ガチャ50 刻印 ―不死鳥と猛虎―
広々とした客室には優しい光が灯っている。
大きめのソファにリュウ、リィオス、マルコの3人が腰かけていた。
リィオスとマルコはいよいよ刻印が刻めるということで浮ついた表情を見せている。
リュウは『先にやってくれ』と目を輝かせている武骨な男から先に刻印をすることにした。
「さっそく刻印するか。マルコ。大剣を貸せ」
「おう。俺の愛剣だ。頼むぜ」
マルコが片手で大剣をリュウへと渡す。
受け取ったリュウは余りの重量に顔をしかめた。
「随分と重いな」
「それが売りみたいなもんだしな」
大剣は魔法銀とはまた違った特殊な金属が使われており、魔法が込められていることが鑑定を使わずにリュウもわかったほどの逸品。装飾はあまり施されていないが、幅広な刀身は周囲を威圧するかのような存在感があった。
リュウは刻印する際にデザインを自在にできることを思い出し、大剣に印を刻む前にマルコへ問いかける。
「希望があれば、凝った意匠にすることもできるが……。どうする?」
マルコは二カッと笑った。
「お前のフレイムタンに刻んである飛龍みたいに、とびっきりカッコいい奴にしてくれ! あとは……。俺は絵のセンスないしな。お前に任せるよ」
「わかった」
(マルコのイメージに合う生物……。マルコは獰猛で野生的な雰囲気だしな。身体も剣も大きい。
よし。虎で行くか)
「意匠が決まった。マルコの魔力紋を刻むから、大剣の刻印した場所に手のひらを添えてくれ」
「こうか?」
マルコが右手を大剣の根元付近に右の手のひらを乗せる。
リュウはマルコの右手の上に、自分の手を乗せて獰猛な虎をイメージしていく。
自分のモノに刻印する時とは勝手が違い、他者であるマルコの魔力紋を把握するのに1分ほど時間がかかった。しかし、魔力紋さえ把握できれば後は刻印するだけである。
リュウが魔力紋を刻むイメージをすると、マルコとリュウの手から一瞬だけ橙色の光が立ち昇った。
「よし。完成だ」
リュウがそう言って手をどかした。
マルコは本当にこんな短時間で終わったのかと半信半疑で右手を刀身から離していく。しかし、そこには獰猛な虎が牙を剥いている姿で刻印されていた。
「……おおおおおお! めちゃくちゃカッコいいじゃないか! ギルドの図鑑でしか見たことないが、伝説の魔物"獰猛な虎"みたいだ!! 愛剣に名前はつけてなかったが、フィロスティーガーと呼ぼう! 気に入ったぜ!」
マルコは巨躯を揺らす勢いで笑い、角度を変えては大剣に刻まれた獰猛な虎の紋章を眺めていた。
リィオスはマルコのはしゃぐ様子と完成度の高い印に触発され、自身の持つ聖剣ブリュンヒルデにも早く刻印をして欲しいと感じ、リュウへと頼み込む。
「私は不死鳥がいいんだ! リュウ君。ブリュンヒルデも頼むよ!」
「焦らなくても、ちゃんとやるから心配するな。魔力紋を刻むから、マルコがやったみたいにしてくれ」
リィオスは先ほどのマルコと同じようにブリュンヒルデの刀身の根元に右の手のひらを乗せる。
リュウはリィオスの手の上に自身の手を添えて魔力紋の把握をしていく。しかし、1分を過ぎても魔力紋が把握できていなかった。
――魔力紋の全容を把握しようとして数分後。
「お前、こういうスキルに耐性でもあるんじゃないのか?」
「そんなわけないじゃないか! やってもらうのは初めてなんだから!!」
軽口を叩いている2人。
マルコはその間もうっとりと愛剣に刻印されたフィロスティーガーを眺めている。
それからしばらく時間が経ち、リュウはようやく魔力紋の全容を把握できた。
「……刻印できそうだ。いくぞ」
リィオスは失敗するのかもしれないと内心で思い始めていたが、リュウの言葉に安堵しながら頷いた。
リュウが魔力紋を刻むイメージをすると刻印の完了を示す橙色の光が立ち昇る。
2人はブリュンヒルデから手をどける。
そこには、炎の翼を持つ気高き不死鳥が刻まれていた。
「リュウ君! 最高じゃないか!! ああ、不死鳥よ。君はなんて美しいんだ……」
悲願であった聖剣への魔力紋刻印を終え感動しているリィオスは、意匠を凝らして描かれた不死鳥を恍惚として見入っていた。
「2人とも気に入ったようだな。印に魔力を込めることができるか、魔力障壁が展開されるかを念のために試してくれ」
リュウの言葉で現実に戻されたマルコが、獰猛な虎に魔力を込められるかを確認していく。
「魔力を込めれたぞ。なんか、腕の一部みたいに感じるな! こりゃあいい!!」
意識を戻されたリィオスもブリュンヒルデに魔力を込めていった。
「本当だね! 魔法障壁の方はどうかな。マルコ君の大剣を触らせ……っと。こっちも問題なさそうだよ」
リィオスがマルコの持つ獰猛な虎を触ろうとしたが、刀身にもう少しで届くという所で半透明の魔力障壁が展開された。
マルコもリィオスの持つブリュンヒルデに腕を伸ばすが、結果は同様であった。
「リィオスさんのも大丈夫ですね」
リュウはどちらの刻印も無事に終えたことを確認して呟く。
「よし。成功だな」
「リュウ君。ありがとう!」
リィオスは柔和な笑みで率直にお礼を言った。
「リュウ。まあ、なんだ。……ありがとな!」
マルコは言い淀みつつも礼の言葉を口にした。
リュウは2人から感謝されて何処かくすぐったい気持ちになり頬を緩める。しかし、自身のやるべきことを思い出し、表情を引き締めた。
「これで要件は済んだな。そろそろ、行くか。……俺が王都を離れている間は、頼むぞ」
「あれ? リュウ君って王国には執着してないと思ってたよ」
「王都で知り合いや仲間ができた。そいつらには、無事でいて欲しいだろ?」
仲間の中に、自分達の名前がきっと入っている。そう思ったリィオスは嬉しそうに目を細めた。
マルコは照れているのを隠すように、ぶっきらぼうにリュウへ声をかける。
「柄にもないこと言ってるんじゃねぇよ。お前なんかが心配しなくたって『麒麟児』と『王国の剣』が揃って守護に当たってんだ。王都がやられるわけないだろ?」
「マルコ君の言う通りさ。王都守護隊は大陸最強と名高い精鋭部隊。リュウ君は自身の技量を高めることだけを考えればいい。安心して、修練に励んできなさい」
マルコの言葉に続いてリィオスも心配する必要はないとリュウへと声をかけた。
頼もしい2人の仲間の言葉を聞いたリュウは口の端だけを上げて笑う。
「任せたからな。俺はもう行く」
そう言ってリュウは立ち上がり、リィオスとマルコを一瞥して客室のドアを開ける。
マルコとリィオスは去っていくリュウの背中を見ながら助言をしようとした。
「ワイバーンに食われるんじゃねぇぞ」
「最上層に行く前に、しっかりレベルを上げておくんだよ」
2人からの気遣いを感じたリュウは口元に笑みを浮かべつつ、返事代わりに左手を上げる。
その後、リュウは振り返ることなくそのまま屋敷から出て行ったのであった。
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