ガチャ43 国王との謁見
リュウはマルコの後を追うように、開いた扉を潜った。
床には赤い絨毯が敷かれており、壇上の玉座まで一直線に伸びている。絨毯の淵には細かな刺繍が縫われており、本体の鮮やかな赤さをより一層際立てていた。
絨毯の脇には武官と思われる帯剣している騎士と文官らしき貴族風の服を着た者達が左右に分かれて並んでいる。
玉座には40代後半と思われる国王が頭に王冠を乗せて座っており、隣には王都守護隊隊長でリュウの師匠でもあるリィオスが警護に当たっていた。
マルコは扉が閉まり切る前に振り返って、小声でリュウに話しかける。
「おい、リュウ。お前が何を言おうと、俺は関与しないことにしたから良いんだが、不敬罪に問われたくなかったら、国王様の前での挨拶くらいは俺と同じようにやれよ?」
「……わかった。挨拶だけ、な」
マルコはリュウの言葉にため息を吐き、やはり騒動になることは間違いないと思いながら前を向いた。
そのまま、マルコは背筋を伸ばし歩き出す。
長い絨毯を渡り、玉座の前についたマルコは左の胸に握った右拳を当てて簡潔に報告を済ませる。
「王都守護隊副隊長のマルコです。多数のゴブリンを率いるゴブリンキング亜種とオーガの群れを討伐した冒険者リュウを連れて来ました」
深く腰掛けながら、モノクル越しにリュウを見る国王の目は好奇心に溢れていた。
「マルコ。苦労をかけた。しかし、随分と早かったな。……後ろにいる君が、王都冒険者ギルドに突如として現れたスーパールーキーと噂されるリュウで間違いないか?」
国王の左目につけたモノクルがシャンデリアの光を反射させている。
(これは、話が長くなりそうだな……。はあ。面倒だ)
リュウは内心で溜息を吐きながら、顔には一切出さずに、マルコに習って左の胸に右拳を当てて答えた。
「Cランク冒険者のリュウだ」
リュウが丁寧な言葉を使ってくれるはずと希望を抱いていたマルコは、やり場のない怒りを感じていた。
(おい、挨拶だけはちゃんとするんじゃなかったのかよ! 臣下の礼だけでちゃんとしたつもりなのか? 言葉使いも大事なのはわかるだろ? 絶対わかっててやってるよな。ああ、文官どもだけじゃなくて武官どもも騒ぐだろうな……)
マルコは知らないことだが、臣下の者達は国王とリィオスからリュウの性格を聞いており、ある程度は許容するよう言われていることもあって今のところは黙認しているという状態だった。
マルコの気苦労も知らず、国王は無礼な口利きをするリュウを咎めることなく話を続けていく。
「そうか! リュウ。君の活躍はリィオスから聞いているぞ。まずはゴブリンキング亜種の討伐だったな」
楽しそうに笑う国王。
リュウは目を閉じ、沈黙したまま国王の話を聞いている。
(名前は名乗らないのか? お礼を言いたい人間がすることには思えんな)
リュウの内心を知る由もない国王は、興味津々といった様子でリュウへと質問を浴びせていく。
「深緑の森は王国中の多くの冒険者が生計を立てるために入るし、市民も豊富に実る果実などを求めて森の入口付近に入る。貴族も娯楽や修練の一環としてモンスターの狩りを行うことがあるのだ。
多くの者があの森を利用する。もう少し遅れていれば多大な被害が出ていたかもしれん。感謝しているぞ。
しかし、王都に来てから1か月も経っていないらしいな? レベルも最低に近い状態で冒険者登録をしたのに、どうやってゴブリンキング亜種を倒した? オーガの群れのことも……」
聞くに堪えないと感じたリュウは左手を上げ話を遮った。
「……待て。教えてやるのは構わん。だがな、国王。とりあえず、名前くらい名乗ったらどうだ? さっきから、あんたは質問するばかりじゃないか。それとも、好奇心を満たすために呼び出しただけで、礼をしたいというのは口実だったのか?」
リュウが呆れたような顔で言い放った。
隣で聞いていたマルコは頭を抱え、絨毯の横で整列していた武官と文官はリュウの言葉を聞いて、怒りの声を上げていく。
「国王様に向かって何たる態度!」
「不敬であるぞ!」
「言葉遣いもなってない!」
「非常識だ!」
「これだから、冒険者のような野蛮な輩は好かんのだ!!」
「ひっ捕らえろ!」
批難する内に白熱していった臣下達に国王が声をかける。
「……静まれ」
国王の威厳ある声が喧噪を切り裂いた。家臣達は王の迫力を感じて口をつぐんでいる。
「……フッフッフ。リィオスに聞いていた通りの人物のようだ。最近は名前を尋ねられることも減っていてな。ついつい名乗り忘れてしまうのだ。リュウよ。許せ。
では、改めて名乗るとしよう。
私はシュバルツ・リーデンブルグ。この国の王だ。若き英雄よ。2度も我が民を救ってくれたことを心から感謝している。助かったぞ。ありがとう」
シュバルツはリュウへと感謝の意を示すべく頭を下げた。
これを見た臣下達は一大事だと感じ、思わず声を上げていた。
「国王様! いけません。頭をお上げください!」
「一国の王が簡単に頭を下げては周りに示しがつきませんぞ!」
「冒険者如き下賎な輩にそこまでしなくてもよいではありませんか!」
シュバルツは臣下達を見回した。王都守護隊のリィオスとマルコ以外は皆慌てふためている。
(身分を気にしている者がなんと多いことか。今の王国にはもっと柔軟さが必要だというのに。王国の人材もまだまだ教育が必要だな。
しかし、リュウは聞いていたよりも面白い男だ。リィオス相手に喧嘩を売ったという話には驚かされたが……。
まさか、私を相手にしても恐れも見せず、それどころかきちんと礼を尽くせというなんてな)
シュバルツはリュウへの評価を上方修正しながら、真剣な表情を作って臣下達に声をかける。
「恩人に対し、頭を下げるのは当然のことだろう?
リュウは我ら王国の民に大きな被害を出すことなくモンスターを倒しただけではない。オーガの群れは帝国との国境近くで発見され、騎士団の派遣などはできない状況であった。仮に派遣していれば、軍事演習中の帝国軍がどう出るか……。わからないはずもあるまい? 我々に解決できない問題を解決してくれたのだ。皆も感謝をして、頭を下げなさい」
シュバルツは王の命令に逆らうわけにもいかず渋々頭を下げている臣下達と何処か居心地悪そうにしているリュウを、下がったモノクルを戻しながら愉快そうに笑って見ていた。
間違いを受け入れ、身分の低い冒険者にも感謝のために頭を下げるというシュバルツ王。国民には賢く器の広い王として有名であり、外国でも賢王として知られている名君であった。
当然、転移して間もないリュウは知らないことだ。しかし、リュウは今のやり取りを見て、リィオスやマルコがシュバルツ王に従っているのもわかる気がするのだった。
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