ガチャ42 フレイムタンは触れない
マルコに連れられて、リュウは城門を潜り、手入れの行き届いた中庭を通って雄大な主塔の内部へと続く細めの階段を昇った。
2階まで昇り切ったマルコが入り口の扉を開けて、リュウを城内へと招き入れる。
リュウの目に映ったのは、間仕切りのない広大な空間だった。白い絹がかけられたテーブルと意匠を凝らした木製のイスが規則的に並んでいる。そこでは、メイドらしき女が給仕や掃除をこなし、平民らしき恰好の者達は祈るような顔をして、豪著な服を着ている男達は熱く議論を交わしていた。
マルコは初めて来た都会を見る田舎者のような表情をしているリュウへ声を掛けた。
「ここは大広間だ。謁見の間はもう1つ上の階にある。ついてこい」
「ああ」
リュウは再びマルコに連れられて、大広間の奥へと移動し、螺旋階段を昇っていく。
3階に辿り着くと、そこには奥の部屋への侵入を阻むように大きな扉が存在していた。
重厚な扉の前には専用の門番が不用意に扉を開けさせまいと待ち構えている。
その門番の力量は自分よりも上だと、リュウは肌で感じていた。
「ポール。お疲れさん。リュウを連れてきたんだ。国王様の所へ行かせてくれ」
「おかえりなさい。マルコ副隊長。リュウとやら、身分証明書を出してくれるか」
リュウはグリードムントの指環からギルドカードを取り出し、ステータスの一部の表記をある程度隠してポールと呼ばれた王都守護隊の一員らしき門番に見せる。
マルコもポールも国宝級のマジックアイテムであろうグリードムントの指環を見て内心では驚いていたが、声には出さずになんとか我慢しているようだった。
「……リュウ本人だと確認した。申し訳ないが、謁見時は武器をこちらで預からせて貰う決まりとなっている。腰に下げた剣を渡してくれ」
「構わんが……。お前に触れることはできんと思うぞ?」
リュウがフレイムタンを鞘に入れたままポールに差し出す。
ポールは訝しげな顔をしながらフレイムタンを手に取ろうとした。
「そんなことがあるわけないだろう。どれ。……うおっ!」
いよいよポールがフレイムタンをつかむというタイミングで、半透明の魔力障壁が展開された。フレイムタンには刻印された東洋の龍の紋章が浮かび上がっている。
障壁に邪魔された手は軽く弾き飛ばされており、ポールは驚愕していた。
「結界を付与できるほどの刻印だと!?」
ポールが先に叫んだことで、声を出すタイミングを逃したマルコも、目を見開き何度も口を開け閉めしている。
リュウはそんな2人を一瞥するだけに留め、床に落ちたフレイムタンを拾い上げ、壁に立てかけた。
「だから言ったろ?」
先ほど起きたことは当たり前のことだという顔をリュウはしていた。
常識知らずのリュウは、己の施した刻印の性能がどれほどのものかを知らないまま、ここに立っている。
王国の精鋭のみで構成される王都守護隊ともなれば高価な装備を持ち、多少は授印済みの武具を持っているだろうという予想をし、刻印済みの魔剣をルーキーが持つにしては珍しいくらいの認識で終わると思っていたのだ。
そんなリュウを見て、マルコは記憶喪失というのがここまで常識を失うものかと思うと同時に、リィオスの魔剣と互角に打ち合えたフレイムタンという名剣に、規格外の印を施した人物がいることを理解する。
「……いやいやいや。リュウ。この印はいつ誰につけてもらったんだ? 王国お抱えの授印スキル持ち職人に頼んだって、結界が張れるほどの高度な印は刻むのに莫大な費用と時間がかかるし、そもそも武具のランクが高いと難易も上がるから、絶対に成功するとは限らないんだぞ! ……報酬は弾む! 俺の愛剣にも印を刻んで貰いたい。いったい誰に印を刻んで貰ったのか教えてくれ!!」
マルコの言葉を聞いてようやく刻印スキルの有用性と希少性を理解したリュウは、既に始まってしまった面倒な事態をいかに収拾するかを考えだす。
(授印スキルか、刻印よりランクの低いスキルなんだろうな。刻印は時間も掛からないし、簡単に印を刻むことができたんだ。間違いない。
俺が自分で刻んだと言ったら、どう考えても、もっと面倒なことになりそうだ……。
記憶喪失する前から施されていたっていうのはどうだ? ……ダメか。王都に来た時の俺の姿をマルコは見ている。その時にはフレイムタンを一時的に預けているしな。
仕方ない。知らないの一点張りで押し通すか)
「……知らん」
「頼むから!!」
武骨な顔を歪ませ懇願するマルコ。
リュウはポーカーフェイスのまま淡々と返事を返す。
「……話すことは何もない」
マルコはリュウがまだ王国が把握できていない特別な技術を持った授印スキル持ちの職人と密接なつながりを持っているはずだと思い込んでおり、なんとかリュウから紹介してもらおうとなりふり構わず頼み込んでいく。
「なあ、紹介してくれるなら、リュウにも報酬を渡すぞ!!」
「……報酬だと?」
面倒事を避けるために知らぬ存ぜぬを貫き通すと決めていたリュウだが、報酬という言葉につい反応してしまうのだった。
リュウの反応を見てチャンスだと感じたマルコは、素晴らしい出来の印を愛剣に刻んでもらうため、リュウを金で釣ることにした。
「そう、報酬だ! 金貨5枚でどうだ?」
「……もう、いいだろ? 謁見をさっさと済ませたいんだ。早く行こう」
リュウがマルコの横を抜け、唖然としているポールに、扉を開けるよう声をかけている。
マルコは扉に手を掛けたリュウの肩をつかみ、なんとか引き留めることに成功した。
「待て! 金貨7枚ならどうだ!」
「諦めろ。俺は口の堅い男。そんな額で情報を漏らすわけがない」
言葉とは裏腹にピクリと動いたリュウの眉。
もうひと押しで陥落すると確信したマルコは、マジックベルトポーチから金貨が詰まった革袋をリュウへと投げ渡す。
「こんの金の亡者め! 今月の給料、金貨10枚、持っていきやがれ!!」
金貨の入った革袋を受け止めたリュウはレアガチャが1度回せる金額ならば教えてもいいと思っていた。
(……よく考えたら、いつかは俺が高ランク装備で固めていることや高ランクスキル、魔法を修得していることはバレるよな。今、マルコがいつかバレるであろう俺の情報を高値で買ってくれると言っているんだ。売っておこう。それに、マルコは一応身内みたいなもんだし、ある程度詳しく教えても問題ない相手でもあるしな)
「……仕方がない奴だな。耳を貸せ。教えてやる」
リュウがマルコにだけ聞こえるように近づいて、リュウ自身が刻印というスキルを持っていて、僅かな時間でフレイムタンに印を刻んだことを説明した。
「はあああああああああああああ? リュウ! 金貨10枚も取ってんだ。冗談だったじゃあ済まねぇぞ?」
マルコは驚きの声を上げつつ、リュウの言葉を疑って鋭い眼光を飛ばす。しかし、それも当然のことだ。ギルドに登録したての青年冒険者が、希望の宝玉を所持していた伝説の勇者と同じ刻印使いであるというのだから。
「時間が惜しい。謁見が終わったら証明してやる。それでいいだろ?」
「……本当か?」
「面倒な奴だ。別に俺は、金貨を返してこの話をなかったことにしても困らないんだがな」
「疑って悪かった! だがな、お前の話を鵜呑みにするのも難しい。謁見が終わったら、もう少し詳しく聞かせてくれるか?」
「仕方ないな。じゃあ、とっとと国王と話をつけて、城を出るぞ」
「そうだな。ポール。扉を開けてくれ」
自分も印を刻んで欲しい。そう思ったポール。
しかし、紹介料ですら金貨10枚必要で、印を刻むとなると幾らになるのか想像もできないほどの金が要求されるというのは想像に容易い。
王都守護隊として勤め、稼いだ金で家を建てたばかりのポールは、喉まで登ってきていた言葉を飲み込み、無言で謁見の間へ続く扉を開いていくのだった。
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