ガチャ32 勇者なんて面倒だ
「こ、これはアイテムボックスの効果を封じ込めた指環か!! それに、このマギスクロールは確かにワープが刻まれているね。込められた魔力も凄まじいよ!
……流石は異界からの来訪せし"希望の宝玉クライノート"の所持者だね」
リュウのポーカーフェイスが崩れ落ち、銀髪の間から覗く目をこれでもかというほど見開いている。
言葉を発しようとしては口から出る前に消えていった。
動揺を隠しきれないリュウの心臓が、全身に響かせるように早鐘を鳴らしている。
「……俺が別の世界から転移してきたと、知っていたのか?」
驚愕した表情のまま、リュウはなんとか声を絞り出した。
「初めて王都の門であった日に、気がついていたよ。リュウ君が異界からの来訪者であることはね」
「何?」
呆然としている顔を引き締め、リィオスを睨むリュウ。
鋭い眼光がきちんと最後まで説明しろという圧力を持ってリィオスを襲いかかる。
「おっと。怖い顔だねぇ。ちゃんと説明するから、その顔はどうにかならないかな? 話しにくいんだけど……」
リィオスの言葉を聞いても、リュウの眼光は鋭いままであった。
表情の変わらないリュウを見て、溜息をついたリィオス。
説得することを諦めて『リュウが異世界から来たと断じた理由』についての説明を始めていく。
「……400年前に魔王封印を果たした伝説の勇者が初めて王都へ来訪した時と、リュウ君が王都へ来た時の状況が完全に一致しているんだよ。
断罪の水晶に、ステータスの幸運値が低レベルに関わらずEXと表記されたこと。
レベル帯に見合わない超強力なマジックウェポンとマジックアイテムを所持していたこと。
記憶を喪失しているということ。
この3つが、まったく一緒なんだよね」
「伝説の勇者も異界からの来訪者なのか?」
「勇者が異界から来たって話は結構有名だけど、もう500年も前の話だからね。そもそも、その存在を信じていない人の方が多いんだよ。
伝承『勇者物語』では、別の世界に住んでいた勇者が神に出会って特別なスキルを与えられ、ユグドラシルを訪れることになったっていう出だしになってたかな」
どこかで聞いたような、むしろ自身が身を持って体験したばかりのような話に耳を疑うリュウ。
(おいおい。まさか……)
「神に会って特別なスキルを与えられた? どんな神にどんなスキルを与えられたんだ?」
「変わりもののお爺さんの姿をした神様らしいよ。
その神様から与えられた特別なスキルっていうのが"希望の宝玉"だね。
スキルの効果はリュウ君がさっき私に話してくれた内容と同じだよ。
『勇者物語』の中でも説明がされていてね。確か……」
--以下、勇者物語抜粋ーー
"希望の宝玉"を使用した場合は、対価を払うことで別世界を通して宝玉が出現する。
それを砕くことで中から強力無比なマジックウェポンや部位欠損をも回復するポーションなどのマジックアイテムを得ることができる。
しかし、中から現れるモノを勇者が選ぶことはできない。
欲しいモノの種類を希望したモノに絞ることは可能。
時々、どうしようもないモノが出現することもある。
「……という風に書いてあったかな」
「なるほど。随分具体的に書かれているんだな」
(希望の宝玉か。確かに効果はスキルや魔法が手に入る点とハズレがある部分を除いてレアガチャとほぼ同じだな。
レアガチャの方が上位互換というのはありがたい。
これは、絶対にガチャ神の仕業だ。しかし、500年前とはいえ、俺以外にもユグドラシルに転移した奴がいるとは驚きだが。
リィオスのように俺の正体に気がつく奴もいるだろうし、今後レアガチャのことを話す必要がある場合は、希望の宝玉の話をしよう。これで、スキルや魔法については秘密にできるな)
リュウはカプセルボールで出来た円環を頭上に浮かべるお調子者のガチャ神を思い浮かべ、苦笑した。
そんなリュウを見ながら、リィオスはからかうように碧眼を細める。
「リュウ君も、勇者を目指してみるかい?」
「……面倒事はごめんだ。
俺は生涯冒険者をやっていくと決めている。
確かに勇者の持っていた"希望の宝玉"を所有している。だが、わざわざ困っている奴を助けまわるような義務がある職業につくつもりは無い。
旅をする間に知り合った相手が、命の危機にさらされているとかなら、手を貸してやってもいいがな」
何処の誰かも知らない人間のために命を懸けて戦うような勇者という役割を請け負うことは、自身の目指す生き方と真逆に当たると考えているリュウは、眉間に皺を寄せて言い切るのだった。
リュウが強くなると決意したのは、どんな相手からも束縛されず、自由気ままに異世界を謳歌するためである。
「勇者は人助けの義務がある職業か。言いえて妙だね! ハハハ! リュウ君は面白いな」
「もう、この話はいいだろ? 俺が修練場に来れたのは、希望の宝玉で手に入れたマギスクロール【ワープ】を使えたからだ。
わかっていると思うが、誰にも言うなよ?」
「もちろんさ! 冒険者にとってステータスやスキル、魔法の情報は生命線だからね。
しかし、嬉しいな。リュウ君から直接希望の宝玉を持っているという重大な秘密を打ち明けてくれたなんて。師匠として感激しているよ!! やっぱり、師弟というのは……」
感極まっている様子のリィオス。
話が長くなるのを嫌ったリュウは、話を切り上げて帰ろうとする。
「わかっているならいい。じゃあな」
「……ちょっと待ちたまえ!」
知らず知らずのうちに階段の前に移動していたリュウに気がついて、リィオスが呼び止める。
「何だ? リィオス、大切なことがあるなら最初に言えよ」
辟易とした表情でリュウが振り返る。
リィオスはそんな弟子の反応に悲しみを覚えていた。
(リュウ君。師匠に感動する時間もくれないのかい……)
リィオスは小さくため息をつくが、重要なことを伝えるために気分を切り替えた。
「……リュウ君。次の修業の発表だ。
予定より随分と早いけど、ダンジョンで実戦経験を積んでもらうよ。
場所は王国の最南端。
霊峰フェイロンの麓に入口のある、高難易度ダンジョン『飛龍の巣』でね」
リュウは飛龍という言葉に興奮を覚え、紫電の魔光を放出しつつ好戦的な笑みを浮かべるのだった。
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