ガチャ21 素振り1万回後、ハプニング遭遇
日刊ランキング入り記念投稿!
数日前のゴブリンの醜い暗緑色で彩られたものではなく、本来の姿を取り戻した森。陽光が美しい深緑色を鮮やかに浮き上がらせている。
(やっとついたな。随分、印象が違うもんだ)
深緑の森へ辿り着き、そんな感想を持つリュウ。世界転移後は激動の日々で景色を堪能する余裕もなく、戦いの日々が続いている。
にやけた顔に悪意を感じさせる王国の英雄兼師匠から無茶な課題が出されていなければ、大樹の根に腰を降ろし陽に当たりながら本でも読みたいとリュウが感じてしまうのも無理はなかった。
(さて、修行をするとしようか)
左手の小指に嵌めたアイテムボックスの能力を持つグリードムントの指環から刃を潰された鉄の剣を抜き出した。
何の変哲もない店売りの剣に見えるが、使い古されていることが柄に巻かれた滑り止めの皮の風合いから伝わってくる。
「ったく。重いな」
思わず口に出すほどの重量。
当然、魔法銀製のフレイタンに比べて鉄製の剣は重い。しかし、余りに重いため、上昇した筋力値をもってしても片手では持つのがやっとであった。
(……これを1万回も振るのか)
重い鉄剣を両手で握る。頭より高く上げ、頂点に達した瞬間に全力で振り下ろす。地面に当たる手前で潰れた刃が止まった。勢いのついた剣を途中で止め、腕に大きな負荷がかかる。
(1回目でこれか。クソッ。やたら重いな)
内心で悪態をつきながら両手に力を入れて剣を挙げ、再びありったけの力を込めて振り下ろした。早くも額から汗が噴き出ている。
「これを1万回だと!? あの野郎。今度会ったらただでは済まさんぞ!」
朝靄が晴れたばかりの深緑の森に決まった間隔で鋭い風切り音が鳴っている。リュウは愚痴を溢した後も休まず大樹の下で鉄剣を振り続けていた。
「……101、102、103……」
(おかしいぞ! 最初よりも重くなってきてるだろ!!)
手の中で増していく重量感に叫びたい気持ちになりつつも、剣を振り続ける。両手で持っていても辛くなってきたリュウは鉄剣を鑑定した。
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名前 ウエイトアクセルソード
評価 B
価値 金貨2枚
説明 一振りごとに僅かに重量が増す魔法がかかった鉄剣。全力で振るえば振るうほど増加する重量が増する。
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(リィオス! あいつ知ってやがったな!! 何が『まだ軽い方だよ』だ!!)
重量が振るうたびに増していくと知ってやる気が削がれそうになるが、これも剣スキルを上げるためには仕方がないと割り切り、半ば自棄になりながらも鉄剣を振り続けた。
「……2451、2452、2453、2454……」
鉄剣を握っているはずだが、感覚が麻痺してきて両手がどこかへいってしまったかのように感じられるリュウ。頭の中では、ただ剣を上げて振り下ろすこと以外考えられなくなっていた。
空を斬る音が何千回と続いていく。
「……5765、5766、5768、5769……」
力む余裕もないリュウは無駄な力を一切入れることができない。もはや無心で剣を振っていた。
「……7212ッ」
「ふぎゅッ」
時々リュウをめがけてイノシシに似たモンスターが突進してきたり、ゴブリンが襲いかかってくるものの、重量を増した剣であっさりと叩き潰していた。
剣を振るう間隔を整えつつ、リズミカルに再び振りはじめる。
「7213、7214、7215……」
上げては下す。
終わりが来ないのではないかと思わされるほどの回数を重ね心身ともに限界に近づいているが、とうとうゴールが見えてきた。
「……9996、9997、9998、9999」
途切れる呼吸。無理やり肺を動かして酸素をなんとか吸い込み、息も絶え絶えになりながらも、修行する前に約束したことだけは守っていた。
(全力で、振り切る!!)
「……10000!!」
渾身の力できっちり1万回、重量が徐々に増す鉄剣を振り切って疲労のピークを迎えたリュウは大樹の根に倒れこむように座った。
(なんとか、やり切れたな……。まったく、明日からが思いやられる)
1回限りではなく、これが毎日続くと思うと頭が痛いが、得られるものがあるのならばこの辛い修行にも意味がある。リュウは剣スキルのレベルアップを期待してステータスオープンを唱えた。
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名 前 リュウ
種 族 人間
ランク F
レベル 24
HP 222/238
MP 271/271
筋力 133
魔力 88
耐久 128
敏捷 164
器用 89
幸運 EX
スキル
【レアガチャlv1】
【刻印lv1】
【MP増加lv1】
【身体能力強化lv2】
【千里眼lv2】
【鑑定lv8】
【 異世界言語翻訳・通訳】
【剣lv3】
【銃lv1】
魔法
【雷魔法lv1】
【サバイバル魔法lv10】
称号
【ゴブリンキラー】
加護
【ガチャ神の加護】
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「……ククク。剣スキルだけじゃなく、僅かに筋力値まで上がってるじゃないか。こうなったら、とことんまでやってやるさ」
疲れ切った顔で引きつらせながらも笑い、着実に強くなっていることを実感し、この長く消耗の激しい過酷な修行をやり通すと決意を固めた。
(だが、あいつの顔を正面から殴るのは1発じゃなくて2発だ。両方の頬にぶちこんでやるからな!!)
それでもやはり、ろくに説明もせず重量が振るたびに増加するウエイトアクセルソードを渡してきたり、魔力枯渇現象がどれほど苦しいかを伝えずに魔力を使い切ってから寝るようにと言うふざけた師匠に対しての怒りは高まるばかり。
(……もう、こんな時間か)
黒い光沢を放つ劣竜革のジャケットから、美しい装飾を施された白銀の懐中時計を取り出し時間を確認した。ディザイアクロックの文字盤の上で時針と分針が夕方の17時00分を指している。
怒っている体力も惜しいリュウは気合で体を動かし、潰れた中でも比較的可食部の多そうなワイルドボアの死体と魔石、ゴブリンの死体からは魔石を取ってグリートムントの指環に納めると、王都レーヴォリへゆっくりと歩いて帰っていった。
◇◇◇
やすらぎ亭の部屋につくなり装備を外してベットで仰向けになる。眠気がありうたた寝しそうになったが、食事はしたいし、魔弾の精製と課題であるMP全消費をしなければならないため、まだ寝るわけにはいかなかった。
茫然とした顔でしばらく横になっていると、やすらぎ亭において夕飯時を告げることを意味する鐘がなる。
(とにかく、腹減ったな。飯だ)
ベットから降りて食堂へ向かう途中、料理を出し終わってフリルエプロンを着たまま宿泊客に夕食の案内をしていた看板娘のエリーから声をかけられ立ち止まる。
「リュウさん、こんばんは!」
「エリーか。こんばんは」
「今日も一緒にたべませんか?」
「ああ。そうしようか」
僅かに頬を赤らめるエリーと対照的に青白い顔のリュウは食堂へ向かう。料理の並んでいるテーブルにつくなり、元気のないリュウにエリーが声をかけた。
「どうしたんですか? すごく顔色が悪いです」
そう言いながら首を傾げ、栗色の髪が流れる。頬の赤みはそのままに、円らな瞳が見上げるようにリュウを見つめていた。
「……ああ。ちょっとな。修行をしていたんだ。実はリィオスの弟子になったんだが、その内容がハードでな。今日は深緑の森で重い剣で素振り1万回やってきたんだ。正直限界だな」
白い顔とポーカーフェイスが合わさって生気を感じさせないリュウを見かねてエリーが声を張った。
「こんなになるまでやらなくてもいいじゃないですか! もっと身体は大切にして下さい!!」
エリーはテーブルを両手で叩きながら身を乗り出し注意をした。ブラウスの上のボタンが外れるほどの勢いであった。冒険者は無理や無茶をするものだと頭ではわかっていても、初めて兄のように思えるような異性であるリュウが同じように危険を顧みずにいることが納得できずに大きな声が出てしまう。
「心配してくれるのか? ありがとう」
「……当たり前じゃないですか。もう」
身を乗り出したまま仕方がないと軽く頬を膨らませたエリー。
(……近いな。女性とこんなに近づくのは初めてだ! なんか良い匂いがするし……)
ふと前を見るとフリルエプロンの下に着ているブラウスが開いており、奥が覗いて見えてしまう。健康的な肌色の膨らみが作る谷間がそこにはあった。
(着やせするタイプか。頭に血が……ってダメだ! 早く目を逸らさなければ!!)
そう思いながら目を逸らすも、一瞬遅かった。
「あっ、もう。リュウさんのバカ!」
顔を真っ赤にしたエリーがリュウの頭を軽く握ったグーで叩く。まったく痛みを感じさせない力加減であった。どうやら本気で怒っているわけではなさそうで安心したリュウは気が緩み普段では考えられない失言をする。
「悪かった! でも、エリーって着やせするんだな。スタイル良いし、可愛いよ。流石はやすらぎ亭の看板娘だな」
「~~もうっ! 知りません!!」
(やっぱり見られたんだ! どうしよう!? もうわかんないよぉ)
恥ずかしさがメーターを振りきって顔がリンゴのように真っ赤になったエリー。それから無言になり、俯いて食事を済ませ簡単な挨拶をして去っていった。
(どうすりゃよかったんだ……。わからん)
思わぬハプニングで生気のない顔から一転して血色を取り戻したリュウは今度エリーに会った時もう一度謝ろうと心に決め、自分の部屋へと戻っていった。
(今日ほど気絶したい夜もないな)
脳裏に浮かぶ光景とエリーの反応を思い出し、明日はどのような顔をしてエリーと会えばいいのかと悩むリュウは早々に考えることを放棄して魔弾の精製から始めることにした。
(とにかく、まずは魔弾のストックを作ろう。6発打ち切ったらそれっきり。それだと多数との戦闘時に困るからな)
既に精製され弾倉に入ったままになっている魔弾を抜きだし、グリードムントの指環に吸い込ませ、空になった弾倉に6発分の魔力を込めはじめる。120MPを消費し、15分程で精製完了。弾倉に入っている魔弾を全てグリードムントの指環に吸い込ませ、MPを31残して再度魔弾の精製を行った。
時間が経過し、弾倉に魔弾が装填されたことを確認したリュウは銃身に弾倉を戻し入れると魔弾の拳銃をホルスターにしまう。
(残りは刻印で消費だな。今日はグリードムントの指環にしておこうか)
グリードムントの指環に刻まれた龍印に魔力を流し込んでいく。あっと言う間に残っていたMP31を消費しきったリュウは息苦しさを感じつつも意識が朦朧としていき、いつの間にか眠りについていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回はリィオスとの修行のお話になります。




