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ガチャ33 義妹の心配はもっともで

 柔和な笑みを浮かべつつ、リィオスは過酷な修業をリュウへと言い渡す。 


「……リュウ君。次の修業の発表だ。

 予定より随分と早いけど、ダンジョンで実戦経験を積んでもらうよ。

 場所は王国の最南端。

 霊峰フェイロンの麓に入口のある、高難易度ダンジョン『飛龍の巣』でね」


 リュウは飛龍という言葉に興奮を覚え、紫電の魔光を放出しつつ好戦的な笑みを浮かべるのだった。


「『飛龍の巣』っていうくらいだから、ワイバーンがダンジョンの主ってところか?」


「そうだね。最上層は開けた台地になっていて、そこにワイバーンの巣があるんだよ。卵があるから、何体かのワイバーンが交代で守っているんだ」


 金髪をかき上げながら、当然のようにダンジョンの最上層の話をするリィオス。


「……お前、最上層まで行ったことあるのか?」


「もちろんだとも。

 ちなみに、王都守護隊に入っているメンバーは『飛龍の巣』へ行き、入隊試験としてワイバーン1体を討伐しているんだ。

 試験官として何度か付き添って上まで行っているから、あのダンジョンについてはかなり詳しいよ」


 ワイバーンはリュウが装備しているBランク防具の劣竜革のジャケットと劣竜革のボトムの素材として使われているモンスターである。

 リュウは王都の露店でCランク以上の武具が並んでいるところは今のところ見たことがない。それ故、Bランクの防具というのはなかなかに希少価値の高いものであるという認識をしている。

 素材のランクとモンスターのランクは、必ずしも釣り合うわけではないが、相当に強いモンスターであることは明らかだった。

 自身の力を高めるために絶好の相手であり、リュウは心に自然と闘志が湧き上がってくるのを感じていた。


「ククク。ワイバーンか。悪くない。リィオスはついてくるなよ?」


「やる気があるようで何よりだね。もとよりそのつもりさ。

 ……ああ、そうだ。ワイバーンを討伐できるまでは、王都に戻ってこないようにね」


 思い出したように、リィオスは帰還禁止の命令を出す。

 リュウは当然、勝つ気でいるし、仮に撤退せざるを得なくなっても修練を積んで必ずワイバーンを討伐するつもりだった。

 そのため、特に王都へ戻れなくても苦にはならないのだが、リィオスがあえて帰還を禁止する理由がわからなかった。


「別に、構わないんだが……。理由を聞いてもいいか?」


「やっぱりわからなかったか。

 例の帝国の手練れ"灰色尽くめの男"も、リュウ君のことをきっと嗅ぎまわると思うんだよね。

 ゴブリンキングとオーガの件を連続で妨害した王国の実力者。

 しかも、灰色尽くめの男の前で古の賢者の遺産とも言えるマギスクロール【ワープ】を使っているよね。

 そもそも、ランクの高いマジックウェポンとマジックアイテムで身を固めているんだ。

 とっても目立ってる自覚はあるかい?

 今後はリュウ君も暗殺の類に気をつけなくちゃいけないんだよ」


 リィオスは弟子のあまりの自覚の無さに頭を痛めながら丁寧に説明をした。

 リュウは話を聞きながら頷いている。

 

「確かにな。灰色尽くめの男は隠密行動が得意のようだし、狙われたら逃げ切れる気がしない。

 つまり、人気のないダンジョンを隠れ蓑にしながら灰色尽くめの男と戦えるだけの実力を養えということだな?」


「そういうことだね。ワイバーンが単独で討伐できるようになれば、Aランク冒険者と同等の実力を備えることになるよ。それに、ワイバーンの魔石や素材を対価にして、希望の宝玉クライノートを使えば装備の充実も図れるだろうし、かなりの戦力アップが期待できるよね。そうすれば、灰色尽くめの男に遭遇してもある程度戦えると思うよ」


「……ある程度なのか?」


「黒の魔光圧気エーテルグラストから感じた力量は、Aランク以上Sランク未満って感じだったしね。灰色尽くめの男はワイバーンと相対しても余裕を持って単独で倒せる実力があると思うよ」


 少し上を見ながら、思い出しながら話すリィオス。

 リュウは灰色尽くめの男との実力差を改めて感じ、鼻を鳴らす。


「フン。気に入らんが、お前が言うならそうなんだろうな。

 だったら更に上を行くまでだ。ワイバーン討伐後は、戦闘訓練につきあってもらうぞ」


「ハハハ! それでこそリュウ君だよね。楽しみに待っているよ。

 出発は、いつ頃になるのかな?」


「明日には出発するつもりだ。すぐにワイバーンを討伐して戻ってくるからな。

 顔を殴られる気持ちの準備をしておけよ」


「……まだ、強引に勧誘したこと、怒っているのかい?」


「売られた喧嘩は既に買い取った。いつまでも支払いの遅延をしてられないだろ。安心して俺に殴られてくれ」


 リュウの言葉を聞いて深いため息をつき、リィオスは肩を落とす。説得や懐柔は難しいようだと悟り、リュウに許されることを諦めた。

 それよりも、Sランクの自分に物怖じせず挑もうとする気構えを高めていく方が、リュウの成長にとって有益かもしれない。

 そう思ったリィオスは、敢えてリュウを挑発することにした。


「リュウ君がどれほど強くなっても、掠らせもしないさ。王国最強の戦士はこの私だ。挑戦はいつでも受けて立つよ」


「……首を洗って待ってろ。じゃあな」


 リュウは不敵に笑って颯爽と修練場を後にするのだった。


◇◇◇


 リィオスの屋敷から出た頃には満月が出ていた。包み込むような白い光が王都の大通りを照らす中、リュウは身体を休めたい一心で足早にやすらぎ亭へと向かっていく。


 見慣れた宿屋の看板を見つけ、どこか安心したような気持になりながら、リュウはドアを開けて中へ入っていった。鈴の音がなると、カウンターの奥から澄んだ声と共にフリルエプロンを着た美少女がやって来る。


「いらっしゃいませ。……リュウ兄さん!!」


 リュウのことを兄のように慕うエリーは、入って来た客がリュウだとわかり走り出す。久しぶりの再会が嬉しくてリュウの胸に飛び込むように抱き着いた。


「ただいま。エリー」


 このような美少女に抱き着かれれば、以前なら身動きできないほど緊張していたリュウ。しかし、同じようなことを何度も繰り返すどころか、挨拶代わりに頬へキスをされたことで耐性が少しだけ上がっていた。

 今では、エリーの頭を撫でるほどの余裕が生まれている。


「えへへ。気持ちいいです。

 今回はとても帰りが遅かったから、心配しちゃいましたよ? でも、お元気そうで良かったです」


 そう言ってリュウの胸に顔を埋めるエリー。


「心配をかけたな」


「本当ですよ! これは悪いことをしたリュウ兄さんへの罰です!!」


 エリーは許さないという表情でリュウを見上げた後、リュウの身体を力一杯抱きしめた。

 着やせするエリーの想像以上に大きい柔らかな乳房がリュウの身体に押し付けられて温もりを伝えてくる。思わず下を向いたリュウの目には服の襟元から健康的な肌色の渓谷が映った。


(こ、これは罰というより褒美だな)


 そんなことを考えているリュウの耳に、真剣な声が聞こえてくる。


「もう、戻ってこないのかと思ったんですよ? そのまま旅に出てしまうのかと……」


 下からリュウを見上げるエリーの瞳は涙が零れ落ちそうになっていた。

 エリーが心配するのも無理からぬことであった。

 冒険者とは同じ拠点に何年もいることもある。だが、基本的には渡り鳥のように色々な土地へ行き、自身の達成できる依頼を受けて暮らしていく者の方が圧倒的に多いのだから。


「……俺が、エリーに何も言わないで旅に出るわけないだろう?」


「どうしてですか?」


「エリーは、義理とはいえ、俺の妹なんだから」


 綺麗な雫がエリーの頬を伝う。


「……リュウ兄さん!」


 エリーがリュウを潤んだ瞳で見つめ続けている。

 自然とエリーの唇がリュウへと接近していった。


「あんた達、何してるんだい!」


 柔らかな唇の感触を感じながら暖かな気持ちになっていたところに後ろから声を掛けられて、リュウは思わず身が固くなっていた。

 エリーも母親に見つかるとは思っておらず顔を真っ赤にして俯いている。


「エリー。あんた仕事中だよ!

 それに、こんなど真ん中で堂々とキスなんてかましてたら誰かに見られちまうかもしれないだろう!!」


 恰幅の良い女将が小声で怒鳴っている。


「ご、ごめんなさい」

 

 女将はリュウに身体を向け、睨みながら言い放つ。


「あんたも男ならね、告白するなら場所を選びな! 宿屋の真ん中でなんて、カッコ悪いったらありゃしない」


「わ、悪かった」


 怒られる方向が微妙にずれてきていると感じつつ、娘であるエリーからのキスを受け入れていたことは事実であり、反射的に謝ってしまうリュウであった。


「……まったく。青春の続きは部屋でやっておくれよ?」


 女将は意味ありげに笑った後、カウンターの奥へと戻って行ってしまうのだった。


「つ、続きってお母さんのバカ!! リュウ兄さん、またゆっくり話しましょうね。ちょっと仕事があるので失礼しますっ」


 恥ずかしさが頂点に達したエリーは赤らめた顔のまま、誤魔化すように走っていくのだった。


(女将、最初から見てやがったな!)


 居たたまれない気持ちのままリュウも自室へと戻って行った。

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