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ガチャ31 希望の宝玉の所持者

「ワープ!!」


 リュウが叫ぶ。

 灰色尽くめの男が振るった魔剣は、標的を失い空振りに終わった。


 ギリギリで魔剣を躱したリュウは、リィオスの屋敷内にある修練場へと空間転移を果たす。集中力が切れたリュウは魔力枯渇現象に耐えきれず、気絶してその場で倒れてしまうのだった。


ーーーー半日後


(……ここは、前にも見たな)


 灯火が客室の天井を優しく照らしている。まさか、修業以外でここに来ることになるとは思っていなかったリュウ。意識が覚醒し、起きようとして横を向くと、ベットサイドに黒い制服を着用する初老の男性が目に入った。


「おや。起きられましたか。回復に要するのがたったの半日とは……。流石、リュウ様ですね」


「……俺をここへ運んでくれたのは、リィオスか?」


「おっしゃる通りでございます。リュウ様が起きるまで付き添い、目覚めたら修練場にて待っていることを伝えるようにとお命じになった後、リィオス様は修練場へ向かわれました。」


 執事のシリウスが、起き上がったリュウに水の入ったコップを差しだしながら答えた。

 リュウはコップを傾けて水を一気に飲み干す。

 カラカラに乾いた喉に、水が染み渡って行った。


「生き返るな。他に、何か言ってたか?」


「いいえ。ただ……」


 シリウスは言いにくそうに口ごもった。


「……ただ?」


「リュウ様を客室まで抱えてきた時、面白いものを見つけた子供のような表情をされていました」


「……ありがとう。とにかく修練場に行く。世話になった」


 ありありと目に浮かぶ悪戯好きな師匠リィオスの顔を思い浮かべ、リュウは苦笑した。

 付き添ってくれていたシリウスに礼を言って、客室を出ようとする。

 

「お気をつけて」


 背後で丁寧に腰を折って頭を下げるシリウスに手を振って、リュウは地下の修練場に向かった。


◇◇◇


 金髪の魔法戦士が修練場の中央に立ち、目を閉じ、毛を逆立てながら精神統一をしていた。

 発する黄金の魔光圧気エーテルグラストが修練場を埋め尽くしている。圧倒的な魔力の奔流は、敵意がなくても近寄る相手を威圧してしまう。


(レベルが上がれば上がるほど、距離の遠さがはっきりわかるだけだな)


 オーガ討伐を果たしたリュウの鋭さを増した感覚が、元Sランク冒険者であり王国最強の戦士と呼び声の高いリィオスとの実力差を如実に伝えてくる。


(……どいつもこいつも、超えてやるさ)


 灰色尽くめの男との闘いとは呼べぬ戦闘を思い出し、知らず知らずのうちに入った力がリュウの拳を固くさせていた。

 リュウは負けじと紫電伴う魔光圧気エーテルグラストを開放。大瀑布のように押し寄せるプレッシャーを掻き分けながら、ゆっくりとリィオスへ近寄った。


「……悪趣味だぞ。普通の奴なら呼び出されても近づけないだろうが」


「リュウ君は規格外でしょ? しかし、これに耐えるとはね……。魔光圧気エーテルグラストも教えていないのに既にここまで使いこなしているなんて思わなかったよ。随分レベルを上げてきたね?」


 リィオスは弟子の成長を喜ぶように微笑んでいる。


「オーガを10体ほぼ同時に仕留めたからな」


「……まあ、リュウ君なら問題なく討伐できただろうね。魔法操作レベル10、詠唱短縮、雷魔法の有用性はわかったかい?」


 オーガは単独で行動するモンスターで有名だ。

 10体も同時に出現したことに不自然さを感じつつ、リィオスは言葉をかけた。


「ああ。接近戦になる前に9体は仕留められたからな。魔法発動から攻撃が相手に届くまでの速さが尋常じゃない。

 残った手負いのオーガも、足に当てた雷魔法のお蔭で動きが鈍っていたから接近戦で倒すことができた。

 遠距離から複数の相手を圧倒できる魔法っていうのは冒険者にとって大きな武器になるな」


「そうだね。私でも避けるのに苦労する速さだよ。威力はレベルを上げていくことで自然と上がるから焦らなくてもいい。君は魔法使いとしての才能も超1流だ。だけど……」


 そう言ってリィオスは目を細めた。


「……話を聞く限りだと、オーガ相手にピンチに陥った場面はなかったようだね。

 魔力枯渇現象を引き起こしながら、転移してまで逃げなければならない事態って何だったの?

 ドラゴンにでも遭遇した?

 リュウ君が突然修練場に現れた時は流石に腰が抜けるかと思ったよ!

 転移なんていつの間にできるようになったんだい?」


 リィオスは新しいおもちゃを見つけた子供のように興奮し、矢継ぎ早にリュウを問い詰める。


「順番に説明するから、少し待て。

 魔力枯渇現象を起こすほどに消耗し、転移せざるを得なかった理由から話す」


 撤退するしかなかった状況を思い出すことに抵抗を感じながらも、好奇心の塊である目の前の男を黙らせるために、リュウは仕方なく口を開いていく。


「オーガ討伐の直後、帝国の方面から左頬に古傷のある灰色尽くめの男が突然現れたんだよ。

 お前ほどじゃないが、相当な実力者だ。

 千里眼で確認したが、かなり遠くからでも黒の魔光圧気エーテルグラストが視認できるほどだったからな」


 不可解な出現場所と帝国の軍事演習に申し合わせたかのようなタイミング。

 単独行動を好むモンスターが集団で行動をしているという、違和感の塊のようなオーガの群れ。

 それを倒した直後に帝国側から出現した『灰色尽くめの男』。

 既に偶然で片付けられるようなものではない。

 リィオスは苦虫を潰したような顔で話すリュウを見ながら、きな臭いことになってきたと感じていた。


「リュウ君が敵わないと素直に認めるほどの実力者なのかい?」


「ああ。間違いないな。王都のギルドマスターより圧倒的に放つプレッシャーが強かった」


 王国の剣と呼ばれる自分を前にして傲岸不遜な態度をとっているリュウが、素直に負けを認めるほどの強敵。Cランクモンスターを単独で打ち破るほどの腕を持つリュウに、高い魔力量と超人的な身体能力と言わしめた男。

 リィオスにとっても警戒に値する相手である。


(実力は恐らくAランク超えてるね。そして恐らく……)


 リィオスは王都の門を特別に警備した日のことを思い起こす。

 リュウを強引に勧誘する前に感知した、敵意ある黒の魔光圧気エーテルグラスト。黄金の魔光圧気エーテルグラストを放つと、突如帝国方面へと遠ざかって行ったのだ。

 リィオスは微笑みを消し、目つきを鋭くさせていく。


「感じた魔力量の高さもそうだが、厄介なのは超人的な接近速度だ。

 アイツは離れた距離をあっとういう間に詰めてきやがった」


 リュウは自身のふがいなさに怒りが込み上げ、握った拳に爪が突き刺さり血が滲んでいる。

 

「俺は限界まで魔力を消費して落雷を発生させ、雷光と雷鳴で灰色尽くめの男の視覚と聴覚を奪い、ほんの一瞬だけ隙を作りだした。

 その時、マギスクロール【ワープ】を使って修練場に転移したんだ。もう少し遅かったら、漆黒の魔剣で斬られていただろうな……」


 怒りも痛みも感じさせないポーカーフェイス。

 リュウは淡々とリィオスに説明をした。

 

「……よく生きて帰ってきてくれたね。そいつは恐らく、戦争を引き起こさせるために暗躍している帝国の手練れと言われている人物だと思うよ。

 私も城門の守りに付いた日に、同じ黒色の魔光圧気エーテルグラストを感じたからね。まぁ、姿は見せなかったけど。

 私とリュウ君が同じ人物と相対したことになるよね。特に今回は、異常発生したオーガの群れを討伐した直後に帝国側から姿を現せたんだ。帝国の手練れと確定していいと思うよ。これは、国王様に報告しなければならないね」


「……帝国の手練れか。黒色の魔光圧気エーテルグラストが、断定できるほどの証拠になるのか?」


「もちろん、灰色尽くめの男が帝国の人間だと断定するには証拠としては不十分だよ。

 それでも、敵の所属国、性別、能力が王国として把握できるというのはとても大切なことなのさ。いままでは、『尻尾をつかませずに暗躍している謎の実力者がいること』しかわからなかったんだ。リュウ君の功績は大きいよ」


「そうか。まあ、俺には王国と帝国が戦争しようと関係ない。灰色尽くめの男をぶっ飛ばせるように修業をするだけだ」


 リュウは瞳に烈火を宿し、獰猛に(わら)っている。

 

「ハハハ! じゃあ、今度は灰色尽くめの男を自力で撃退できるように特訓だね。

 ……それで、肝心のことを聞きたいんだけど、いいかな?

 どこで、マギスクロール【ワープ】なんて伝説にしか存在しないような超希少なマジックアイテムを入手してきたんだい?

 リュウ君は、盗賊に手荷物を奪われていたんだろう??」


 微笑みながらも、決して逃がしはしないとリィオスの視線が訴えている。


(チッ。忘れていないか。こういうことだけはちゃんと覚えているんだな。

 将来勝つべき相手に自分の能力について教えるのもどうかと思うが……。

 こいつを振り切る術がないしな……)


 ため息をついたリュウは、仕方がないと割り切って、伝える情報をなるべく削りながらレアガチャスキルについて話すことを決めた。


「俺は、対価を払うことでマジックアイテムやマジックウェポンを入手できるスキルを持っている。

 今回は魔石を対価にして、このマギスクロール【ワープ】を手に入れた。

 ただし、狙って得ることはできなくてな。受け取れる物は完全にランダムなんだ」


 そう言って、リュウはグリードムントの指環を起動させ、マギスクロール【ワープ】を取り出す。

 リィオスは目の前で起きた光景に驚愕していた。 


「こ、これはアイテムボックスの効果を封じ込めた指環か!! それに、このマギスクロールは確かにワープが刻まれているね。込められた魔力も凄まじいよ!

 ……流石は異界からの来訪せし"希望の宝玉クライノート"の所持者だね」


 リュウのポーカーフェイスが崩れ落ち、銀髪の間から覗く目をこれでもかというほど見開いている。言葉を発しようとしては口から出る前に消えていった。

 動揺を隠しきれないリュウの心臓が、全身に響かせるように早鐘を鳴らしている。

お読み頂きありがとうございます。

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