ガチャ17 押し売り師匠と不遜な弟子
「……リュウ君。私の元で、修行してみないか?」
引き留めるリィオスを横目に前に進もうとするが左肩を掴む手が鋼鉄のように硬く振りほどけない。
(この馬鹿力め!)
「なぁ、リィオス。お前は王都守護隊を纏める隊長なんだ。そんな暇ないだろう?」
「勿論、平日は仕事で忙しいからね。休日に指導、訓練をすることになるよ」
当然修行を受けるだろうと思っているリィオスは微笑みながらリュウの左肩に手を置き続ける。
胡散臭いと感じながらも続きを聞くぐらいはいいのかもしれないと思ったリュウは質問を投げ掛けた。
「そんなので強くなれるのか?」
「それはリュウ君次第だよ」
「俺次第ね」
「そう!」
「……世話になった。報酬欲しいから、もう行くよ」
しかし、どうやっても左肩に置かれた手は微動だにしなかった。リュウは苛立だしい気分を隠さずにリィオスを睨む。
「お前な。強いからって相手が言うことなんでも聞くと思うなよ? お前の休みまで毎回待ってる位ならダンジョンにでも行ってくるわ!」
「だから、リュウ君次第だっていっているじゃないか。私が仕事をしている時は最低限の課題をこなして貰うけど、あとは自由に己を鍛えれば良いんだよ」
「引き留める割りに、放任主義過ぎるんじゃないか?」
リィオスはかぶりを振って、子供に言い聞かせるような目付きでリュウに諭す。
「いいかい? まず、リュウ君の場合は生き残るために基礎ステータスの向上が必須。登録してすぐに決闘。さらに災害認定のゴブリンキング亜種と群れの討伐。
どうせ悪目立ちして狙われること間違いないんだし、Aランク程度の実力は欲しいね。それには地道な訓練やレベリングが必要だ。それはある程度まで1人でもできるよね」
「確かにな。ただ、Aランクほどの実力なんて、お前が言うほど簡単に身につくものなのか?」
「普通にやっていたら何年もかかるけど、リュウ君なら3ヶ月もあればAランクまではいくと思うよ。自分より強い存在との戦いが最もレベルアップしやすいのさ。時間は短かったけど、私との戦いでもレベルアップしているはずだよ?」
リィオスに言われ自身の身体に注意を向けると、体内を駆け巡るエネルギーを感じとることができた。間違いなくレベルアップで得られる感触であった。
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名 前 リュウ
種 族 人間
ランク F
レベル 24
HP222/238
MP 89/258
筋力 131
魔力 88
耐久 128
敏捷 164
器用 89
幸運 EX
スキル
【レアガチャlv1】
【MP増加lv1】
【身体能力強化lv2】
【千里眼lv2】
【鑑定lv8】
【 異世界言語翻訳・通訳】
【剣lv2】
【銃lv1】
魔法
【雷魔法lv1】
【サバイバル魔法lv10】
称号
【ゴブリンキラー】
加護
【ガチャ神の加護】
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(たったあれだけの戦闘で、しかも負けていたのにレベルが2も上がったのか! 鑑定や剣スキルまで!! 生きてさえいれば負けても経験値が蓄積されるのか。だとすれば、こいつと模擬戦を繰り返せば……)
「……気がつかなかったな」
「臨戦態勢だってことさ。悪いことじゃないよ。ただ、模擬戦では得られる経験に限りがある。ある程度戦闘経験を積んだらダンジョンに行って実戦もしてもらうよ」
(そうそう上手い話もないか……)
「ダンジョンは基礎ステータスと剣スキルが上がってからね。まずはスキルと魔法の修得、研鑽。それと模擬戦を主にしようと思っているよ」
「……魔法か。是非とも自在に使えるようになりたいな」
雷魔法を修得してはいるものの、魔法の行使のためにどうすればよいのか全く知らないリュウには魅力的な話であり、思わず食いついたように反応してしまう。
それを見ていたリィオスはあと一押しでリュウが修行を受けると言う筈だと感じ、胸を張って自信たっぷりに言い放つ。
「元Sランク冒険者の私が指導すれば魔法も剣も一流のレベルまで引き上げることができる! 弟子となりたまえ!」
「元Sランク冒険者? なんで元がつく?」
「あれ、驚くところはそこなんだね? 今は王都守護隊に所属しているからね。冒険者ギルドを脱退してランクもカードも全て返上したんだよ。冒険者登録していた頃は王国最強の冒険者なんて呼ばれていてね。ちなみに、Sランク冒険者は世界でも両手で数えられる位しかいないんだ」
リュウは刻印スキルを所持してるため、きちんと印を刻めば余程盗まれる心配はないと思っている。
しかし、リュウはリィオスの尋常ではない力でその場に釘付けにされており、脱出は不可能であった。
リィオスが納得する返事を聞くまで自分のことを開放する気がないことを理解し、大きくため息をつく。
(……まぁ、異世界ユグドラシルに来て早々に強者から手解きを受けられることは幸運なのかもしれないな。しかし、気になることがある)
「なんで、俺にそこまで拘る?」
「リュウ君は間違いなく、私より強くなると、会った瞬間に感じたよ。こんなことは私自身初めてでね。君の行く末を見てみたいと思ったのさ」
「俺みたいなルーキーは掃いて捨てるほどいるんだろ?」
「リュウ君はモノが違うね。あの時の言葉は本音というわけさ。大物どころか英雄クラスになると思っているよ」
「……そうか。まぁ、せいぜい利用させて貰うとするさ。肩に乗ってるお前の手を自力で引き剥がせる程度には強くなってやる」
全てを語ったとは思っていないが、納得できる程度に勧誘する理由に真実味を感じたリュウは左肩に半ばめり込みかけている手を一瞥しながら、リィオスに師事することを決めたのだった。
「引き剥がせるようになったら、一発ぶん殴ってやるから覚悟しておけ」
「ハハハ。その意気だよ」
暫く静かに2人のやり取りを聞いていたマルコだが、話が一段落したタイミングでリュウに向かって声をかける。
「おい、リュウ。リィオスさんはこんなんだけど、腕は超一流だ。教えてほしい冒険者なんて腐るほどいるが、誰にでも教えてるわけじゃねぇ。この人から声をかけるなんて滅多にないんだ。頑張れよ」
「マルコ君。『こんなんだけど』っていうのは酷くないかな?」
「胸に手を当てて聞いてみてくださいよ」
「こうかな?」
碧の瞳を閉じて左手を胸に当てて心臓の鼓動を確かめるリィオス。マルコは笑いを噛み殺しながらもなんとか言葉を絞り出した。
「……馬鹿なんですか」
「君も、久しぶりに修行したいようだね?」
「定例報告行ってきます!」
修行と聞いて久しぶりに鳥肌が出始めたマルコはガタイの良い身体を少し丸めながら王都の中へ逃げるように走っていった。
「全く。……じゃあ、リュウ君。3日後の休日になったら城門前で朝課の鐘がなる頃に集合にしよう。その間は課題をやっておいて欲しい」
「わかった。で、課題は何をすればいい?」
「毎日、必ず魔力を使いきってから寝ること。剣の素振りを1万回行うこと。この2つだね」
「魔力を使いきる理由は?」
「リュウ君は魔法が使えるか、魔力を使うマジックアイテムか何か持ってるだろう?」
「よくわかったな」
「難しいことじゃないさ。ギルドカードのMPを見たとき減っていたからね。それで、使いきる理由なんだけど、MPっていうのは基本的に使いきることと、レベルアップでしか上昇しないものなんだよ。スキルや称号でも増加するけど、それは狙ってできる類いのものじゃないからね」
「なるほど。使いきることが重要なんだな。かなり疲労するんだろうが、それでMPが増えるなら仕方ないか」
「MPを完全に失うと立っていられないほどの疲労状態に陥るからね。普通の冒険者なら万事に備えて使いきらないし、そもそも使い切って増加するMPは自覚できるほど多くはないんだ。知り合いの女性エルフの魔法使いから聞くまでは私も知らなかったぐらいだし。『エルフの秘伝』の1つらしいよ。……くれぐれも、他言無用で頼むよ?」
口角が上がっているのに目だけ笑っていないリィオスは再び背筋が凍るようなプレッシャーを放つ。
「……ああ。もちろんだ。その魔女はお前が警戒するほどにヤバい奴なんだろ?」
返答に満足して頷くと圧力が消え、柔和な笑みを見せるリィオス。
「わかってくれたらいいんだ。エルフの魔女は怒ると怖いからね。秘伝を無闇に広めたら王都を業火で包むとか言ってたんだよ」
ーー黙っていれば美しいのに。
そう小声で口にしながら、エメラルドグリーンのロングヘアーを靡かせる年齢不詳の魔女が怒っている姿を思い出していたリィオスだが、リュウから声をかけられて意識を修行の件に切り替えた。
「剣の素振りを1万回ってのは?」
「剣のスキルはひたすらに全力で剣を振ることであがることがあるんだよ。私がそうだったからね。マルコ君もある程度までは上がったしね」
(熟練度を上げるための手段というところか……。この辺はゲーム的な要素を感じるな)
「やることはわかった。……もう行ってもいいか?」
課題も決まり話は終わったと思ったリュウはギルドで報酬を貰ってすぐにでも宿に戻って休憩したいと思ったが、制止の声がかかってしまう。
「ちょっと待ってくれるかな」
「まだ、何か注文があるのか?」
「素振りはこれでやってね」
マジックバッグから、一見すると何処にでもあるような鉄の剣をリィオスが出してリュウへと投げ渡す。
リュウは片手で剣を受け取ったが、その瞬間、腕が下がってしまった。
「……重いな」
「このくらいの重さならまだ軽い方だよ。素振り、頑張ってね」
「ああ」
刃の潰された重い剣をマジックポーチにしまいこみ、挨拶を済ませると、今度こそ報酬を受けとるべく冒険者ギルドへ向かって行った。
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