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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
2章

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ep.42 風の噂

町に着いたのは昼過ぎだった。 雪原を抜け、山道を越えた先に広がるその町は、冬の冷気を抱えながらもどこか温かな雰囲気を漂わせていた。屋根にはまだ雪が残り、煙突からは白い煙が立ち上っている。旅の疲れを癒すように、人々の声と灯りが迎えてくれる。


果林は酒瓶を抱えたまま、笑みを浮かべた。 「やっと町に着いたね。焚き火もいいけど、やっぱり人の声がある場所は落ち着くよ」 咲姫は団子を握りしめ、目を輝かせる。 「団子屋さん、あるのですかね……?」 紗綾は札帳を開き、記録の準備を整えていた。


まず一行が向かったのは札場だった。紙札を整える記録係が、旅人の姿に気づいて声をかけてきた。 「この先に、大きな湖があると聞いています。そこは、そよ風が舞う地だと伝えられています」 その言葉に、果林は酒瓶を軽く掲げた。 「湖……師匠や猫神様の言葉と重なるね」


次に訪れたのは酒場だった。木の扉を開けると、暖かな空気と香ばしい匂いが広がる。主人が杯を磨きながら、旅人たちに声をかけた。 「ただし、その湖へは簡単には行けません。森の守護者たちが封鎖していてね。見たことがある者はあまり多くないんだ」 木世実は舞の拍を刻みながら、少し寂しげに呟いた。 「応援したい人がいるのに、道が閉ざされているなんて……」 小豆は笑顔を浮かべ、焚き火の夜を思い出すように言った。 「でも、兎神さまも猫神様も導いてくださるはずです。封鎖されていても、道は必ず開けます」


町の人々も口々に噂を重ねた。 「湖のほとりは、風が心地よいらしい」 「けれど、守護者たちが道を閉ざしている」 「昔は祭りもあったが、今は近づけない」


咲姫は首をかしげながら呟いた。 「……やっぱり、猫神様のお言葉は湖のことなのです?」 その素直な声に、果林は笑みを返す。 「そうだね。師匠も猫神様も、同じ場所を示しているんだ」


紗綾は札帳を開き、静かに筆を走らせた。 「風の記録:町の噂。問い――湖は導きか、封鎖か。記録者・紗綾」


酒場の灯りの中で、仲間たちは次の目的地を胸に刻んだ。 それは「湖のほとり」という未来への伏線だった。 守護者たちが封鎖しているという事実は不安を呼んだが、同時に神様の言葉と人々の噂が重なったことで、旅の方向性は確かに定まった。


果林は酒瓶を掲げ、仲間たちに言った。 「封鎖されているなら、なおさら行く価値がある。師匠の導きに従うのが弟子の務めだよ」 小豆は笑顔で頷き、木世実は舞の拍を強めた。 咲姫は団子を握りしめ、紗綾は札帳を閉じた。 悠真は静かに炎を見つめ、次の旅路を思い描いた。


町の夜は静かに更けていく。 噂は風のように広がり、旅人たちの心に残る。 湖のほとり――そこに待つものは導きか、封鎖か。 答えはまだ霧の中にある。


【後書き】 こんばんは、紗綾です。 町で聞いた噂は、猫神様のお言葉と重なっていました。 「湖のほとりに、そよ風が舞う地がある」――。


けれど、森の守護者たちが封鎖しているそうです。 札帳には「湖は導きか、封鎖か」と記しました。


次の旅は、その湖へ。 記録者として、言葉と噂がどのように重なっていくのかを見届けたいと思います。

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