、ワイバーンが倒せたとしても、それぐらいじゃあ、まだ勝てんでしょう!!」


 厳しい表情でリィオスへ詰め寄り、胸倉を掴んで声を張り上げる。


「あんたが! 一番分かってるはずだろう!!」


 リィオスは飄々とした表情のままだった。

 ある意味当然であった。

 リィオスは確信して送り出しているのだから。

 リュウならば、必ず窮地を切り抜け生きて戻ってくるということを。


「死にはしないさ! ……勝てなくて撤退するかもしれないけどね

 ああ見えてリュウ君は引き際をわきまえている。私との戦闘の時、マルコ君も見ていたでしょう? 勝てないと踏み、フレイムタンを渡すと言ったのを覚えているかい?」


 そう言われ、マルコはリィオスがリュウを弟子に勧誘するため、王都の門前でゴブリンキングを仕留めてきたリュウに難癖をつけ、無理やり戦闘に持ち込んだ時のことを思い出していく。しかし、マルコはもっと別のやり方があっただろうなという感想しか浮かんでこなかった。

 マルコは大きな声で反論する。


「覚えてますけど、それがどうしたっていうんです? それは相手がリィオスさんだから問題なかっただけ! 敵意のある格上の相手だったら、喧嘩仕掛けてきたやつはそのまま殺そうとするんじゃないですか!?」


 リィオスは軽く首を横に振った。 

 リュウは希望の宝玉クライノートの所持者であり、幾つものマジックアイテムを持っている。

 その中でも、たった一言で行ったことのある場所へ空間転移できるという伝説級の代物の存在が大きく生還率を上げている。

 リィオスは気が付いていない様子のマルコにヒントを出す。


「マルコ君は普段から冷静だけど、こういう時は気が急くよね。灰色尽くめとの男から、リュウ君がどうやって逃げ出すことができたか、もう忘れたのかい?」


 リィオスの言葉を聞いて、マルコは数秒ほど考え込んだ。

 そして、ようやく、あるマジックアイテムのことを思い出すと、反射的に目を丸くし、そのマジックアイテムの名前を叫ぶ。


「……マギスクロール【ワープ】!!」 


 教師のように指を立てたリィオスが、からかうような笑みを浮かべ、正否を待つマルコに答えた。


「ハハハ。正解!」


「そういえば、まだチャージ残ってましたね……」


(最上層に辿り着くまでにBランク以上の実力は間違いなく身につくし、死なずに戻ってくるくらいはできそうだな。よかった! でも、リィオスさんにこういう姿を見られたのは不味いな。絶対後でからかうネタにされるもんなぁ。ちくしょう! 本当に嫌味な師匠だぜ……。胃がいてぇ)


 マルコは安堵の声を漏らした直後、しかめ面になる。

 しかし、気取られるとさらに厄介なことになりそうだと思い、咄嗟に咳払いして言葉を続けた。


「それなら、なんとかなりそう、ですかね。確かに」


「ほらね? なんとかなりそうなことだったでしょ」


「だとしても、こういうことを弟子に伝えないのは師匠としてどうなんですかね!!」


「ハハハ。獰猛フロスティーガーは我が子を谷底に突き落とすというだろう? 愛弟子にこそ試練が必要なのさ。頑張れ、リュウ君!!」


 明るく言い放つリィオスを見て、さらに胃が痛くなりそうな予兆を感じたマルコ。


(うっ。胃にくるわ。

 リュウ、この人の相手は俺一人じゃあ手に余る!

 まったく困った師匠だぜ、ホントによ。

 …………とにかく、生きて戻って来いよな)


 マルコは内心でそう思いながら、胃をさすりつつ、ニヤニヤしているリィオスを無視して話題を切り替えていく。


「それにしても、これだけモンスターが連続で発生するなんて、自然発生では考えられないですよね。もう帝国側が戦争を仕掛け始めてきたと思っていいんじゃないですか?」


 マルコの言葉に、若干真剣な顔つきになったリィオス。


「私もそうだと思うよ。モンスターの軍勢が狙ったように一番作りの弱い門へ攻めに来てるでしょう? 恐らく灰色尽くめの男が操作しているんだろうね。帝国がやっているっていう証拠を残さないように上手く散らばせているけど、北側から攻めてくるモンスターが多いようだしね。ここで私たちが動けない間に、王都以外の街を落とすつもりなんじゃないかな」


「……わかっていても、俺たちが二人揃ってここを離れるわけにもいきませんしね。もし、灰色尽くめの男や帝国軍の強者がこの状況で王都に来たら、俺たち王都守護隊以外では対処できないだろうし」


「シュバルツ様も、この状況は予期されていたようでね。守護隊以外にも、Cランク~Bランク冒険者達に極秘で指名依頼をして各街に配備しているようなんだ。正規軍もそれぞれに振ってあるらしい。他の街については、彼らに任せておくしかないね。私たちは、なんとしても王都を死守しなといけない」


 リィオスがそう言った直後、南方から二足歩行で剣や槍などを装備した蜥蜴トカゲ型モンスターが100体ほどの集団で現れた。ワイバーンの子分として有名なワイバーンナイト達だ。

 ワイバーンナイトにはある程度の知能があり、倒した冒険者の武器を装備して戦うという特性もある。

 低ランク冒険者や兵士にとっては非常に厄介なBランク下位モンスター。

 ゴブリンの群れをようやく倒し終えた兵士たちの間に、緊張が走った。


 舌なめずりをする二足歩行の蜥蜴もどきが、雄たけびを上げながら、正規軍を蹂躙しようと接近していく。

 マルコは一瞬で戦闘態勢に切り替え、背負っている大剣の柄を握った。


「……お? あれはワイバーンナイトの群れか。ちょっと一般の兵士にはきついだろ。

 リィオスさん。身体がなまっちまうんで、そろそろ、行かせてもらっていいですか」


「いってらっしゃい。こっちは任せておいて」


 リィオスの軽い挨拶を背に受け、城壁から飛び降りたマルコ。

 地面に着地するなり、正規軍を襲おうとするワイバーンナイトに向かってオレンジに光る闘気を放出。

 闘気にあてられたワイバーンナイト達が、一斉に城壁近くに立つマルコを見る。

 マルコは大剣を突き付け、挑発するように、ニヤリと笑った。


「お前らの相手は、この俺だ!」


 ワイバーンナイト達は標的をマルコへと変更し、一般の兵士ではまるで追いつけないスピードでマルコへ接近していく。個々の能力はBランク中位相当であり蹂躙する側であると確信しているワイバーンナイト達。

 目元にはマルコを見下し、八つ裂きにして食ってやろうという欲にまみれた瞳が浮かんでいた。

 

 マルコは迸る琥珀色の闘気を大剣に込める。

 

 なおも隊列も組まず直線的に突っ込んでくるワイバーンナイト達。


「纏めて押しつぶしてやるぜ! 空破斬!」


 マルコは右手一本で豪快に大剣を振る。

 直後、巨大な半月状の闘気が凄まじい速度で放たれた。

 琥珀色の刃が空気を切り裂く音を立てながら、ワイバーンナイト達へと向かっていく。

  

 直撃すれば死ぬ。闘気の刃がそれだけの威力を持っていると本能的に察知し、ワイバーンナイト達は回避しようと試みる。しかし、巨大な刃からは逃れることはできなかった。

 琥珀色の刃に押し斬られたワイバーンナイト達は、緑色の血を大地へまき散らし、絶命。

 

 王都の麒麟児が強敵の群れを撃退し、兵士と一部の女性兵士の間で歓声が上がる。


「た、助かったぁ」


「見たかよ! マルコ殿の空破斬! 痺れるぜ!」


「あんな豪快な技を俺も使えるようになりたいもんだ!」


「マルコ様! 素敵です!! こっち向いて!」


 苦笑いしながら歓声に応えるマルコ。

 リィオスは称賛の言葉を贈った。


「素晴らしいね! もう、このくらいなら余裕そうだ。また成長したね!」


 素直に喜びたい気持であったリィオス。

 だが、一つだけ気になることがあった。


(霊峰フェンロン以外で、ワイバーンナイトの生息地はこの辺にないはず。灰色尽くめの男が、どうにかしてワイバーンを攫ってきたってところかな? 灰色尽くめの男がまだ霊峰にいるとは考えにくいけど、リュウ君の安否も気になるし、あの封印が解かれかかっているかもしれないということも、閣下に報告しておこうか)


 リィオスは懐から小さなオーブを取り出し、大量の魔力を込める。オーブに波紋が浮かぶと同時に、6対の白い翼を持つ男の姿が映し出された。


「……フェンロン閣下。リィオス・ジークフリートです。応答可能でしょうか」



お読み頂きありがとうございます。

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