ep.36 札場の問い(温泉編)
朝の温泉町は、湯気と朝日が混ざり合い、幻想的な光景をつくり出していた。 宿の女将が静かに告げる。 「今日は札場の湯守が問いを示す日です。心を整えて挑んでください」
ユウマたちは札を胸に抱え、温泉の中心にある札場へと向かった。 そこには湯守と呼ばれる老人が立ち、湯気の中で札を掲げていた。 「旅人よ、この温泉町の問いは――癒しの中で己を見つめ直すことだ」
果林は息を呑んだ。 「癒しの問い……団子や芋とは違うね」
咲姫はしっぽを揺らしながら、湯気に包まれる。 「温かさの中で問いを探すのです!」
紗綾は札をかざし、風を読む。 「癒しは甘やかしじゃない。心の奥を照らすもの……」
ユウマは湯に浸かり、目を閉じた。 すると、過去の失敗が次々と浮かび上がった。 団子を焦がした場面、芋を爆ぜさせた場面。 子どもたちの笑い声が幻影となって響く。
「また失敗するんじゃないか……」 ユウマの心は揺れ、札がかすかに震えた。
――
果林が声をかける。 「ユウマ、失敗は温かさに変わるんだよ。団子も芋も、みんな笑ってくれたじゃない」
咲姫はしっぽを揺らしながら笑う。 「失敗しても、美味しさは残るのです!」
紗綾は札を胸に抱え、静かに言った。 「問いの風は、失敗を恐れる心を試している。癒しは、その恐れを溶かすものだよ」
ユウマは深く息を吸い込み、湯気を胸に刻んだ。 「……そうか。失敗しても、温かさは残る。人の優しさがある」
札が光を放ち、湯守が頷いた。 「よくぞ気づいた。癒しの問いを越えたな」
湯守の言葉が響いた瞬間、温泉の湯気が濃くなり、ユウマの視界は揺らぎ始めた。 目の前に現れたのは、過去の自分の姿。団子を焦がし、芋を爆ぜさせ、仲間に迷惑をかけた場面が次々と浮かび上がる。 「また失敗するんじゃないか……」 心の奥底から不安が湧き上がり、札が震えた。
果林が湯の中から声をかける。 「ユウマ、見て。失敗しても、みんな笑ってくれたじゃない。団子の町でも、芋の村でも」
咲姫はしっぽを湯に浮かべ、くるくると回しながら笑った。 「失敗しても、美味しさは残るのです! 焦げても甘さは消えないのです!」
紗綾は札を胸に抱え、静かに言葉を添える。 「問いの風は、失敗を恐れる心を試している。癒しは、その恐れを溶かすものだよ」
ユウマは幻影に向かって叫んだ。 「僕は失敗する。でも、その度に仲間が支えてくれる。人の優しさがある!」
すると幻影は揺らぎ、湯気に溶けて消えていった。札がかすかに光を放ち始める。
――
だが次に現れたのは、もっと深い幻影だった。 ユウマが一人で立ち尽くす姿。仲間がいない未来の自分。 「もし仲間を失ったら……僕は何もできない」 胸の奥が締め付けられ、札の光が弱まる。
果林は湯から立ち上がり、ユウマの肩に手を置いた。 「仲間はここにいるよ。失敗しても、置いていったりしない」
咲姫はしっぽでユウマの手を包み込む。 「問いの風は、仲間と一緒に吹くのです。ひとりじゃないのです!」
紗綾は札を掲げ、湯気の中で風を起こした。 「癒しは孤独を溶かす。仲間の存在を信じれば、問いは越えられる」
ユウマは涙をこらえながら頷いた。 「……そうだ。僕はひとりじゃない。団子も芋も、温泉も……全部仲間と一緒に味わった」
札が強く光り、幻影が完全に消え去った。湯守の声が響く。 「よくぞ気づいた。癒しの問いを半ば越えたな。残るは心の奥底にある最後の恐れだ」
――
ユウマは深く息を吸い込み、湯気を胸に刻んだ。 「最後の問い……必ず乗り越える」
果林、咲姫、紗綾はそれぞれ頷き、湯気の中でユウマを支えるように寄り添った。 問いの風は、さらに強く吹き始めていた。
湯守の声が再び響いた。 「残るは心の奥底にある最後の恐れだ。癒しの湯は、己の影を映す」
湯気が濃くなり、ユウマの目の前に新たな幻影が現れた。 それは未来の自分――仲間を失い、問いの風を見失い、孤独に沈む姿だった。 「僕は……また失敗して、みんなに迷惑をかけて……最後にはひとりになるんじゃないか」 胸の奥が締め付けられ、札の光が弱まる。
果林が湯から立ち上がり、真剣な眼差しでユウマを見つめた。 「ユウマ、私たちは君を置いていかない。失敗しても、笑って一緒に進むんだよ」
咲姫はしっぽを湯に浮かべ、ユウマの手に絡めるように寄り添った。 「ひとりじゃないのです。問いの風は、仲間と一緒に吹くのです!」
紗綾は札を掲げ、湯気の中で風を起こした。 「癒しは孤独を溶かす。仲間の存在を信じれば、問いは越えられる」
ユウマは涙をこらえながら頷いた。 「……そうだ。僕はひとりじゃない。団子も芋も、温泉も……全部仲間と一緒に味わった。失敗も、仲間と分け合えば温かさになる」
その瞬間、札が強く光を放ち、湯気の中で幻影が完全に消え去った。 湯守は深く頷き、声を響かせた。 「よくぞ気づいた。癒しの問いを越えたな。札場の力は、汝らの旅をさらに導くだろう」
――
温泉町の人々が集まり、ユウマたちを祝福した。 「問いを越えた旅人に、湯の恵みを!」 「次の札場でも、きっと力になるぞ!」
果林は笑顔で答える。 「ありがとう! 団子も芋も温泉も、全部が旅の力になったよ」
咲姫はしっぽを揺らしながら、子どもたちに手を振った。 「また来るのです! 温泉の問いは忘れないのです!」
紗綾は札を胸に抱え、静かに言った。 「癒しの問いを越えた今、次の札場が待っている。旅は終わらない」
ユウマは深く息を吸い込み、温泉の香りを胸に刻んだ。 「行こう。問いの風は、さらに遠くへ導いている」
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こうして、ユウマたちは温泉町で癒しの問いを乗り越え、次の札場への決意を固めた。 問いの風は、彼らをさらに遠くへと導いていく。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。 ご感想やリアクションのひとつひとつが、 物語の奥にある問いを照らす光となります。 ゆるやかな歩みではございますが、これからも見守っていただけましたら幸いです。




