表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/198

ep.36 札場の問い(温泉編)

朝の温泉町は、湯気と朝日が混ざり合い、幻想的な光景をつくり出していた。 宿の女将が静かに告げる。 「今日は札場の湯守が問いを示す日です。心を整えて挑んでください」


ユウマたちは札を胸に抱え、温泉の中心にある札場へと向かった。 そこには湯守と呼ばれる老人が立ち、湯気の中で札を掲げていた。 「旅人よ、この温泉町の問いは――癒しの中で己を見つめ直すことだ」


果林は息を呑んだ。 「癒しの問い……団子や芋とは違うね」


咲姫はしっぽを揺らしながら、湯気に包まれる。 「温かさの中で問いを探すのです!」


紗綾は札をかざし、風を読む。 「癒しは甘やかしじゃない。心の奥を照らすもの……」


ユウマは湯に浸かり、目を閉じた。 すると、過去の失敗が次々と浮かび上がった。 団子を焦がした場面、芋を爆ぜさせた場面。 子どもたちの笑い声が幻影となって響く。


「また失敗するんじゃないか……」 ユウマの心は揺れ、札がかすかに震えた。


――


果林が声をかける。 「ユウマ、失敗は温かさに変わるんだよ。団子も芋も、みんな笑ってくれたじゃない」


咲姫はしっぽを揺らしながら笑う。 「失敗しても、美味しさは残るのです!」


紗綾は札を胸に抱え、静かに言った。 「問いの風は、失敗を恐れる心を試している。癒しは、その恐れを溶かすものだよ」


ユウマは深く息を吸い込み、湯気を胸に刻んだ。 「……そうか。失敗しても、温かさは残る。人の優しさがある」


札が光を放ち、湯守が頷いた。 「よくぞ気づいた。癒しの問いを越えたな」


湯守の言葉が響いた瞬間、温泉の湯気が濃くなり、ユウマの視界は揺らぎ始めた。 目の前に現れたのは、過去の自分の姿。団子を焦がし、芋を爆ぜさせ、仲間に迷惑をかけた場面が次々と浮かび上がる。 「また失敗するんじゃないか……」 心の奥底から不安が湧き上がり、札が震えた。


果林が湯の中から声をかける。 「ユウマ、見て。失敗しても、みんな笑ってくれたじゃない。団子の町でも、芋の村でも」


咲姫はしっぽを湯に浮かべ、くるくると回しながら笑った。 「失敗しても、美味しさは残るのです! 焦げても甘さは消えないのです!」


紗綾は札を胸に抱え、静かに言葉を添える。 「問いの風は、失敗を恐れる心を試している。癒しは、その恐れを溶かすものだよ」


ユウマは幻影に向かって叫んだ。 「僕は失敗する。でも、その度に仲間が支えてくれる。人の優しさがある!」


すると幻影は揺らぎ、湯気に溶けて消えていった。札がかすかに光を放ち始める。


――


だが次に現れたのは、もっと深い幻影だった。 ユウマが一人で立ち尽くす姿。仲間がいない未来の自分。 「もし仲間を失ったら……僕は何もできない」 胸の奥が締め付けられ、札の光が弱まる。


果林は湯から立ち上がり、ユウマの肩に手を置いた。 「仲間はここにいるよ。失敗しても、置いていったりしない」


咲姫はしっぽでユウマの手を包み込む。 「問いの風は、仲間と一緒に吹くのです。ひとりじゃないのです!」


紗綾は札を掲げ、湯気の中で風を起こした。 「癒しは孤独を溶かす。仲間の存在を信じれば、問いは越えられる」


ユウマは涙をこらえながら頷いた。 「……そうだ。僕はひとりじゃない。団子も芋も、温泉も……全部仲間と一緒に味わった」


札が強く光り、幻影が完全に消え去った。湯守の声が響く。 「よくぞ気づいた。癒しの問いを半ば越えたな。残るは心の奥底にある最後の恐れだ」


――


ユウマは深く息を吸い込み、湯気を胸に刻んだ。 「最後の問い……必ず乗り越える」


果林、咲姫、紗綾はそれぞれ頷き、湯気の中でユウマを支えるように寄り添った。 問いの風は、さらに強く吹き始めていた。


湯守の声が再び響いた。 「残るは心の奥底にある最後の恐れだ。癒しの湯は、己の影を映す」


湯気が濃くなり、ユウマの目の前に新たな幻影が現れた。 それは未来の自分――仲間を失い、問いの風を見失い、孤独に沈む姿だった。 「僕は……また失敗して、みんなに迷惑をかけて……最後にはひとりになるんじゃないか」 胸の奥が締め付けられ、札の光が弱まる。


果林が湯から立ち上がり、真剣な眼差しでユウマを見つめた。 「ユウマ、私たちは君を置いていかない。失敗しても、笑って一緒に進むんだよ」


咲姫はしっぽを湯に浮かべ、ユウマの手に絡めるように寄り添った。 「ひとりじゃないのです。問いの風は、仲間と一緒に吹くのです!」


紗綾は札を掲げ、湯気の中で風を起こした。 「癒しは孤独を溶かす。仲間の存在を信じれば、問いは越えられる」


ユウマは涙をこらえながら頷いた。 「……そうだ。僕はひとりじゃない。団子も芋も、温泉も……全部仲間と一緒に味わった。失敗も、仲間と分け合えば温かさになる」


その瞬間、札が強く光を放ち、湯気の中で幻影が完全に消え去った。 湯守は深く頷き、声を響かせた。 「よくぞ気づいた。癒しの問いを越えたな。札場の力は、汝らの旅をさらに導くだろう」


――


温泉町の人々が集まり、ユウマたちを祝福した。 「問いを越えた旅人に、湯の恵みを!」 「次の札場でも、きっと力になるぞ!」


果林は笑顔で答える。 「ありがとう! 団子も芋も温泉も、全部が旅の力になったよ」


咲姫はしっぽを揺らしながら、子どもたちに手を振った。 「また来るのです! 温泉の問いは忘れないのです!」


紗綾は札を胸に抱え、静かに言った。 「癒しの問いを越えた今、次の札場が待っている。旅は終わらない」


ユウマは深く息を吸い込み、温泉の香りを胸に刻んだ。 「行こう。問いの風は、さらに遠くへ導いている」


――


こうして、ユウマたちは温泉町で癒しの問いを乗り越え、次の札場への決意を固めた。 問いの風は、彼らをさらに遠くへと導いていく。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。 ご感想やリアクションのひとつひとつが、 物語の奥にある問いを照らす光となります。 ゆるやかな歩みではございますが、これからも見守っていただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ