ep.41 転換期
夜が明けると、雪はすっかりやんでいた。 白い光が山道を照らし、吐息はまだ冷たいが、旅の足取りは軽くなる。 果林たちの一行は、男1+女5の六名となり、次の町を目指して歩みを進めた。
やがて、霧が立ち込める。 仲間の姿はぼんやりとしか見えず、声だけが頼りになる。 その中で、ユウマの目の前に影が立ちはだかった。
見上げるほど大きな猫――猫神様。 その瞳は霧の奥を見通すように輝き、静かに言葉を紡いだ。 「そよかぜの気持ちがよい水のほとりにひげがゆれる」
意味を掴めずに立ち尽くす一行。 咲姫が首をかしげながら呟いた。 「……風が気持ちいいってことなのです?」
紗綾は札帳を開き、筆を走らせる。 「風の記録:霧の中の猫神様。問い――言葉は導きか、幻か。 意訳――本拠は湖のほとりに。記録者・紗綾」
その言葉を最後に、視界いっぱいに光が舞った。 霧は晴れ、仲間たちの姿がはっきりと見える。 まるで猫神様が「次の町への道」を示したかのようだった。
果林は酒瓶を抱え、笑みを浮かべる。 「……師匠も猫神様も、導いてくれるんだね」 その声に応えるように、風がやさしく吹き抜けた。
【後書き】 こんばんは、紗綾です。 霧の中で猫神様に出会いました。大きな猫の姿は幻だったのかもしれません。けれど、言葉は確かに心に残りました。
「そよかぜの気持ちがよい水のほとりにひげがゆれる」――。 咲姫は「風が気持ちいいってことなのです?」と笑っていました。 私は札帳に「本拠は湖のほとりに」と記しました。
兎神様に続き、猫神様もまた道標を示してくれたのだと思います。 旅は、次の町へ。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。 ご感想やリアクションのひとつひとつが、 物語の奥にある問いを照らす光となります。 ゆるやかな歩みではございますが、これからも見守っていただけましたら幸いです。




